第31話

 


 


「あの・・・。」


「本当に可愛いのぉ。名前はなんというのかね?」


「えっと・・・。マーニャとクーニャとボーニャです。」


「そうか、そうか。可愛いのぉ。ふむ。名前はなんといったかね?」


うぅ・・・。


どうしよう。


会話が堂々巡りになってるんだけど・・・。


なんで?


え?もしかして、私の名前を聞かれてるのだろうか・・・。


「えっと、私の名前でしょうか?私はマユと言います。」


「そうかそうか。マユと言うのか。して、この可愛い猫たちの名前を教えてはくれぬかの?」


・・・やっぱりマーニャたちの名前を聞いていたのか。


っていうか、さっきから何度もマーニャたちの名前を教えているのだけれども・・・。


「この子たちはマーニャとクーニャとボーニャといいます。」


「そうかそうか。名前まで愛らしいのぉ。可愛いのぉ。して、名前はなんというのかね?」


・・・あ、ダメだ。これ。


何回、このやり取りを繰り返せばよいのだろうか。


「あっ!!いた!やっと見つけたっ!まおーさま!タイチャンがカンカンだから早く帰って来てくださいっ!!」


お婆ちゃんとの会話が堂々巡りとなってしまい途方にくれていたところに、助け船がやってきた。


やってきたのは黒髪の男の子だ。


見たところまだ10歳前後といったところっだろうか。


可愛らしい丸い目が僅かに吊り上がっているところが印象的だった。


この男の子のお婆ちゃんなのだろうか。


「んー?可愛い子じゃのぉ。名前はなんていうんだい?」


・・・お孫さんと思われる男の子にも名前を聞くだなんて・・・。


知り合いじゃないのだろうか?


男の子はお婆ちゃんのことを知っているように思えたのだけれども。


「・・・まおーさま。ボケが進みましたね。僕はライチャンですよ。タイチャンがまおーさまがいなくなってカンカンなんで早く帰りますよ。あ、チーチャンも探してましたからね!」


「んー?ああ、ライチャンじゃったか。大きくなったのぉ。こないだ会った時はまだ赤ん坊だったのに成長するのは早いのぉ。」


「まおーさま・・・。僕が赤ちゃんだったのは何百年も前ですって。それに昨日もお会いしてます!」


「んー?そうじゃったかのぉ。」


「そうですっ!!」


男の子には私たちの姿が目に入っていないのか、お婆ちゃんと言い合いを始めてしまった。


っていうか、さっきからこの男の子ってば気になる言葉ばかり発しているのだけど・・・。


男の子が赤ちゃんだったのが何百年も前ってことは、この10歳前後に見える男の子は人間ではないのだろうか。


それに、さっきから男の子がお婆ちゃんのことを「まおーさま」と言っているのも気になる。


男の子のお婆ちゃんと思えるのに様をつけて呼んでいるだなんて・・・。


ま、まあ世の中には「おばあ様。」と呼ぶ人もいるからおかしくはないんだけどね。でも、「まおーさま」って何?「まおーさま」って。


まさか、「魔王様」だったりしないよね?


こんなお婆ちゃんが魔王様のはずがないのに、私ってばなんだってそんな風に思ってしまったのだろうか。


でも、まあ。お孫さんらしき人が迎えに来たのだから私、ここから去ってもいいよね。


「あ、ではお迎えが来たみたいなので私たちはこれで失礼しますね。」


さっきまでお婆ちゃんと会話していた手前、黙ってお婆ちゃんたちの前から去るのもはばかられたため、一言声をかけた。


すると、男の子が驚いたようにバッとこちらを勢いよく振り向いた。


「なっ!お前は誰だっ!?いつからそこにいた!?」


「えっ・・・。あなたが来る前からいたけど・・・。」


どうやら男の子は私たちの存在に全く気付いていなかったようだ。


振り向きざまに声を荒げた男の子にいつからいたのかと尋ねれられてしまった。


その男の子の顔は驚愕に満ちていた。


って、言ってもなぁ。


ずっとここにいたんだけどねぇ。


お婆ちゃんと話してたの気づかなかったのだろうか。


まあ、会話って言っても堂々巡りだったけどさ。


「お前!?気配を消していたのかっ!?」


「え・・・?いえ、別に気配を消したつもりは・・・。」


「そんなわけがあるかっ!僕はお前に全く気付かなかったんだからな!!」


「えっと・・・。」


そうは言われても気配を消した覚えは全くありません。


マーニャ達は男の子の大声にビクッと驚いて私の後ろに隠れてしまっている。


もしかすると、この男の子はマーニャたちの存在にも気づいていないのだろうか。


「気配を消せるなんて只者ではない!!なんのためにここにいるのか吐け!!」


「えっと・・・。気配を消した覚えはありません。ここにいる理由は人から頼まれてある人に会ってくるように言われたからです。」


まさか、女王様に頼まれて魔王に会いに行く予定です。なんて言えるはずもなく、詳細を隠して男の子に伝える。


嘘は言っていない。


詳細を言っていないだけで。


それに普通の人に「魔王に会いに行く予定です。」なんて言うのも頭がおかしいのかと言われてしまいそうだしね。


まあ、この男の子本当かどうかわからないけれども数百年以上生きているらしいからもしかしたらその辺達観しているかもしれないけれど。


魔王に会いに行くと言わなくていいのならば、言わないに越したことはないだろう。


「そうか。なら、さっさとここから去るがいい。」


「え、あ、はい。」


あんまりの剣幕だったから、詳細を根掘り葉掘り聞かれるのかと思ったが、そんなことはなかった。


男の子は私の回答を聞くと、私に興味を無くしたようでさっさと行くようにと告げてきた。


男の子の勢いから行くともっと問い詰められるのを覚悟していたんだけど、どうやら杞憂だったようだ。


なにはともあれ、さっさと行けというのだからさっさとここから去ることにしよう。


なんだかこのお婆ちゃんと男の子と一緒にいても話は全く通じなさそうだし。


「マーニャ、クーニャ、ボーニャ行こう。」


私は男の子から視線をずらし、私の陰に隠れているマーニャたちに声をかけた。


『うん!』


『早く行くのー。』


『さっさと行くのー。』


男の子の大声に驚いて隠れていたマーニャたちだが、もう大丈夫だと判断したようで元気に返事を返してくれた。


そんなわけでお婆ちゃんと男の子に背を向けて、魔族の城に向かうために一歩足を踏み出した。


「・・・お前ら、ちょっと待て。」


そんな私たちの背に向かって男の子が再び声をかけてきた。


いったい何なんだろう。


先ほどよりも低い声が男の子が怒っているのではないかと感じる。


行ってよかったのではないのだろうか。


そう思って私たちは男の子の方に振り向いた。


お婆ちゃんはにこにこと笑って私たちを見ていたが、男の子はまったく笑ってはおらずこちらを睨みつけていた。


 


 


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