第79話


「ダメなのっ!」


「待ってなのっ!」


「マユをいじめないでほしいのっ!」


急に私の前に飛び出してきた小さな三つの人影。

言わずと知れたマーニャ、クーニャ、ボーニャの三人娘である。

マーニャたちは、獣人の街の泉の影響でまだ人間の姿を保っている。

その三匹が私の前に躍り出てきた。


「ちょっ!マーニャ、クーニャ、ボーニャ!危険だから馬車の中に入っていなさい。」


慌ててマーニャたちを私の背に庇う。

助けてくれようとしてくれるのは嬉しいけれど、それ以上にマーニャたちが怪我をしたりしたら悲しいしやりきれない。

マーニャたちを危険な目には合わせたくない。


「猫耳・・・。」


「・・・猫様か?」


「人間の姿をしているが・・・?」


「飾り物の耳か?」


「・・・尻尾もついていなかったか?」


「猫様・・・。」


うん?

マーニャたちの登場で兵士たちの動きが止まったようで、戸惑うような視線がこちらに向けられる。

この兵士たちは、人型の猫を見たことがないのだろうか?

って、私も獣人の村で初めて人型のマーニャたちを知ったんだけどね。

屈強な兵士たちはマーニャたちに視線を向け、構えていた剣を納めた。

そして、一歩近づいてくる。


「その者たちは、猫様であろうか?」


一番先頭に立っていた男性がこちらに問いかけてきた。

この男性だけ身分が違うのか、他の兵士が生なり色の服を身に付けているのに対して濃紺の服を身に付けていた。


「はい。マーニャとクーニャとボーニャと言います。」


「・・・まことか?」


「はい。」


「謀ってはおらぬか?」


まあ確かにね。今の姿は猫耳と尻尾がついているだけで、他は人間と変わらないし。耳や尻尾を故意につけていると思われても仕方がない。


「そのようなことはいたしません。このこ達は猫様です。」


「「「にゃっ!」」」


マーニャたちが頷いた瞬間、マーニャたちの姿が光に包まれる。

そうして、光が収まると猫の姿のマーニャたちがそこに座っていた。


「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」


兵士たちはその光景を目を丸くして見つめている。


「「「「「「「失礼いたしましたっ!!」」」」」」」


そうして、すぐに我に返ったのか皆、剣を置き正座をしてから、こちらに向かって礼をしてきた。

って、土下座っ!!?

土下座って日本の文化じゃないのっ?

こちらの世界の人たちにも土下座が通じるの!?


「あ、あの。すみません。竜を連れてきてしまって・・・。」


「「「にゃあ!」」」


「いいえ!こちらの落ち度です。猫様の下僕と化した竜がいるとは王都のギルド経由で伝わっておりました。気づかなかった私たちの落ち度でございます。どうか、お許しください。」


平身低頭謝ってくる兵士。

誠実に謝ってくれるのはいいんだけど、他の人の目もあるし居たたまれない。

それに、竜なんて生物が目の前にいきなり現れれば誰だって警戒するだろう。

いくら間抜けでどうしようもないプーちゃんでさえ恐怖の対象になると思う。


「あ、あの。いきなり現れた私たちにも責任はありますので。竜がいきなり現れたら警戒するのが普通ですよ。だから、どうか立ち上がってください。」


未だ座り込んだままの兵士たちに向かって告げる。

それでも、誰も立ち上がらない。

ややあって、紺色の兵士が動きを見せた。


「マーニャ様、クーニャ様、ボーニャ様と竜を連れているあなた様が異世界からの迷い人でございますね。迷い人は大切にしなければならないという教えに反してしまい申し訳ございませんでした。」


おおぅ。さらにまた謝られたし。

って、マーニャたちの名前って王都でも知れ渡っているの?


「あの、気にしないので。お仕事を続けてください。みんな王都に入るのを待っているようなのでっ!!」


そう言うと、兵士のリーダーと思われる紺色の男性が姿勢を直した。


「寛大なお心ありがとうございますっ!迷い人様におかれましては、猫様たちもいらっしゃいますし優先してお通しいたします。どうぞ、こちらへ・・・。」


「あの、でも順番は順番ですし・・・。最後尾に並びます。」


「いえいえ!猫様を待たせるなんてそんな恐れおおい。さあさあ、どうかこちらへ。」


回りで見ている人から文句が一言も聞こえない。ちゃんとに並んでいた人に割り込む形となるのに。どうして不満を言わないのだろうか。


「でも、順番は順番ですので・・・。」


固辞しようとすると、並んでいた人々から声がかけられた。


「猫様は何事にも優先させねば。」


「我らのことは気にせず、猫様を優先してくだされ。」


「猫様が優先されるべきです。」


と、皆同じように言ってくる。

どこまでこの国は猫贔屓なのだろうか。


「そういうことです。さあ、どうかお入りになってください。」


再度、兵士に促される。

ここで、さらに断っても待っている人たちをさらに待たせてしまうだけかもしれないと思い、指示に従うことにした。

そうして、私たちはなんとか王都に入ることを許されたのだった。


さあ、これからマコトさんを探さなければ!!

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