第4話

 


『マユ、助けてなの・・・。』


口に咥えている何かに問題があるのだろうか。


私は、ボーニャの口元に両手をあてる。


「咥えているものをここに出してみて?」


そう言うと、ボーニャはゆっくりと口を開け、ポトッと私の手のひらに口に咥えていたものを置いた。


ほんのりと暖かい手の中の物体。


なんだろうと、見つめてみる。


「・・・小さい人?あれ、でも羽が生えてる。」


私の手のひらに納まるほど小さい人型の何か。でも、背中には虹色に輝く半透明な羽が生えていた。


でも、弱っているのか私の手のひらの上でふるふると震えている。


それに全体的に濡れているようだ。


「どうしたの、これ?」


『卵から孵ったの。でも・・・元気がないの。』


ボーニャが元気なく呟いた。


卵から孵ったってことは・・・


「精霊!?」


『そうなの。』


私は慌てて手のひらの上の精霊を鑑定してみる。


王都でマコトさんに教わった。


人や生物を鑑定してみるとそのものの状態が鑑定結果に反映されるという。


プーちゃんが苦しんでいたときにすでに実証済みなのできっとこの精霊にも効果があるだろう。


そう思って、手のひらの上の生まれたての精霊を鑑定してみた。


「あれ?」


しかし特に異常はなかった。


鑑定結果も【産まれたての火の大精霊】としか書いてなかった。


つまり、状態異常ではないのだ。


ふと小学生の頃に学校から貰ってきた卵を孵化させた時の記憶がよみがえってきた。


たしか、あの時は・・・。


卵から孵ったばかりのヒナは疲れたのかしばらくぐったりしていたような気がする。


あの時も慌てはしたが、結局温めてあげただけで何もできなかった。


しかし数時間後には元気に立ち上がったのだ。


ということは、この精霊も同じかもしれない。


「大丈夫だよ。ボーニャ。部屋に戻ってベッドで温めてあげて。そうすればしばらくすれば元気になるよ。」


『ほんとう?』


うるうるとした大きな瞳が私を捉える。


ぐっ。可愛い。


ぺたっと地面につきそうなほど垂れ下がっている尻尾も可愛い。


落ち込んでいる姿なのに、可愛いったら可愛い。


撫で撫でとボーニャの頭を撫でる。


「大丈夫。ちゃんとに温めてあげてね。私も一緒に行くから。」


私は両手で精霊を包み込みながら、部屋に向かった。


後ろを小走りでボーニャがついてくる。マリアはそんなボーニャの歩幅に合わせて隣を歩いている。


ボーニャの尻尾はやはり元気がなく垂れ下がっていた。お髭も一緒に垂れ下がっている。


私は精霊をベッドの上に連れて行くと、そっと横たえてあげる。


その上に、ボーニャが飛び乗りお腹の下で精霊を潰さない様に器用に体温で温め始めた。


私はそんなボーニャの頭を落ち着かせるように撫でているとボーニャは目を瞑りうとうとし始めた。


「ボーニャ様ったらよっぽど心配だったのね。」


「そうみたい。精霊の卵にヒビが入ってからほとんど寝てないみたいだったんだよね。」


「その精霊って髪が真っ赤だけど火の精霊かしら?初めてみたわ。」


「うん。鑑定したら火の大精霊ってでてた。精霊と大精霊ってどう違うんだろうね。」


マリアが聞いてきたから答えると、マリアは大きく目を見開いて動作が止まってしまった。


フリーズしてる。再起動するにはどうしたらいいだろうか。


しばし、マリアの目の前で手を振ってみたり肩をトントン叩いたりしてみると、なんとか戻ってきたようだ。


「大精霊って!精霊王の次に力を持っている精霊だよ!!しかも何千年も前の伝説でしか聞いたことがないわ。いったい、何が起こっているの!?」


大精霊ってすごかったんだ。


というか女神様(?)から精霊王も育てるように言われているんだけど、それを言ったらまたマリアが処理しきれなくてフリーズしてしまうかな。


「あはは。じゃあ、もしかして残りの卵も大精霊なのかな。」


「残りってあといくつ卵を持っているのよ?」


呆れたようにマリアが聞いてきた。


「あと、4つ。水色の卵と黄色の卵と茶色の卵、あと鑑定できない金色の卵。」


「・・・大精霊は4柱いると言われているわ。残りの大精霊を表す色は水色と黄色と茶色ね。ぴったりと一致するわ。でも、金色の卵はよくわからないわ。」


「あはは。じゃあ、これ皆大精霊かもね。」


全然笑えないけど、もうすごすぎてなんだかわからなすぎて、笑うしかない。


マリアも頭を抱えてしまっているし。


「金色の卵は精霊王だったりして。って、そんな訳ないか。」


「マユ、笑えないから。変なフラグ立てないでっ!」


変なフラグも何も、女神様(?)から言われているから精霊王の可能性かなり高いと思うんだけどなぁ。


って、マリア、フラグって言葉知ってたの。私はそれに驚きである。


 


 


 


 


 


『あ、ピーちゃん!目が覚めたっ!?』


マリアとテーブルで紅茶を飲んでいると、ボーニャの声が寝室から聞こえてきた。


って、ピーちゃんって誰?


プーちゃんの親戚かな。


私とマリアが寝室に向かうと寝室にはマーニャたちに囲まれてフヨフヨと浮いている火の大精霊がいた。


よかった。元気になったようだ。


『マユ、ピーちゃん元気になったの!』


「えっと、ボーニャ。ピーちゃんっていうのは火の大精霊の名前?」


『うん!』


元気に頷くボーニャだが、ピーちゃんって名前誰がつけたのかしら?


『ピンク色の卵から産まれたからピーちゃんなのー。』


マーニャが元気に答えた。


思わず、マリアと二人でずっこけてしまった。


偉大なる火の大精霊によりによって、ピーちゃんだなんて名前をつけるだなんて。


『俺は・・・ピーちゃん??』


火の大精霊もなんだか困惑しているようだ。


眉間に皺が寄っている。


しかし、産まれたてなのに人間の赤ちゃんと違って皺くちゃなおサル顔じゃないところにビックリした。


すでに整った顔かたちをしているのだ。


ちょうど20代くらいに見える。


『ピーちゃん・・・なんか名前がダサい気がする。』


ずずーんっと落ち込んでいる火の精霊もといピーちゃん。


私もね、そう思うよ。だけど、マーニャがつけたからなぁ。


撤回は難しいと思うよ。


それに鑑定してみたらすでに「ピーちゃん」って名前で認識されていたし。


「火の大精霊にその他の大精霊と思われる卵なんて。何もなければいいんだけれど、前回大精霊が揃ったときには女神が降臨して世界が新生したとされる伝承があるわ。」


え、なにそれ。


マリア君が何を言っているのかわからないよ。


というか、マリアこそ変なフラグ立てないでほしいなぁ。


 


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