第2話


ヤックモーン王国の王都は活気に満ち溢れていた。


人々は笑顔で王都を歩き買い物を楽しんでいる。


それぞれのお店の店員もお客を呼び寄せようと大きな声で呼び込みを行っている。


子供たちは無邪気に走りあい、道のすみっこには毛並みの良い猫が毛繕いをしていた。


「ふぁ~。平和そうだねぇ~。」


あまりに平和な光景に私はのんびりと欠伸をした。


「マユ!欠伸をしないの!確かに平和そうなんだけど、なんで女王様はヤックモーン王国に行けなんて言ったのかしら?」


「やっぱり間違えたんじゃないのかな?」


モグモグと屋台で買ったイカ焼きを食べながらマリアと王都を歩く。


活気があってとても良い街に見える。とても、問題があるようには思えないのだが。


「・・・マユ、太るわよ。」


「マリアだって買い食いしてるじゃない。」


ヤックモーン王国の王都の屋台で売っているものはどれも美味しかった。


だから、思わず次から次へと食べ物を購入してしまったのだ。


だって良い匂いなんだもの。


買ってほしいって!食べてほしいって!訴えているんだもん。


せっかく遠くの国まで来たのだから楽しまなくては。


「私はいいのよ!マユと違ってまだ若いし、新陳代謝もいいもの。」


「ふぁっ!?」


またマリアに年寄り扱いされた。そんなに年齢変わんないのに・・・。


って、10歳は違うか。


うん。誤差だよ。誤差。


四捨五入すれば同年代・・・にもならないか。


「お嬢ちゃんたちこっちの串焼きもどうだい!ヤックモーン王国特産の鳥を使った串焼きなんだ!美味しいよぉ~。」


ほら。


他人から見たら私はまだお嬢ちゃんって年に見えるのよ。


まだまだ私は若いの。


「お嬢ちゃんだなんて。おひとつくださいな。」


お嬢ちゃんと言われたことが嬉しくて少し声が高くなってしまう。


それに、美味しそうな匂いがするし。


ヤックモーン王国特産の鳥を使用しているなんて買わなきゃ損だよね。


「ほい。美味しいからまた買いにきてな。それにしても奥さんここら辺で見ない顔だな。娘さんと旅行にでも来たのかい?」


屋台のおじさんから、串焼きを受けとる。


私とマリアの分で二本。


焼きたての串焼きからは食欲をそそる匂いが立ち上ってくる。


って!


奥さん!?


娘さん!?


私まだ結婚してないし!マリアみたいなおっきな子供いないし!


思わずうぅっとおじさんを睨みそうになってしまう。


でも、グッとその怒りをおさえこむ。


「そうなんですぅ~。レコンティーニ王国から旅行で来ました~。」


ぐふっ。


マリアったら、おじさんの設定にのっちゃうし!!


私、マリアのお母さんじゃないのよ。


「そうかそうか。それなら二日後に開かれる新国王の即位式でも見に来たのかい?」


ん?


国王が変わるの?


しかも二日後に・・・?


ずいぶんタイミングがよすぎないか?


 


「そうそう。二日後には新国王即位の式があるんだ。おかげで今、この王都にはその即位式を見ようという人であふれかえっているんだよ。」


「おかげで最近は売上が良くってね。大繁盛だよ。ああ、お嬢ちゃんこれサービスだよ。食べな。口にあったら買っておくれな。」


串焼き屋の屋台のおじさんの隣で商売をしている恰幅の良いおばさんが話に加わってくる。


そうして、試食だということで美味しそうなパンケーキを一口分くれた。


「あ、いただきます。」


私は差し出されたパンケーキを受け取ってすぐに口の中に放り込む。


パンケーキは程よい甘さと濃厚なミルクの味が感じられた。


「ん。とっても美味しい。マリアも食べてみなよ。美味しいよ。」


「マユ・・・。この状況でよく食べてられるわね・・・。」


マリアにも進めるとマリアからはジトーッとした視線を投げつけられた。


「あ、あはは。おばちゃん。このパンケーキ美味しいからお土産に6人分頂戴!」


「あいよっ!随分大人数で旅をしてきたんだね。親子二人での旅行じゃなかったんかい?」


おばちゃんはにっこりと笑ってパンケーキを用意してくれた。


それにしても、しっかり私たちの会話を聞いていたんだね。


「あれはマリアの冗談です。このおじさんの会話に乗っただけです。仲間と一緒に旅行してるんですよ。」


「そうなのかい。いい時期に来たね。もう宿は取ってるんだろう?」


「さすがにこの時期にきて宿を取っていないということはないだろう。ははは。」


屋台のおばさんとおじさんにさっきの親子発言は冗談だと告げる。


そうして仲間と一緒に旅行をしているということを告げると宿の話が出てきた。


はて・・・?


宿を取っているかとわざわざ確認してくるとはいったいどういうことだろうか。


宿を取っていないと問題なのだろうか。


このヤックモーン王国に来るにあたり村長さんにヤックモーン王国がどんなところか確認してから来ている。


どうやら村長さんってば勇者だったらしく各地を旅して歩いていたということもあり、いろんな国の情勢に詳しいのだ。


まあ、その勇者さんがどうしてキャティーニャ村のようなド田舎に住んでいるのかはわからないけど。


まあ、いろいろあったんだろう。きっと。


その村長さんの話ではヤックモーン王国にはそれなりに宿がそろっており10人くらいまでなら当日に行ってもそれなりの宿には泊まれるだろうということだったのだ。


だから、とくに宿を取ってはいない。


王都を観光してからほどよい宿に泊まろうと思っていたのだが・・・。


「えっと、まだ宿取ってないんですけど何か問題が・・・?」


恐る恐る確認してみる。


すると、おじさんとおばさんの顔に驚愕の色が浮かんだ。


「まだ宿取ってないんかいっ!?早く宿を探さないと今日泊る場所がなくなっちまうよ!」


「そうだぞ。新国王の即位式があるからな。宿の予約がいっぱいなんだよ。食べてないで早く宿を探すといい。」


ま、マジか・・・。


屋台のおじさんとおばさんにまくし立てられてしまった。


宿に泊まれないってのは野宿を意味しているわけで・・・。


これは死活問題だ・・・。


まあ、最悪の場合はプーちゃんにお願いして自宅に転移すればいいだけなんだけどね。


新国王の即位になにかあるような気もするし。


できれば新国王の即位式までに情報を少しでも多く集めておきたい。


そうするとやっぱり王都で宿を取った方がいいんだけどなぁ。


 


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