第22話

 


プーちゃんの背中に裕太を縄でくくりつける。


じゃないと、裕太は意識を失っているから家に着くまでにプーちゃんの背中から落ちちゃうからね。


プーちゃんは縄でしばりつけることを嫌がっていたが、裕太の家に着くまでに何度も裕太を落としてしまっては時間ばかりかかるので諦めてもらった。


まあ「転移すればいいではないかっ!」とプーちゃんから言われたんだけれども、転移の時のあの眩暈に似たようなぐにゃっとした感じが苦手なので近場は歩いていこうと思う。


狭い村だし、20分も歩けば村の隅から隅まで歩くことができる。


裕太の家も歩いて20分もかからないだろう。


まあ、プーちゃんがちょっと大変かもしれないけれど。プーちゃんだし。


ちなみにピーちゃんは私の頭の上に乗っている。肩にして欲しかったんだけど、高い方がいいからって頭の上だ。ピーちゃん精霊だから重さを感じないから頭の上でもいいんだけどさ。髪の中に潜るのだけはやめてほしいと思う。


さっきから人がくる度に私の髪の中に隠れるので、髪がボサボサになってきた。


「マユさん、おはよう。」


「え?ああ、おはようございます。」


裕太の家に向かって歩いていると突然後ろから声をかけられた。


声のした方を見ると、ユキさんが箒を持って立っていた。


「プーちゃんさんったら、ずいぶんと大きなお荷物を背負っているのね。」


「あはははは。朝からうちに来ちゃって。うちの子たちが伸しちゃったんです。」


「あらあら。うふふ。」


ユキさんは私の説明を聞いて上品に笑っている。


「ユキさん自ら掃除しているんですね。」


「そうよ。働かざるもの食うべからずって言うじゃない。私でも出来ることくらいはしないとね。」


にこにこ笑いながら箒で落ち葉を掃くユキさんは、ふいにプーちゃんの背に目をやると、眉根を寄せた。


「彼には困ったものね。働いてマユさんに借金を返せばいいのに。借金をなかったことにしてくれっていいに行ったのかしら?」


「いいえ。うちで働かせてくれって言ってきました。トマト1個収穫するごとに10万ニャールドでもいでくれると・・・。」


「まあ!まあ!まあ!」


私が、ありのまま今朝の出来事を告げるとユキさんは驚きで目を丸く見開いてしまった。


普通そうだよね。


裕太みたいなのは厚かましいよね。


「ありえないわ。トマト1個の収穫で10万ニャールドだなんて聞いたこともないわ。マユさんに甘えているのね。知り合いっていってたけど、弟さん?」


「いいえ、違います。元婚約者です。」


「あら、まあ!」


裕太との婚約破棄の経緯をユキさんに話して聞かせたところ、なぜか目をうるうると潤ませてこちらを見ていた。


そうして


「大変だったのね。もう!ハルジオンったらそういうことなら裕太さんたちをこの村に留まらせることなかったのに。融通が利かないんだから、もう!」


「あはは・・・。」


ユキさん大激怒である。怒りの矛先が村長さんに向いちゃったよ。


「でも・・・もしかしたら案外優花さんがこの村を出る日が来るのは早いかもしれないわねぇ。マユさんの話からするとこんな田舎で暮らしてなんかいられないっ!って言って出て行きそうよねぇ。」


ユキさんがしみじみと呟いた。


確かに可愛いものやカッコイイ人やブランド物が大好きな優花さんだったら田舎にいるのが耐えられないかもしれない。


今にして思えば彼女が着ていた服は日本でも屈指の有名ブランドの服で統一されていたような気がする。


「こんな田舎で暮らしていけるわけないじゃないっ!!」


「ぶっ!!」


「あら・・・。」


噂をすればなんとやら。


どこからともなく優花さんのものと思わしき怒鳴り声が聞こえてきた。


 


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