第19話

 


「エーちゃん。あのね。ちょっと話を聞いてもらえるかな?」


翌日、朝起きるとエーちゃんの姿を探す。


今日はビーちゃんがここに来る予定なのだ。


エーちゃんと和解をするために。


それをまだエーちゃんには説明していない。


「どうしたんですか?」


昨日のプーちゃんの言葉が影響しているのか、エーちゃんは私に対してどもらなくなった。


エーちゃんは朝食の準備をするために厨房にいた。


いつからエーちゃんは起きていたのだろうか。


厨房の中にはすでに美味しそうな匂いが充満していた。


「あ、料理中だったんだね。」


料理中にビーちゃんのことを話して動揺させてしまったらエーちゃんが怪我をするかもしれない。


そう思い至った私は料理が完成するまで待つことにした。


もしかしたらエーちゃんを動揺させてしまったらエーちゃんの美味しい朝食が食べられなくなるかもしれないなんて打算ではない。決して。


「もうちょっとで出来上がりますので待っていてくださいね。」


「ごめんね。料理までさせちゃって。何か手伝えることはある?」


素早く動くエーちゃんの邪魔にならないように厨房の端っこに移動して尋ねる。


エーちゃんの手際がとてもいいから勝手に手伝ったりしたら邪魔をしそうで怖かったのだ。


「んー。そしたら、そこのテーブルに出来上がった料理があるので運んでください。部屋じゃなくて食堂でいいですよね?」


「うん。食堂でいいよ。部屋にテーブルを用意するのも二階まで運ぶのも大変だしね。皆には食堂に集まるように伝えておくね。」


「ありがとうございます。」


エーちゃんに言われたテーブルを確認するとすでに料理の皿がいくつも出来上がっていた。


4つずつあるところを見ると、これはプーちゃんとタマちゃんとマリアと私の分だろうか。


美味しそうな焼き魚を主体とした和食だ。


これに小鉢までついている。


実に美味しそうだ。


私はそれをお盆に乗せ、エーちゃんが昨夜使っていたカートに乗せると落とさないようにカートをガラガラ動かしながら食堂に向かった。


そうして、食堂のテーブルに一つずつ並べていく。


全て並べ終わったところで再び空のカートを押して厨房に戻る。


「エーちゃん。並べ終わったよ。」


「ありがとうございます。こちらももうすぐ終わりです。」


「それは、もしかしてマーニャたちの分かな?」


「はい。マーニャたちの分です。」


エーちゃんがマーニャたちのために用意してくれているのは、ささみをベースとしたご飯だった。


何が入っているんだろうか?


「トマトを少しいれてみたんです。好き嫌いがあるかもしれないから、少しですけど。にゃんこも少しは野菜を食べた方がいいですよ。」


「そうだね。でも、食べられない野菜もあるから気をつけないといけないね。」


「はい。にゃんこって以外と食べられるものが少ないんですよねぇ。」


本当。猫って以外と食べられるものが少ないんだよね。


だから、犬と違って手作りご飯を作るのも大変。


それなのにエーちゃんは手早くマーニャたちのご飯を作っていてすごいな。


思わず関心してしまう。


それだけ、猫のことが好きなのかな。


「じゃあ、みんな呼んでくるね。」


「はい。朝食にしましょう。」


 エーちゃんがマーニャたちのご飯を運んでくれるというので、私はまだ部屋で寝ているであろうプーちゃんたちを起こしにむかう。


階段を登っていると、


「きゃあああああああああああ!!!!」


という、エーちゃんの悲鳴が聞こえてきた。


「エーちゃんっ!?」


私は2階へ行くのをやめて、エーちゃんが向かったと思われる食堂に向かう。


エーちゃんになにがあったのだろうか。


あんなに悲鳴をあげるだなんて。


まだ食堂は営業していないはずで、玄関の鍵もかけてあるはずだ。


外部の人は入れないはずなのに。


「エーちゃんっ!?どうしたのっ!!」


食堂に勢い良く飛び込めば、そこにはエーちゃんがいた。


そうして、マーニャとクーニャとボーニャも一緒にいた。


「だ、ダメっ!焼き魚は塩が効いてるからにゃんこは食べちゃダメなの!!」


『お腹すいたのー。これ、美味しそうなのー。』


『食べたいのー。ちょっとくらいダメ?』


『食べるのー。』


「ダメっ!ダメなの!!にゃんこたちのご飯はこっちなの!!」


どうやら、マーニャたちは私たちの朝食である焼き魚の匂いに釣られて食堂に下りてきていたようだ。


それで、ちょうどエーちゃんに見つかったと。


「マーニャ、クーニャ、ボーニャ。焼き魚は塩分が強いからだめだよ。あんまり塩分の多いものを食べると病気になっちゃうよ?」


エーちゃん一人だと大変そうなので、私もそこに加わる。


そうして、今にも焼き魚を食べようとしていたボーニャを抱き上げた。


『やー。マユ離すのー。』


ボーニャはいやいやと身体をくねらせる。


「だーめ。ボーニャにはエーちゃんが用意してくれた特製のご飯があるからそっちね。」


『むーーーーっ!!』


おおっと。


焼き魚が食べられなくてマーニャたちはご機嫌があまりよろしくないようです。


困ったなぁ。


「マーニャ、クーニャ、ボーニャ。はい、これ美味しいとおもうよ。こっちを食べてね。」


エーちゃんが特性にゃんこご飯をマーニャたちの前にサササッと並べる。


そこから立ち上る美味しそうな匂いにマーニャたちの鼻がピクリッと動いた。


「ほら、おいで。」


『エーちゃん!!』


『良い匂いなのー。』


『マユ!離すの!!』


美味しそうな匂いに誘われてマーニャたちが自分達のご飯にまっしぐらに突進する。


よかった。


どうやら私たちの焼き魚は死守できたようである。


「おはよー。マユ。早いわね。」


『腹が減ったのだ。』


『うるさいのぉ。目が覚めてしまったのじゃ。』


ホッとしていると二階からマリアたちがやってきた。


この騒々しさにどうやら目が覚めたようである。


でも、ちょうどよかった。


ご飯が冷めないうちに起きてきてくれて。


「みんな、ご飯を食べよう。」

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