第15話
うるうるとしたエーちゃんの瞳に思わず「うっ・・・。」と、声が出てしまった。
まさか、泣きそうになるとは思わなかったのだ。
「あ、あはははは。うん、エーちゃんの思う通りにやってみて。優しくゆっくりとね。」
これ以上余計なことを言ってエーちゃんを混乱させても仕方がないので、【優しく】と【ゆっくり】を強調して伝えた。
この二つを守れば滅多なことはおきないだろう。
エーちゃんは、そぉっとマーニャに近づくと、マーニャの視線に合わせて体制を低くしてニッコリと笑った。
「えへっ。えへへへへへ。えへへへへへへへへへへ。にゃんこが逃げないのーーーーー。」
エーちゃんは嬉しそうに小さな声ではしゃいでいる。
大声を出したらマーニャたちが逃げると思っているらしい。まあ、大声だしたら逃げるだろうけど。
『エーちゃん。ミルクちょうだい?』
マーニャたちはエーちゃんの様子を黙って見つめていたが、クーニャが一番最初にエーちゃんに自ら話しかけた。
っていうか、クーニャよ。
まず最初の言葉がそれかいっ!ってツッコミたい。
エーちゃんはクーニャに話しかけられたことがとっても嬉しかったようで、頬を真っ赤に染めて潤んだ瞳でクーニャを見つめていた。
「わわっ。わわわっ。わわわわわっ。は、はははははは話しかけられちゃった。」
エーちゃんは頬に手を当てて嬉しそうに笑っている。
『ねえ、ミルクーちょうだいなのー。』
クーニャはミルクを強請ったのに、なかなかミルクが提供されないことに少し残念がっているようだ。
ペタンッと尻尾が地面に垂れてしまっている。
「はっ!ミ、ミミミミミミルクだね!すぐに用意するね!」
『ありがとうなのー。』
『私はささみが欲しいの。』
『私はおさかながいいな。』
エーちゃんがミルクを用意すると言ったら、ボーニャとマーニャまでおねだりをし始めた。
まったくこの子たちは食い意地が張っている。
エルフの里に行く前にご飯を食べたはずなのになぁ。
「あ、料金は払いますので。この子たちに出すのはミルクは乳糖を分解したものでお願いします。ささみとおさかなについては火を通しただけで塩や砂糖などの調味料は使用を控えていただければと思います。」
エーちゃんが慌てて厨房にかけていきそうだったので、私はエーちゃんの背中に向かってそうお願いした。
注文が多いかと思うが、猫のためを思ってのことだ。
過分な塩分は猫にとって毒となる。
「・・・乳糖?・・・分解?ふ、ふふふふふふふ普通のミルクとどう違うんですか???」
おっと。
どうやらエーちゃんは猫用のミルクのことを知らなかったようだ。
そうだよね。
猫好きでも猫を飼っていたりしないとわからないよね。
「猫には乳糖を分解するラクターゼという酵素が少ない子が多いんです。そのため、普通のミルクだと消化吸収できなくてお腹を壊してしまうんです。個体差はあるんですけどね。もしくはヤギのミルクってありますか?ヤギのミルクだったら乳糖が少ないのでお腹を壊す心配があまりありません。」
「はにゃにゃ・・・。そ、そそそそそそうなんですね。知りませんでした。ご、ごごごごごごめんなさい。乳糖を分解したミルクは用意がないので、ヤギのミルクにさせていただきますね。にゃんこたち。ちょっと待っててくださいね。」
エーちゃんはそう言うと急いで厨房に入っていった。
うん。
厨房に入っていくときのエーちゃんは本当に素早い動きだった。
目で追うのがやっとなほどだ。
意外とエーちゃんって戦闘能力が高いかもしれない。
『ミルク~。ミッミッミルク~。』
エーちゃんのどもりが移ったのか、クーニャが歌うようにミルクミルクと言っている。
尻尾をゆらゆらと左右にゆったりと揺らしているところを見るとご機嫌なようだ。
マーニャとボーニャも同じように尻尾をゆらゆらと左右に揺らしている。
こちらもご機嫌のようだ。
『にゃっ!!いい匂いなのー。』
『本当なのー。』
『美味しそうなのー。』
しばらくして、厨房からは美味しそうな匂いが漂ってきた。
流石素材の味を活かすのが上手いエーちゃんだ。
なんの匂いかはわからないけれども、とてもお腹が空いてくるようないい匂いがしている。
『楽しみなのー。』
『早くこないかなー。』
『にゃ~。』
わくわくしながら自分たちが所望した料理を待つマーニャたち。
その顔は期待に満ち溢れているようだ。
「お、おおおおおおおおおお待たせしましたーー。」
しばらくして、エーちゃんがカートにマーニャたちがリクエストした料理を乗せて運んできた。
全部で9個の可愛らしいお皿が乗っている。
どうやらそれぞれが所望した料理を3猫前用意してくれたようだ。
エーちゃんってば気が利くなぁ。
マーニャたちの前にそれぞれ小さ目のテーブルが置かれる。
「あれ?エーちゃんのところ猫様のテーブルあったの?」
猫用のテーブルのようだったから、エーちゃんのところにあったことにビックリして思わず確認してしまった。
「えへっ。い、いいいいいいいいいつか、にゃんこたちにこのお店に来ていただくために5つほど用意しておいたんです。初めて使用するんです。」
エーちゃんは照れくさそうに頬を指で掻いた。
「そ、そうなんだ。よかったね、マーニャたち。」
どうやら来るか来ないかわからない猫たちのためのテーブルだったようだ。
しかも今まで使用したことがなかったとか。
よかった。
どこかの誰かさんみたいに不要なものを買い込んで物置にしまっておくだけにならなくて。
エーちゃんは手際よくテーブルの上にミルクとささみと川魚を調理したお皿を乗せていく。
どれからも食欲を誘う匂いが漂っていた。
『美味しそうなのー。いただきますなのー。』
『いただきますなのー。』
『いただきますなのー。』
マーニャたちはそう言ってエーちゃんが用意してくれた食事を食べ始めた。
もちろんクーニャはミルクからだ。
マーニャとボーニャもそれぞれ自分が所望したものをまず最初に食べ始めている。
そうして、マーニャたちがそれぞれ一口口に入れた。
一瞬だけマーニャ達の動きが止まったかと思うと、次の瞬間お皿が壊れてしまうのではないかというほどの勢いでがっつき始めた。
どうやらマーニャたちの口にあったようだ。
マーニャたちはそれぞれ、自分に割り当てられた食事を食べ終わると満足そうに口元を可愛らしい舌で熱心に拭っていた。
『美味しかったのー。』
『最高なのー。』
『幸せなのー。』
「あ、あああああああありがとうございますぅ~~~~~。」
エーちゃんは念願の猫たちに自分の手料理を食べてもらうという願いが達成できて興奮気味に叫んだ。
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