第101話

 


「マリア・・・?」


トンヌラさんは首を傾げて、こちらを見てきた。


知らないのだろうか。


てっきりトンヌラさんがマリアの居場所を知っているから、女王様の手によって(というか私が作成した化粧水のせいだけど・・・)猫化させられた上に意思疎通ができないようにさせられてしまったのかと思っていた。


都合よく、女王様が私のところにトンヌラさんを送ってきたしね。


女王様からのヒントだと思っていたんだけど、違ったのかな?


「ん?マリア・・・?どこかで聞いたような。この僕が女性の名前を忘れるとは・・・。」


トンヌラさんはマリアについて考え込んでいるようだ。


「キャティーニャ村に住んでいるんですけど、トンヌラさんがキャティーニャ村に来たときに女王様に連れて行かれてしまったんです。知りませんか?」


そう尋ねると、トンヌラさんがハッと目を大きく見開いた。まるで、魚になった時のようにまんまるな目である。


思わず、魚の姿のトンヌラさんを思い出してしまって口に手を当ててしまったのはしょうがないことである。たぶん。


「ふっ・・・ふふっ。あの、失礼な女のことかっ!!」


「えっ?」


どうやらマリアはトンヌラさんに嫌われているようである。


まるで生ゴミを見るかのような目がそれを語っていた。


でも、マリアって礼儀正しいし、見た目だってとっても可愛いしなぜトンヌラさんに嫌われているのだろうか。


『マリアは聖女様なのーっ。』


『トンヌラなんでそんな酷いこと言うのー。』


『ダメなのーっ。』


「マリアさんは礼儀正しくしっかりと自立した女性だったと思いますが・・・。」


トンヌラさんの言葉に反論するマーニャ、クーニャ、ボーニャにマコトさん。


そうだよね。


マーニャのマリアが聖女様だって言うのは言いすぎかもしれないけれども、決して他人に対して失礼なことをするような人ではない。


むしろ、親切でお人よしでもある。


「騙されているっ!おまえらは騙されているんだっ!あの清純そうな見た目に、優しそうな眼差し!!胸はささやかだがそれを補って余りある美貌っ!!」


声高らかに告げられたその内容は、マリアを褒める言葉ばかりのように思える。


しかしながら、トンヌラさんの目は怒りに燃えているようだった。


「褒めてますよね、それ?」


「ぜんっぜん褒めてなんかいないっ!あの女は見た目は天使だが、中身は悪魔だ。魔王なんだっ!!」


そう言って、突如ブルブルと震えだすトンヌラさん。


確かにマリアは時々有無を言わせぬ時があるが、悪魔や魔王は言いすぎでしょ。


基本的に優しいし、頼りになるし。


『悪魔じゃないもんっ!』


『魔王じゃないもんっ!』


『聖女様だもんっ!』


マーニャたちがまたしてもトンヌラさんの言葉に反応して返答しているが、きっとトンヌラさんの耳にはただ「にゃーにゃー」言っているだけに聞こえているんだろうな。


しっかし、マリアさんってばいったいトンヌラさんに何をしたというのだろうか。


「マリアが貴方に何をしたっていうんですか!」


大好きなマリアのことを悪く言われてムッとしている私の問いかけが怒ったようになってしまっても仕方ない。


「僕の妻にしてやるって言ったのにあの女は断ったんだっ!」


トンヌラさんが叫ぶように告げた内容に私達は絶句した。


断られたくらいで悪魔呼びは流石に酷いだろう。というか、逆恨みに近いと思うんだけどな・・・。


「しかも!『女性の容姿だけしか見ていない貴方なんてお断りよっ!女性の胸だけですべて決めるなんて偏見もすぎるわ!だから貴方女性に嫌われてるのよ!』なんて言いやがって!!容姿だろ!普通妻にする女性は容姿が全てだろう!それ以外に選ぶ理由なんてないのに、なんだってそんな酷いことをっ!!」


・・・うん。


やっぱりトンヌラさんの逆恨みである。


私はトンヌラさんと同じ性別でもあるマコトさんに視線を向けると、マコトさんもポカンッとした顔をしてトンヌラさんを見てポツリと呟いた。


「逆恨みですね。それ。」


まったくその通りである。


 




 


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