第8話


「お知り合い・・・ですか?」


私は意をけっしてタマちゃんとプーちゃんに問いかける。


『うむ。エルフのエーちゃんだ。』


「へ?」


『だから、エルフのエーちゃんだ。』


「は?」


『物わかりが悪いな、マユは。この者はエルフのエーちゃんと言う者なり。』


「ほ?」


エルフのエーちゃんという名前なのはわかった。


っていうか、エーちゃんって渾名だよね?確実に。


もしかして、プーちゃんエーちゃんの本名覚えてないとか?


あり得るな。


だってプーちゃんだもの。


『プーちゃんよ。それではマユはわからぬのじゃ。エーちゃんはのぉ、エルフ族の王なのじゃ。そして、エルフの始まりの祖でもあるのじゃ。』


「ほぇ?」


ダメだ。


タマちゃんの説明もよくわからない。


エーちゃんがエルフの王様?


エルフの始まりの祖ってどういうこと?


理解が追い付かない。


『マユはおつむが弱いのかのぉ。つまりじゃ、エーちゃんはエルフの中で一番偉いのじゃ。そして、エーちゃんはプーちゃんが作ったエルフなのじゃ。』


「ふぁっ!?」


や、やっと理解が出来たぞ。


エーちゃんはエルフの中で一番偉いってことなんだね。


っていうか、プーちゃんが作ったから始まりの祖なのか。


んにゃ?


そうするとエーちゃんって何歳!?


「は、始まりのエルフだとっ!!!?」


それまで大人しく話を聞いていたガー様が突然叫びだした。


『うむ。そうだが。』


「こんなちんちくりんエルフが、始まりのエルフだとっ!!!?信じられん!!!」


あー、ガー様。


それ、言っちゃダメなやつ。


さっきもそれで怒られたんだから、学習しようよ。私に言われたくないこもしんないけど。


『ほぉ。我が端正込めて作ったエーちゃんをちんちくりん呼ばわりとは・・・。お主よい根性をしてとるのぉ。』


ほら。プーちゃんが殺気だってしまった。


このあとの展開は押して知るべし。


まあ、さっきと同じことが繰り返されました。


「し、ししししし始祖竜様のおっしゃるとおりにございまするぅぅぅ。」


エーちゃんが震えながら言った。


てか、エルフの王様なんでしょ?こんなしゃべり方で大丈夫なのかな?


人見知りも激しそうだし。


『うむ。エーちゃんは可愛いのだ。』


「きょ、恐悦至極にございまするぅぅぅ。」


『はっはっはっ。』


プーちゃんは何が面白いのか、思いっきり笑った。


「ところで、エーちゃんって本名はなんて言うの?」


さっきから渾名で呼んでいるようなので聞いてみる。


『うむ?なんだったかのぉ。』


すぐに思い出せないのかプーちゃんが考え込んでしまった。


『エルダードラゴンじゃ。』


するとタマちゃんが教えてくれた。


・・・ってそれ、ぜったい違うでしょ。


『ん?違うとおもうぞ。たしか、エンシェントドラゴンだったような・・・。』


っておい!プーちゃんそれもぜったい違うと思う。


『なんかしっくりこないのぉ。エンカウントドラゴンじゃったか?』


続いてタマちゃん。


どうやらエーちゃんの名前をプーちゃんもタマちゃんも覚えていないようです。


「どの名前もドラゴンってついている時点で違うと思うんだけど。ドラゴンっていったら竜だよ?エーちゃんすみませんがお名前を教えていただけますか?」


「・・・誰も私の名前を覚えてないのですね・・・。」


エーちゃんは、寂しそうに呟いた。


でも、エーちゃんもどうやら名前を教えてくれそうにない。


もしかして、エーちゃんも自分の名前を覚えていないってことはないよね?


まさかね。


もう誰もエーちゃんの本名を覚えていないようだから、私もエーちゃんと呼ぶことにした。


相手はエルフの王様だけど。


あれ?そしたら、エー様と呼んだほうがいいのかな?


『のぉ、エーちゃん。なぜ、こんなところで食堂を開いておるのじゃ?お主はエルフの王じゃろ?』


タマちゃんが至極まっとうなことをエー様に訊ねる。


「せ、せせせせせせ精霊王様。わ、わわわわわ私は趣味でこの食堂を・・・。でも、先日、私の村が襲われて側近たちが私だけ逃がしてくれたのですぅぅぅぅ。うぇぇぇ~~~~~ん。」


あ、なにやら訳ありだったようだ。


エー様急に泣き出してしまった。


『うっ・・・。エーちゃんよ、泣くでない。なにがあったのか説明してくれぬか。』


泣き出してしまったエー様に、おろおろとするプーちゃん。


相変わらずプーちゃんは泣いている相手に弱いようだ。


まあ、エー様は見た目もとっても可愛らしいからなぁ。


プーちゃん可愛いものが大好きだし。


「い、いいい一週間くらい前のことですぅぅぅ・・・。わ、わわわわ私たちの集落で精霊王様のお力により封じ込められていたあのエルフが、い、いいいいいきなり甦ったのですぅぅぅぅ。そ、そそそそそそして、封印されていたことの腹いせに集落を襲ってきましたっっっっ。だ、だだだだだ誰も彼には敵わなかったのでぇ、集落は壊滅。皆がどこに行ったのかもわかりません・・・。」


ショボンと、エー様がそこで膝を抱えて項垂れてしまった。


話を聞く限りでは、タマちゃんが呪いを解いてしまったことが原因のようである。


「・・・封印されたエルフの話、聞いたことがあるわ。」


そう言って話に入ってきたのはマリアだった。


「1500年前のことだったかしら。でも、あれに精霊王が絡んでいたなんて知らなかったわ。当時のエルフの王様が邪悪なエルフを封じ込めたと伝わっているわ。」


「わ、わわわわわ私の力が敵わず、せ、せせせせせ精霊王様のお力をお借りしたのでございまするぅぅぅぅ。」


1500年も前のこと・・・か。


エー様長生きなんだな。エルフってそんなに長寿なのだろうか。


ああ、でもプーちゃんが作ったエルフだから規格外なのかなぁ。


『妾が困っているエー様を放っておけなくてのぉ。つい助けてしまったのじゃ。あやつは世界を制服することを目標にしておったし、それだけの力があったからのぉ。放っておけなかったのじゃ。』


「そ、そそそそそその節は大変お世話になりましたでありまするぅぅぅぅ。」


意外とタマちゃんはお節介焼きだったようだ。


でも、タマちゃんほどの実力があれば、封印ではなくて討伐でも出来ただろうに。


「でも、タマちゃん。どうして封印なの?討伐は・・・?」


不思議に思って聞いてみると、聞かなきゃよかったと思う解答が帰ってきた。


『プーちゃんと妾が一緒に合作して作ったエルフだったからのぉ。討伐するのがもったいなくて、封印にとどめたのじゃ。』


「ちょっと待てぇぇぇえええ!!!」


何気なく言ってるけど、そもそもの原因はタマちゃんとプーちゃんにあったんかいっ!?


はた迷惑な精霊王に始祖竜だな。


むしろ、エー様お礼なんて言わなくていいんじゃないだろうか。


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