第102話
「それに、あの女、僕の姿を見て『気持ち悪い』って言って顔を顰めたんだっ!!この麗しい僕に向かってっ!!」
トンヌラさんは憤慨しながら続ける。
トンヌラさんの姿は徐々に魚の姿になっていく。
マリアの悪口を言ったからだろうか。
確かに、トンヌラさんの人間の姿は見た目だけで言えば上級の部類に入るだろう。
それだからなのか、女性に対して驕った部分があるのが否めない。
見た目だけならかなりモテる方なのだろう。
『気持ち悪いーっ!!』
『大好物のお魚なのに気持ち悪いーーっ!!』
『ぎょろっとした目と手と足が生えてるのが無理ーーーっ!!』
魚の姿はマーニャたちには大不評だ。
って、もしかしてトンヌラさん魚化した状態でマリアに迫ったんじゃあ・・・。
それだったら、流石のマリアも気持ち悪いって言うだろうなぁ。
でっかい魚が迫ってくるだなんて恐怖以外の何ものでもないし。
「そこの猫様が何を言っているかわからないが、僕の悪口を言っている気がするっ!!君達は僕をどれだけコケにすれば気が済むんだっ!!おまえらも、あの悪女と同類なんだなっ!」
「まあ世間一般からしたら、今のトンヌラさんの姿は気持ち悪いですよね。」
怒鳴るトンヌラさんに、にっこりと微笑みながら告げるマコトさん。
笑ってるけど目はまったくと言っていいほど、笑ってはいない。
どうやら、今までのトンヌラさんの発言にマコトさんも苛立っているようだ。
「うぐっ!!」
トンヌラさんも魚化している自分の姿を見たことがあるのか反論できないでいる。
でも、魚化してるから、表情がまったく分からないけれども。人間だったのなら、苦い顔をしているんじゃないかなと思う。
「それは、どうでもいいんでちょっとはしっこに置いといて。マリアの居場所知ってますか?」
気を取り直してトンヌラさんに問いかけてみる。はたして、トンヌラさんは正直に答えてくれるのだろうか。
「………。」
案の定、トンヌラさんからは沈黙が返ってきた。
「トンヌラさん。教えてください。マリアの居場所はどこですか?」
もう一度問いかけるが、トンヌラさんは黙りを決め込んでいる。
何分間硬直状態が続いただろうか。
次第にトンヌラさんが苦しみ始めた。
「えぐっ………。うぐっ………。」
細く白い手で魚化した、自分の身体の喉辺りをかきむしる。
「………トンヌラさん?」
あまりに不自然に苦しみだすので、魔道具のせいかと思ってマコトさんを見つめる。
マコトさんは私の視線を感じて慌てたように首を横に振った。
「ち、違いますって。私じゃありませんよ。」
「み、みずぅ………。」
ん?水?
苦し気に吐き出される息の合間にトンヌラさんから水を欲しがる声が聞こえてきた。
「喉が渇いたんですか?マリアさんのこと教えてくれたら、水を持ってきますよ?」
マコトさんが、トンヌラさんに提案すが、ただ喉が渇いたからというような呻き声ではないような気がするんだけど。
どちらかというと、息が出来ないような苦し気な息遣いだ。
ん?あれ?
息が出来ない?
もしかして………エラ呼吸!?
「ちょっと待っててくださいっ!すぐにお湯を持ってきますっ!マコトさん、キッチンお借りしますっ!」
私は慌ててキッチンに飛んでいきお湯を沸かす。早くしないと、トンヌラさんが死んじゃうかもしれない。
マリアへの手掛かりがまた、なくなってしまう。
「お待たせしましたっ!」
急いでお湯を持ってくれば、トンヌラさんは床の上に倒れこんでもがいていた。
「今、お湯をかけて元に戻しますね!」
「待ってください。」
そう言ってトンヌラさんに近づけば、マコトさんが私を止める。
なぜ?と思ってマコトさんを見つめると、マコトさんは、にっこりと微笑んだ。
「マリアさんの居場所を教えてくれたら、お湯をかけてあげますよ?」
おおう。
マコトさん。鬼ですか………。
相手は呼吸が満足に出来ていない状態なのに。
「さあ。言ってしまえばすぐに楽になれますよ?」
満面の笑みでマコトさんが、トンヌラさんに問いかける姿に、思わず恐怖を感じた。
「かはっ………。て………てい………こく………。」
「定刻?」
トンヌラさんはいったい何を言っているのだろうか。「定刻」がどうしたと言うのだろうか。これが、ヒントなの?
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