第73話
マーニャとクーニャを見ると、ボーニャの発言にびっくりしたようで、いつも丸い目をさらに丸くしている。
「ど、どうしたの?ボーニャ?」
「いかないっ!!」
「じゃあ、キャティーニャ村に一度帰る?キャティーニャ村でお留守番できる?」
ボーニャが行きたくなくとも、私は王都に行かなければならない。
だから、ボーニャだけキャティーニャ村の村長さんのところでお留守番してもらうかと考えたんだけど・・・。
「キャティーニャ村もいやっ!ここがいいのっ!!」
ボーニャに却下されてしまった。
耳をピンっと立てて、尻尾も立っている。さらには尻尾がぶわっっと大きく膨れ上がっている。
これは、よく怒った時などに見せることがあるが、ボーニャは怒っているのだろうか。
私が昨日お風呂で寝ちゃったからそれがまだ尾を引いているのかな?
「ボーニャ、理由を教えてくれる?」
なるべく穏やかにボーニャに話しかける、クーニャとマーニャは、王都へ行くことには反対していないようだから、ボーニャだけなんか引っ掛かることがあるのだろう。
「マユともっとお話するのっ!この街でたらマユとお話できないっ!」
「あ・・・そっか。」
ボーニャは私とお話がしたいから王都に行きたくないし、キャティーニャ村にも帰りたくないんだね。
でも、この街を拠点にするのは少し戸惑う。だって、キャティーニャ村には家があるし、畑もある。
畑も家も気に入っているし。
ボーニャともこうやって話が出来るのも捨てがたいけど・・・。
でも、やはり獣人だけの街でずっと暮らすのも少し抵抗がある。
異世界からの迷い人だからって街に入れてもらえたけど、永住は許可されるのかとか。その辺もわからないし安易に答えることはできない。
「昨日、あんまりお話する時間とれなかったもんね。じゃあ、今日はいっぱいお話しようか。で、明日になったら王都に行こう?」
プーちゃんが転移させてくれればすぐに王都に着くし一日くらいここで留まっていても問題ないだろう。
そう思って答えたんだけど・・・。
「いやっ!明日だけじゃなくって、ずっとずっとマユとお話してたいのっ!」
「ボーニャ………。」
ずっとお話してたいって、なんて可愛いんだろう!!
うっすらと目に涙まで浮かべて訴えているボーニャをそっと抱き締める。
背中をそっとトントンッと軽く叩いてボーニャを落ち着かせる。
「ボーニャの気持ちよくわかったよ。私もずっとずっとボーニャやマーニャ、クーニャとお話をしたいって思うよ。」
「じゃあ!ここで暮らそう!」
ボーニャが嬉しそうに声をあげる。
「そうだね。そうしたいんだけどね。女神様からお願いされていることもあるし。この街に家を購入するだけのお金もないし、ずっと宿に泊まっていられるだけのお金もないの。それに、キャティーニャ村の家や畑も気になるし、鶏たちも心配でしょ?」
ゆっくりと諭すようにボーニャに優しく語りかける。
ずっとずっとボーニャとは一緒にいたい。それに言葉が通じたらそれはとても嬉しい。
「………。」
「それに、もしかしたら女神様からのお願いを叶えたら、ボーニャたちがキャティーニャ村でもお話ができるようになるか頼んでみようか?それか、ボーニャたちと念話が出来るようになるように頑張るよ。」
「………マユ。」
ボーニャは、泣いているのだろうか。たまにしゃくりあげている。
声も少し掠れているようだ。
小刻みに震える身体をあやすように抱き締める。
「王都に………行こう?」
「………。」
ボーニャからの返事はなかったが、頷くように頭が軽く一瞬だけさがった。
「ありがとう。ボーニャ。我慢させちゃってごめんね。今日はいっぱいお話して、明日王都へ行こうね。」
「………うん。」
今度はボーニャが頷いてくれた。
それから、たくさんたくさんボーニャと、クーニャとマーニャと他愛もない話をした。
ボーニャもクーニャもマーニャもまたしばらく会話が出来ないからだろうか、ずっと喋り通しだった。
そして、翌日。
プーちゃんに王都まで転移してもらうことになった。
「ところで、王都ってここからどっちの方角でどれほど距離が離れているんだ?」
「えっ?」
「え?」
一難去って、また一難。
王都の位置は知っていても獣人の街からの行き方を知らないザックさんに、王都自体の位置を知らないプーちゃん。そしてこの世界の地理に疎い私。
王都まで、無事にたどり着けるのだろうか………。
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