第148話

 


「・・・お客様?」


ゆったりと眠っていた水色の猫の目が開き、ゆっくりとこちらに視線を向けた。


その瞬間、マリアと呼ばれた水色の猫の瞳が大きく見開かれた。


黒目まで大きく真ん丸になっていて可愛い。


「マユっ!!」


「ふわっ!!」


突如、水色の毛玉が私の胸に飛びついてきた。


しっかりと胸元を掴んでいる前足の爪が肌に食い込んできて痛い。


ふわふわした毛並みで触っていると気持ちがいいのに、爪が痛い。


落とさないように、水色の猫の身体を優しく抱きしめる。


「マユっ!マユっ!マユっ!」


狂ったように泣き叫ぶ水色の猫。


マリアという名前といい、私の名前を知っていることといい。


もしかして、この水色の猫はあのマリアなのだろうか・・・。


「・・・マリア?マリアなの?」


「そうよ。マユ!マユの作った化粧水で、女王様に猫の姿にされてしまったのよ。」


確認するためにマリアに問いかけると、諾という答えが返ってきた。


どうやら私の化粧水でマリアは猫の姿にされてしまっていたようだ。


女王様ったら・・・。


「あらあら。そうだったのね。」


「マユさんのお知り合いでしたか。ああ、ミルトレアが売らなくてよかった。」


「マリアさんも見つかったことですし、レコンティーニ王国に帰りますか。」


皇后陛下と皇太子殿下がほのぼのとつぶやいているのが聞こえた。


っていうか、マコトさん。


帰りますかって、この呪われた大地についてはどうするんですかっ!!


放置ですか。


放置なんですか!?


もちろん、慌てたのは皇太子殿下もだった。


「ちょ、ちょっと。マコトさんっ!まだ、まだ宴の準備も終わってないですし、呪われた大地もそのままなんですよっ!!」


慌てて、マコトさんの服の裾を掴む皇太子殿下。


その姿は愛想をつかされた女性の服を未練がましく掴む男性のように思えた。


「あらあら。しょうがない子ね。人に頼ってばかりではダメですよ。」


皇后陛下がそう言って皇太子殿下を窘める。


「お母様。しかし、しかし・・・。」


縋りつく皇太子殿下の頭を優しく撫でる皇后陛下。


「そんなんでは、いつまで経っても皇帝にはなれませんよ。」


「そんなつもりは・・・。お母様、わかっているのでしょう?わかっていてそのようなこと・・・。」


「ふふふっ。貴方はいつまでたっても私の可愛い子よ。」


目の前で繰り広げられる親子の会話。


いや、まあ。普通であれば微笑ましいで済まされるんだけどね。


でも、ほら皇太子殿下はもう60歳すぎているし。


そう思って見てしまうと、ちょっともういたたまれない光景なんだよね。うん。


「ふふふっ。マコト様。私たちの声が外に漏れないようにする魔道具はないかしら?」


「もちろんありますよ。」


皇后陛下に言われて、鞄の中から魔道具を取り出すマコトさん。


取り出したのは緑色の布のようだ。


それを広げていくマコトさん。


って!それテントだよね!!


どう見ても三角テントだよね!!


「さ、三角テント・・・。」


「いやだなぁ。マユさん。これはワンポールテントですよ。」


「って!ほんとうにテントなんだ・・・。」


マコトさんの言葉にガックリとうなだれる私。


魔道具はまさかのテントでした。


「この中に入って会話すれば、外の人にはテント内で会話した内容は聞かれませんよ。さあ、入って入って。」


そう言われて私たちは狭いワンポールテントの中に入っていった。


ほんとうに狭いのだ。このテント。


テントの中に座っても、4人と三匹が集まってしまうと肩と肩が触れ合いそうだ。


それにしても、皇后陛下ってばいい香りがするなぁ。


「さて、なにから離しましょうか。」


皇太子殿下がまず最初に切り出した。


その表情はいつもとは違ってキリッとしていた。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る