第141話

 


『ほほぅ。マユはよく知っておるのじゃ。恥ずかしがりやな太陽も宴の陽気な気分に当てられて顔を見せるのじゃ。』


「って、ええええっ!!!!?」


やけっぱちになって適当に言ったのにまさかの当たり。


タマちゃんが関心したような目でこちらを見てきた。


うぅ。適当に言っただけなのにそんなに関心した目で見てこないで欲しい。


「うぅ~ん。こんな寒いところで宴ですかぁ?」


皇太子殿下が困った顔をしながら呟いた。


「お父様っ!贅沢は言ってられません!!でも、そもそも宴を開くだけの費用がありませんわ・・・。」


ミルトレアちゃんが皇太子殿下を叱咤するように言い、直後顔を曇らせる。


宴を開くだけの費用がないことに気づいたのだ。


毎年、どれだけの予算が割り当てられているのかわからないけれども見る限り日々の生活がやっとのようだ。


実績が得られないから予算が低くなってしまっているのか、それとも皇太子殿下の後先考えずにお金を使ってしまうことが原因なのか。


なんとなく後者なような気がして胃が痛いんだけど。


『楽師を呼ぶのじゃ。舞を舞うのじゃ。馳走を用意するのじゃ。美味しい酒も必要じゃ。』


クルクルと空を飛びながらタマちゃんがどこか楽し気に言った。


やけに嬉しそうなんだけど、まさかタマちゃんが宴を楽しみたいからってことじゃないよね・・・。


いや、でもあり得るのか・・・?


だって、タマちゃんが太陽が出ないように呪いをかけたんだし、その解呪方法はタマちゃんが知っているわけだし。


『甘味っ!甘味も必要じゃ!!美味なる甘味を要しするのじゃ!!世界中の甘味が欲しいのぉ。用意するのじゃ。』


キラキラと輝く瞳でタマちゃんが叫びだす。


うん。もうこれ、タマちゃんが宴開きたいだけだ。


絶対、そうだ。きっと、そうだ。


だいたい世界中の甘味だなんてどう用意すればいいのやら。


「タマちゃん。甘味ばっかり食べてると太るよ?」


『マ、マユっ!!わ、妾は太らないのじゃ!!』


思わずタマちゃんに向かって突っ込めば、タマちゃんからすぐに焦ったような声があがった。


太らないって言っているけれども、焦っているということは少しは自覚があるようね。


「・・・ほんとうに世界中の甘味が必要なの?」


念を押すように低い声で告げれば、タマちゃんがしょぼんと落ち込んだ。


『甘味は必要じゃ。でも、世界中のでもなくてもよいのじゃ。でも、妾は世界中の甘味が食べたいのじゃ。』


やっぱり、タマちゃんが食べたいだけだった。


でも、こんなに落ち込んでいる姿を見るとなんとかしなくてはと思ってしまう。


「そのうち世界中を旅して一緒に甘味を食べに行こうよ。」


だから、タマちゃんとこんな約束をしてしまった。


するとタマちゃんがうれし気に頬を蒸気させながら抱き着いてきた。


『マユっ!絶対なのじゃ!絶対なのじゃぞ!!約束なのじゃ!!』


タマちゃん、立ち直り早いなぁ。


まあ、でも宴を開けばいいということは分かったし。資金の問題はあるけれども、なんとかなりそうだね。


「あっ!お父様っ!今年購入した魔道具を売ればいいのではないですか?あの魔道具780万ゴーニャもしたのです。売れば半値くらいはつくのではないですか?」


「ああ、そうか。そうだね。でも、あの魔道具も気に入っているからなぁ。」


・・・。780万ゴーニャの魔道具って何買ったのだろうか。


日本円にすると7800万円なんだけど・・・。


「マコトさん、魔道具ってこの国ではそんなに高価なの?」


「まさか、一般的に魔道具は浸透していますからね。そんなに高い魔道具はよほど希少な魔道具しかありえません。しかし、そんな高価な魔道具一度見てみたいものですね。」


高価な魔道具という言葉に反応したマコトさんはどこか興味深そうに告げた。


うん。私としてはね、それもぼられてるんじゃないかなぁと思うのだけれども。


とりあえず宴を開くには準備も資金も必要なので、一度皇太子殿下の家に戻って準備をすることにした。


ちなみに皇太子殿下が購入したという780万ゴーニャもする高価な魔道具は部屋の空気を温める魔道具でした。


もちろん一般的な魔道具のためマコトさんに言わせるとどんなに高くても10万ゴーニャだとか。


マコトさんに魔道具を調べてもらったけれども、特に特殊な素材を使った魔道具ではなくごくごく普通の魔道具だった。そのため期待に胸を膨らませていたマコトさんは、期待はずれで頬を膨らませていた。


ちなみに皇太子殿下の購入した魔道具の平均価格は2万ゴーニャだとか。中古なので売っても5000ゴーニャになればいいくらいとのことでした。


5000ゴーニャにしかならないものを売っても仕方がないということになり、この魔道具は売らないことになりました。


だって、部屋の空気を温める魔道具がないとここでは生活できないからね。


5000ゴーニャで売っても、新しいものを2万ゴーニャで買ったら元も子もないし。


そんなわけで私たちは他の資金源を探すことになりました。


 


 


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