第18話

エーちゃんが用意してくれた部屋は10畳くらいの和室だった。


こちらの世界での和室は珍しいのではないのだろうか。


マコトさんの家で見たくらいなんだけど。


それも、マコトさんは実は私の叔父だったってこともあり、日本人だったから和室を作ったのかなと思ったんだけど。


まさか、エーちゃんも元は日本人だった。なんて、ことはないだろうね?


あー、でもそれはないか。


だって、エーちゃんはプーちゃんとタマちゃんが造り出した存在なんだから。


ん?


・・・あれ?


ちょっと待て。


タマちゃんが造り出した存在?


え?


タマちゃん、なんで前髪パッツンなの?


なんで着物を着てるの?


なんで黒髪なの?


え?


あ、あれ?


タマちゃんはプーちゃんが造り出した存在だって言ってたよね?


あれ?


え?もしかして・・・。


プーちゃん、もしかして元日本人だったりする?


いや、まさかね。


うん。まさかだよね。


「マユ?どうしたの?」


「ど、どどどどどどどどどうしたんですか?も、ももももももしかして、この部屋気に入りませんでした?」


エーちゃんがシュンと項垂れる。


どうやら私が部屋が気に入らなかったと思って落ち込んでいるらしい。


「ち、違うの。エーちゃんごめんね。そうじゃなくてね、珍しい造りの部屋だからビックリしたの。それに、私の故郷の部屋に造りが似ていたから。」


エーちゃんが目に見えて落ち込んでいるので、慌てて私が呆けていた理由を説明する。


すると、エーちゃんの顔が驚きに染まった。


「マユさんは、始祖竜様のご家族なんですか?」


「へ?」


というか、エーちゃんがどもってない!


いや、でも、なぜ私がプーちゃんの家族になるのだ。


まあ、確かにこっちに来てからずっと一緒にいるけれどもさ。


「始祖竜様は言っていました。家族がほしいと。そして、始祖竜様の脳裏にはこの和室と呼ばれる部屋の造りが産まれた時から脳裏にあったと。」


「・・・え?」


まさかエーちゃんからプーちゃんの話が聞けるとは思ってもみなかった。


そして、エーちゃん。普通に話せるんじゃん。


『エーちゃんよ。その話はそれでおしまいなのだ。我は産まれた時から独り。家族などおらんのだ。』


プーちゃんが急に姿を現した。


そして、そう言うと静かにエーちゃんの隣にとぐろを巻いて落ち着いた。


「し、ししししししし始祖竜様っ!?聞いてらしたんですかっ!?そ、そそそそそそそんな・・・。」


『別によいのだ。エーちゃんよ。そんなに気を張らなくてもよい。マユはエーちゃんのことを嫌うような性格でもなければ、疎ましく思うような性格でもない。マユは底無しのお人好しだからな。安心するのだ。』


長い髭を器用にくねらせてエーちゃんの頬を撫でるプーちゃん。


どうやらエーちゃんのことをなだめているようだ。


というか、底無しのお人好しって誉められているのか、けなされているのか微妙なところだ。


「私・・・怖いんです。ビーちゃんは私のこと嫌いだって。消えろって言ったんです。それから、私じゃない誰かと一緒にいるのは心が休まらなくって。何か言ったら怒られるんじゃないか、嫌われるんじゃないかって思ったら、言葉がうまくしゃべれなくなってしまって・・・。」


おおおおお。


急にエーちゃんがしゃべりだしたぞ。


っていうかエーちゃんがどもってしまうのはビーちゃんが原因か・・・。


まったくなんだかなぁ。


でも、エーちゃんってほんと可愛い。


嫌われたり疎まれたりするのが怖くて普通にしゃべれなかっただなんて。


こんなに可愛いエーちゃんを嫌いになれる人なんているわけが・・・あー、ビーちゃんがいたか。


いや、でもビーちゃんも正確にはエーちゃんのことは嫌いじゃなかったんだから。というか、むしろヤキモチを焼くくらい好きなようだから嫌いってわけではないか。


「マユさんは、本当にこんな私と友達でいいんですか?」


エーちゃんは上目使いで尋ねてくる。


というか、上目使い反則です!


ただでさえ可愛いエーちゃんがもっと可愛く見えてしまうではないか。


「もちろんだよ。エーちゃんは私の友達だよ。」


私はにっこり笑ってエーちゃんに告げる。


うん。エーちゃんは友達。


ちょっと、いやかなり種族も地位も違うけど、それでも友達。


「よかった。」


エーちゃんは私の【友達】という言葉を聞いて安心したように笑った。


うんうん。


笑ったエーちゃんの顔はさらに可愛いね。


『むっ!マユばっかりエーちゃんとお話しないの!』


『私もエーちゃんとお話するの!』


『エーちゃん。ボーニャもエーちゃんの友達だよ?マユだけじゃないの。』


エーちゃんと笑いあっていたら、マーニャたちが割り込んできた。


さっきまで私たちそっちのけでどの布団が一番寝心地がいいか一つずつ確認していたのに。


「うん!マーニャ様もクーニャ様もボーニャ様も友達!」


ま、いっか。


エーちゃんが笑顔だから。


『様はなしでいいの。』


『エーちゃんは特別なの。』


『ボーニャでいいの。』


どうやらマーニャたちはエーちゃんに呼び捨てで呼んでもらいたいらしい。


っていうか、クーニャのエーちゃんは特別なの発言に私はちょっと傷ついた。


クーニャ。私もクーニャの特別かな?特別だよね?


そんな感じで王都に関する話題は出ることもなく夜は更けていくのだった。




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