第9話

『なんじゃ、マユ。うるさいのぉ。大きな声など出しおって。なんなのじゃ?』


『鼓膜が破れるかと思ったのだ。』


プーちゃんもタマちゃんも五月蝿そうに耳をふさいだ。


エー様も顔をしかめているようにみえる。


ガー様は、先程のプーちゃんの圧力によりテーブルに突っ伏したままだ。


「エー様!!」


『『エー様?』』


エー様の名を呼ぶと皆がそれは誰だというように首を傾げた。


まあ、みんなエーちゃんって呼んでいるしね。


でも、エー様はエルフの王様なのだから、気軽にちゃん付けで呼べない。


だから、エー様なのだ。


「エーちゃんのことよ。エルフの王様なんだから、ちゃんじゃなくて様がいいかと思ったの。」


「え、えええええっとぉ・・・わ、わわわわわわわ私のことはエーちゃんでいいですよ?」


エー様は遠慮をしているのか、そう言って首を横に勢いよく振っている。


そんなに高速で首を振って眩暈を感じないのだろうか。


「でも、私の精神衛生的によくないからエー様って呼ばせてください。」


にっこり笑ってエー様に告げると、エー様は小さく震えながらもコクりと頷いた。


「でも、マユってば精霊王のことも始祖竜のこともタマちゃんとかプーちゃんとか威厳もへったくれもない呼び方してるけど・・・。それはいいの?」


「ふぐっ・・・。」


マリアから意外な突っ込みが入った。


そうだった。


プーちゃんもタマちゃんもエー様より位は上なんだよね。


エーちゃんのことをエー様と呼ぶならば、タマちゃんのことをタマ様、プーちゃんのことをプー様と呼ばなければならないのか?


・・・。


・・・・・・。


ダメだしっくりこない。


やっぱりプーちゃんはプーちゃんでタマちゃんはタマちゃんなんだよなぁ。


『我のことはプー様と呼べ。』


『妾のことはタマ様と呼ぶのじゃ。』


ニヤニヤと笑いながら言ってくるタマちゃんとプーちゃん。


そのニヤニヤ笑いがなんだかムカついてきた。


「し、ししししし始祖竜様とせ、せせせせせせ精霊王様を差し置いて様付けで呼ばれるのは、わ、わわわわわわわ私の精神衛生的によ、よくありませんっっっっ。」


マリアの発言を受けてエー様がみょんみょんと首を横に振ってきた。


うぅ。


じゃあタマ様にプー様って呼ばなきゃいけないの?


「プー様。タマ様。」


練習がてら二人の名前を呼んでみる。


ダメだ。


やっぱりしっくりこない。


タマちゃんもプーちゃんも苦虫を噛み締めたような顔をしているし。


『・・・タマちゃんで良いのじゃ。』


『プー様は嫌なのだ。』


どうやら二人も微妙だったようだ。様付けを拒絶してきた。


でも、そうなるとエルフの王様であるエー様をエーちゃんと呼ばなければいけないのかな。


「あ、あのエー様。」


そう呼ぶと、エー様がテーブルの下にもぐりこんでしまった。


やはりよろしくないらしい。


「・・・エーちゃん。」


そう呼べば、そろりとテーブルから姿を現すエー様。


うん。


もうこの際エーちゃんでいいよね。もう。


疲れたもん。


「エーちゃん。その問題のエルフはプーちゃんとタマちゃんが合同で作成したエルフなんだから、エーちゃんが謝ることはないんだよ。プーちゃんとタマちゃんのせいなんだから。」


「そ、そそそそそそそそんなことは・・・。し、ししししし始祖竜様と、せ、せせせせせせせせせ精霊王様のせいなんかでは・・・。そ、そそそそそそれはちょっっっっっとは、思ったりなんかは・・・・・・あ、いえ。な、ななななななんでもありません。き、ききききき聞かなかったことにしてくださぁぁぁぁいっ。」


そう言ってエーちゃんはテーブルの下にまた潜り込んでしまった。


なんだ、やっぱりエーちゃんもプーちゃんとタマちゃんのせいだって思ってたんだね。よかったよかった。


「タマちゃん、プーちゃん。」


私はエーちゃんから視線を外してプーちゃんとタマちゃんに向き直る。


『なんじゃ?』


『怖い顔してどうしたのだ?』


私が真剣な表情をしていることに、タマちゃんとプーちゃんは首を傾げた。


二人とも身に覚えがないらしい。


「プーちゃんたちが作成したエルフのことです。ちゃぁんと今度は封印ではなくやっつけてください。またエーちゃんが困っちゃうよ!」


『ほぇ?あやつかのぉ。』


『でもなぁ、せっかく我らがエーちゃんの伴侶にと思って用意したのだが・・・。』


って、プーちゃんにタマちゃんってば!


エーちゃんの伴侶として作成したのかいっ!


それにしてはエーちゃんたちエルフに迷惑ばかりかけているようだ。


エーちゃんの伴侶としてはダメダメなのではないだろうか。


『あやつにはお灸もすえたしのぉ。ちょっと話を聞いてみようかのぉ。』


『そうだな。もしかしたら、改心しているかもしれないのだ。』


どうやらプーちゃんとタマちゃんは我が子に甘いらしい。


ってさぁ、既にエーちゃんがエルフの集落から逃げてきちゃってるんだから、改心していないと思うんだけどな、私は。


『説得に行ってくるのだ。』


『うむ。任せたのじゃ。プーちゃん。』


「えっ!?タマちゃんは行かないの!?」


『タマちゃんも来るのだ!!』


『嫌なのじゃ。妾もあやつは苦手なのじゃ!!』


『我だって苦手なのだ!!』


ああ・・・。プーちゃんとタマちゃんが喧嘩をはじめてしまった。


ってさあ、二人とも苦手な相手をどうしてエーちゃんの伴侶にしようと思ったのだろうか。まったく。


エーちゃんにとってはいい迷惑だろうに。


『うるさいの!!マユ、お腹すいたのー!』


プーちゃんとタマちゃんが喧嘩をしていると、空腹に堪えかねたマーニャがタマちゃんの空間から飛び出してきた。


そうして、私のそばにピョンっと跳んできた。


『マユ、ご飯ちょうだいなのー。』


「そうだったね。もうご飯の時間だったね。ちょっと待っててね。」


マーニャの頭を撫で撫でしながら、エーちゃんの方を向いた。


ここは食堂だから、もしかしたらマーニャたちのご飯を作ってもらえるかもしれないと考えてのことだ。


レコンティーニ王国から支給されている猫様用のご飯もいいけれども、出来立てを食べさせることができるのならばその方がいいだろう。


「・・・エーちゃん?」


そう、思ったのだが、エーちゃんの様子がどこかおかしかった。

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