第14話

 


「エーちゃん、ただいまー。」


エルフの里から戻るとエーちゃんは既に目覚めていた。


「あ、ああああああああの・・・お、おおおおおおお帰りなさいですぅ・・・。」


エーちゃんが経営している食堂のドアを開けるとエーちゃんが出迎えてくれた。


今回はエーちゃんが姿を隠さずに、ドアの前まで来てくれていた。


なにこれ。


エーちゃんすっごく進歩したような気がする。


エルフの里に行くまで姿を見せたくないとばかりにテーブルの下に隠れてばかりいたのに。


「み、みみみみみ皆さんが、え、ええええええエルフの里に行ったと・・・。わ、わわわわわわわ私、皆さんのことが、心配で心配で心配で・・・。」


エーちゃんはそう言って右手で自分の目元をゴシゴシと拭った。


どうやら私たちのことが心配で、泣いてしまったようである。


「ご、ごめんね。大丈夫だったからね。何にもなかったからね。」


「うっ・・・うっ・・・。と、ととととととと特に、にゃんこたちが・・・にゃんこたちが心配で心配で心配で・・・。あ、ああああああいつ、にゃんこ大好きだからっ・・・だからっ・・・あいつににゃんこたちを取られてしまうんじゃないかって・・・。にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃにゃんこたち、無事ですよね?無事ですよね?」


常にないほどしゃべるエーちゃん。


そっか。いつもはテーブルの下に隠れてしまっているエーちゃんはマーニャたちがビーちゃんに取られないか心配だったんだね。


マーニャたちはエーちゃんのものでもないけどね。っていうツッコミはしてもいいのだろうか。


「あー、マーニャたちは無事だよ。マーニャたちちょっと出てきてエーちゃんを安心させてくれるかな?」


『いいのー。』


『ミルク欲しいのー。』


『わかったのー。』


私の問いかけにマーニャたちが応えてタマちゃんの空間からぴょんと降り立った。


っていうか、クーニャ。またミルクのことばっかり・・・。


「わわっ!!にゃにゃにゃにゃんこなのーーーーー!!!」


マーニャたちがエーちゃんの前に姿を現すとエーちゃんは目をキラキラと輝かせた。


本当にエーちゃんってばマーニャたちが好きなんだと感じる。


うん。


今度はテーブルの下に隠れてなかったから頭をぶつけなかったようだ。


それに、椅子の上に寝ていたわけでもないから床に転がることもなく、頭をぶつけていないようなので意識も失っていない。


「にゃんこ・・・。にゃにゃにゃんこ・・・・。にゃんこ。にゃんこにゃんこ。」


「え、エーちゃん・・・?」


エーちゃんは頭を今回はぶつけなかったんだけれども、なんだか目がいっちゃっているような気がする。言動もだけど・・・。


エーちゃん、目の前で手をワキワキ動かさないでくれるかな?怖いから。


エーちゃんの手はマーニャたちをモフりたいのか何かを揉みこむように動いていた。


「にゃんこにゃんこ・・・。モフモフにゃんこ。にゃんこにゃんこにゃんこにゃんこにゃんこなのーーーーーーーっ!!!」


エーちゃんはそう叫ぶと、マーニャたち向かって飛び掛かった。


『にゃっ!?』


『えっ!?』


『いやーん!?』


マーニャたちは急に飛び掛かってきたエーちゃんから逃げるように素早くその場から逃げた。


そうして、私の足にがっしりと捕まっている。


ああ、ふくらはぎにあたる肉球の感触が何とも言えない至福を私に与えてくれる。


って、言ってる場合じゃなかった。


エーちゃんに襲われそうになって私の足元に隠れているマーニャたちを見ると、尻尾をぶわっと毛羽立たせている。


どうやらとても興奮しているようだ。


「ど、どどどどどどどどどーして逃げるのーーーーーーっ!!!」


どうやらエーちゃんも興奮しているようである。


マーニャたちがサッと逃げたことでショックを受けたようでその場にうずくまって泣いている。


それはもう盛大に泣いている。


「エーちゃん。猫はね、急に飛び掛かられたらビックリしちゃうんだよ。猫にはね、優しく接してあげないとダメだよ?」


泣いているエーちゃんに向かって優しく教える。


本当はエーちゃんの傍に行ってエーちゃんと同じ目線になって言った方が効果はあるんだけれども、マーニャたちが私の足にかじりついているので身動きが取れなかったのだ。


そのため、ちょっと離れた場所から告げた。


ってさ、この流れ何度目だ・・・?


なんだか、エーちゃんもビーちゃんも似た者同士なような気がするんだけど・・・。


案外、仲良くなってしまえばエーちゃんとビーちゃんの相性ってすっごくいいんじゃないかと思う。


まあ、ビーちゃんはエーちゃんのためにプーちゃんとタマちゃんが用意した相手だしね。


「・・・優しく?」


エーちゃんに私の声が聞こえたのか、エーちゃんは泣いて俯いていた顔をそっと上げた。


エーちゃんと私の視線ががっちりと交差する。


涙にぬれたエーちゃんの瞳に僅かな希望がやどった・・・ような気がした。


「そう、優しく。ゆっくりと近づいて猫と同じ目線になって。いきなり触ったりせずにまずは優しく声をかけてみて?」


「・・・うん。」


エーちゃんは私の言葉に素直に頷いた。


そうして、マーニャたちと同じ目線になるように四つん這いになってから、ゆっくり、ゆっくり、ゆーーーーーーっくりとマーニャたちに近づいていく。


まるでスローモーションを見ているようだ。


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。


「ふわぁ~~~~~。」


エーちゃんを見ていたら思わず欠伸が出てしまった。


いや、だってさ。


確かにゆっくりとマーニャたちに近づけって言ったけどさ、エーちゃん本当にゆっくりなんだもん。


本当にスローモーションを見ているような、もしくはコマ送りしているような感じなのだ。


本当にゆっくり。


マーニャたちまで2mも離れていないはずなのに一分待ってもまだエーちゃんは1mも進んでいない。


いつになったらエーちゃんはマーニャたちに触れるんだろうか。


「エーちゃん。なにもそんなにゆっくりじゃなくても・・・。」


何も言わずにエーちゃんを見守っていようと思ったが3分を過ぎたところで私が限界を感じてエーちゃんに声をかける。


「えっ!?」


と、私の言葉にエーちゃんが視線をこちらに向けた。


 


 


 


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