第114話

 


「皇太子は皇后のことが大好きなんだ。」


皇帝陛下はおっしゃいました。皇太子殿下が皇后陛下のことが大好きだと。


この場合の好きというのは家族愛ということでよろしいでしょうか。


「聞いてますよ。皇太子がマザコンだと。」


「あ、ああ。そうか・・・。噂が広まってしまっているのか・・・。」


マコトさんが告げると皇帝陛下は遠い目をした。


どうやらあまり広まって欲しくない噂だったようだ。


そうだよね。


皇太子殿下が実はマザコンでしたとか、皇太子殿下に憧れる女性にとっては衝撃的だもんね。


って、まさか。皇太子殿下は独身だとか言わないよね・・・。


まさかそれもあって、皇位継承問題に発展しているとか?


「まあ、実に不甲斐無い噂で恥ずかしいのだが、まさにその通りでな。長年、皇后の夢を叶えようと奮闘しているのだ。」


「・・・夢ですか?」


皇后陛下の夢を叶えたいとはなんとも健気ないい子ではないか。年齢があれだけど。


どうしてそれがお家騒動に繋がるのだろうか。


「そう皇后の夢は作物も育たない呪われた土地を蘇らせることなんだ。あの土地は竜神を怒らせたがために作物も育たぬ枯れ果てた大地となったと伝承されている。その土地を蘇らせること、それが我が皇后が望むことだ。」


「はあ。」


「難しそうな話ですね。」


枯れ果てた大地を復活させるなんて、そうとう難しい話だろう。


なぜ枯れ果てた大地になってしまったのか検証する必要もある。


自然には直らないとなると、人の手の介入が必要になるが、土が悪いのか水が悪いのか、その土地の気候が悪いのか。


考えることはたくさんある。


それぞれの有識者たちの力も必要になるだろう。


「そうなのだ。もう30年以上も皇后主体で研究を進めているのだが、全く進歩が見られない。莫大な投資までしておこなってるが、それでも成果がでないのだ。ゆえに、最初は賛同していた者も反対するようになってな。皇太子を排除しようという動きが強くなってきておる。」


なるほど。


先の見えない事柄に多額の公費を投入するのを嫌がる人たちが出てきたのね。


まあ、それも頷ける。


30年も成果が出ないのにずっと多額の公費を使っているのでしょ。それは反論する人たちが出てくることも仕方のないことだろう。


「まあ、そうなるでしょうね。」


マコトさんも私と同じことを感じたのか、うんうんと腕を組みながら頷いている。


「皇太子も皇后のために一生懸命なのだ。それがわかるからこそ、私には皇太子を止められぬ。」


皇帝陛下も父親なんだね。


非情にはなれないようだ。


だが、このままだと皇太子殿下の評判は悪いままで、皇帝となることは容易いことではないだろう。


もしかして、この年まで皇帝陛下が退位しなかったのは、この件が片付かないから・・・か?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る