第106話
ひとまず帝国へはシロとクロの力を借りて転移することになった。
ただ、マーニャたちの安全が保証できない帝国へ行くのは若干の不安はあるけれども。
「シロとクロが行くのであれば、僕も同行しないと行けませんねぇ。」
そう言って、マコトさんが立ち上がった。
「えっ?マコトさんも来てくれるんですか?それは心強いですっ!」
マコトさんは私の言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、ソソソッと足早に部屋を出て行った。
頼りになるマコトさんが帝国まで付いてきてくれるだなんて、とても心強い。
だけれども、そう思った私とは反対にシロとクロは浮かない顔をしている。
「シロとクロはマコトさんが帝国に行くことは反対なの?」
困ったようにお互いを見詰め合っているシロとクロに声をかけるとシロもクロも『にゃんでもない。』という返事を返してきた。
なんでもないっていうような態度じゃないんだけどなぁ。
なんだか一気にマコトさんが付いてきてくれるのが不安になったような気がする。
シロとクロのことも気になるけれども、それより気になるのはマコトさんが消えて行った方角から「ガシャッ」「ゴンッ!」「バサッ」という音が引っ切り無しに聞こえてくるのが気になる。
時々「ドドンッ」という音供に家が揺れるし。
「ちょっとマコトさんのところに行って来るね。」
『マユさんっ!行かないほうが・・・。』
『マコトのことは放っておいたほうが・・・』
『マーニャも行くのーっ!』
『クーニャもなのっっ!!』
シロとクロは立ち上がった私の後姿に遠慮がちに声をかけてきた。
不思議に思って振り向くとマーニャとクーニャが飛びついてくる。ボーニャはシロとクロの側にいたいようでこちらをジッと見つめているだけだった。
っていうかさ。
マコトさんのところに行かない方がいいってどういうことかな。
でも、気になるし。
好奇心は猫を殺すという諺もあるけど、気になることは放っておけないたちなのだ。
それに、マコトさんがそんなに危ない人だとは思わないし。まあ、職人気質な人だとは思うけれどね。
音のする方に足を進めていくと、そこはマコトさんの作業場の隣の部屋だった。
恐る恐る引き戸を開けてみると、慌しく部屋の中を動き回っているマコトさんと、部屋の入り口に大量に置かれたガラクタが見えた。もとい、マコトさんのことだからガラクタではなく魔道具なんだとは思う。
それにしても、帝国に行くといったのに、この引越しでも始めそうな状態はいったいなんなんだろうか。
「マコトさん。」
「あ、これも・・・。ああ、これも必要になるかもしれませんねっ!おっと、これも試してみなければっ!あ、これはゲロゲロ君一号ではないですかっ!懐かしい。ああっ!これはっ!これもっ!きっとエドワードのおバカさんが喜びますねっ!」
声を掛けてみるも、忙しそうに動き回っているマコトさんには私の声は聞こえていないようだ。
なにやら独り言をぶつぶつと言っている。
「マコトさんっ!!」
「ああ、マユさん。どうしたんですか?」
「どうしたんですか?ってマコトさんこそ何をしているんですか?」
マコトさんの側に行って、耳元で叫んでみたところやっと私に気付いたようだ。
惚けた顔をしてこちらを見るマコトさんが憎めしい。
「ああ。これですか。これは私が作った世界に一つだけの魔道具たちですよ。せっかくだから帝国に行くのなら役に立つかもしれないと思って持っていこうかと思って吟味しています。ちなみに、そこにあるものは全部持って行く予定です。」
にっこりと笑って、マコトさんは山のように積み上げられている魔道具を指差した。
魔道具の大きさは大小さまざまであるが、その数はゆうに100は超えていそうだ。
6畳のスペースが全て魔道具で埋まっている。
「・・・こんなに持っていってどうするんですか。」
思わずジトッとした目でマコトさんを見てしまっても仕方ない。仕方ないと思う。
「使うんですよ。きっと使う機会が訪れます。そう思ってもう何十年もここにしまってあるんですから。一度くらい日の目を見ないとと思いまして。」
「え・・・。いや、でもこんなに持っていけるんですか?」
あきらかに私の持っている鞄には入らない量だ。
「ふっふっふっ。私を誰だと思っているんですか?魔道具作りに関して僕は天災なのです。」
マコトさんは胸を大きく張って自分は天災だと言い出した。
天才ではなく天災だと。
私の心に大きな不安が押し寄せてきた。
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