第74話
獣人の街を出て、街道脇に逸れる。
誰からも見られていないことを確認して、茂みに隠れる。
だって、転移の魔法を使うところを見られてしまったら大騒ぎになりかねないからね。
「プーちゃんさん。キャティーニャ村から住人の街へはどの方角に転移したんですか?」
ザックさんがプーちゃんに確認する。
確か距離はキャティーニャ村から三日ほどと前に言っていたよね。
方角はどうなんだろうか。
「南だ。」
「王都はキャティーニャ村から北に三日ほどの距離です。ここからならば、北に六日ほどの距離になるはず・・・。」
ほうほう。
王都は北にあるんだね。しかしながらまったくの逆に移動してしまっていたとは。
転移の魔法をプーちゃんが使えたからいいものの。それじゃなきゃ、だいぶ時間のロスだよね。
「北に六日のところに人がいっぱい集まっているところだな。」
「はい。」
プーちゃんがふむふむと頷いている。
そして意識を集中し始める。
しばらくプーちゃんの沈黙が続く。それを、ザックさんとマーニャ、クーニャ、ボーニャと私でジッと見つめる。
どのくらい時間が経っただろうか。
飽きてしまったのか、マーニャが飛んでいる蝶を追い始めた。
クーニャに至っては小鳥を見つけたようで、物陰に隠れてじぃーっと小鳥を見つめている。
狙われているよ、小鳥さん。逃げてー。
ボーニャはずっと私の傍を離れず、左脇に抱きついている状態だ。
「・・・北に六日のところには人がいる気配がないな。どうやら海のようだ。水の精霊たちがいっぱいいる。」
「あれ?」
王都ないの?
ザックさんの計算が外れたのだろうか。
でも、よかった。
プーちゃんがいきなり北に六日のところに転移しなくて。
もし、転移していたら私たち海の中にドボンッだよ。
溺れてしまうところだった。
しかし、何故王都が見つからないんだろう。
「海?キャティーニャ村から王都までの間に海はないはずだが・・・。」
あれれ?ザックさんが変なことを言っているよ。
どういうことだろう。
また、プーちゃんが勘違いしているのだろうか。
「海と言えば、レコンティーニ王国の北に位置するシルベスタ王国の北にあったはずだが・・・。」
つまり、プーちゃんが言う海っていうのはキャティーニャ王国の海ではないってこと?
どういうことだ?
ザックさんもプーちゃんも私も頭を抱え込んでしまった。
相変わらず、マーニャは蝶を追いかけ、クーニャは小鳥を狙っているようだが、ふいにマーニャとクーニャの姿が煙に包まれた。
「えっ!?マーニャ!?クーニャ!?」
そして気づけば、左脇に抱きついているボーニャの感覚もない。
「ボーニャ!?」
「「「にゃあ~。」」」
ビックリして周囲を見渡せば、これまたびっくりしたのか目を丸くしてこっちを見ている猫が3匹。
言わずもがなクーニャとマーニャとボーニャである。
どうやら泉の効果が切れてしまったらしい。
その瞬間に、蝶や小鳥も驚いたのか逃げていってしまい、マーニャとクーニャは残念そうに毛づくろいをしていた。
ボーニャは戻ってしまったことにショックを受けて固まっている。
「・・・まだ出発できないみたいだから、もう一回泉に行く?」
「「「にゃっ!!」」」
あまりにしょげ返っているボーニャが可哀想で、そう提案してみるとボーニャだけでなく、マーニャとクーニャからも返事があった。
そういう訳で、一旦私たちは獣人の街の泉まで戻ることにした。
もちろん、プーちゃんとザックさんには王都がどこであるか調べてもらうために、街道に残っていてもらう。
「じゃあ、ちょっと行ってきます。もし王都を見つけても私たちが戻るまでは転移しないでくださいね。」
「ああ。」
「もちろんだ。そんなことをしてはマーニャ様たちに怒られるからな。」
うん。
ちょっと心配だけど、ザックさんがいるからプーちゃんが勝手に転移することはないだろう。
きっとザックさんがプーちゃんを止めてくれるだろう。
そう信じて、私たちは獣人の国の泉に向かうことにした。
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