第72話


「うっ………。」


身体が重い。

身動きしようとしても、重くて出来ない。

いったいどうしたんだろうと、首を傾げる。

やっと覚醒してきた頭は自分が獣人の街の宿に泊まったということを思い出した。

でも、なんで重いんだ?

右手も右足も動かすことが出来ない。左足も右足も動かすことが出来ない。

動くのは首だけだ。

動かすことができる首で辺りを見渡す。右を見ると黒い髪が目に入り、左を見るとキジ色の髪が目に入った。


「えっと………。」


ゆっくりと昨日のことを思い出す。


「あっ………うっ………。」


そう言えば昨日は皆に醜態を晒したということを思い出した。しかも裸まで見られて。

心配したマーニャたちと一緒に寝たんだった。

ということは髪の毛の色からすると右にいるのはクーニャで、左にいるのがマーニャかな?

足が動かないのは、ボーニャでも足に抱きついているからだろうか?

いかせん起き上がることが出来ないので確認は出来ないが。


「すごい光景ですね………。」


「えっ?」


視線を動かして声の聴こえた方を見る。

うん。マーニャの髪でわからないが、この部屋にいるとしたら、ザックさんだろうか。


「私、どうなってるんですか?」


「マーニャ様とクーニャ様が手に抱きついている。足はボーニャ様とプーちゃんさんが抱きついているな。」


「なんとっ………。」


両足が動かないと思ったらプーちゃんまで抱きついてきていたのか。

しかし、身体が動かないというのは、身体の節々が何故か痛くなってくる。


「マーニャ様たちをはがしていただけませんか?」


「無理だ。」


ザックさんからは冷たい返事がすぐに帰ってきた。


「どうして?」


「マーニャ様たちはマユさんが死んでしまうとそれは心配していた。マーニャ様たちに心配をかけたのだから、マーニャ様たちの好きなようにしてあげるといい。」


「ぐっ………。」


確かにお風呂で寝てしまってマーニャたちには迷惑をかけたもんなぁ。

マーニャたちの好きなように………か。

うう………背中痛いから姿勢を変えたいんだけどな。


「マーニャ様たちに心配をかけさせた天罰だな。」


「そんなっ………。」


どうやら、ザックさんはここから助けてくれないようである。

マーニャたちが起きるのを待つしかないのかなぁ。

背中も腕も痛くなってきたんだけどなぁ。


結局、それから二時間私は姿勢を変えることが出来なかった。

ようやく起きたマーニャ、クーニャ、ボーニャから開放されたかというと、開放されたわけてわはない。

お腹が空いたからとご飯を食べるために一瞬離れたがまたすぐにくっついてきた。

いや、可愛いんだけどね。

可愛いんだけどね、動きを制限されるとあちこちの筋肉が痛むのよ。

今は特に腰が痛い。さっきからピキピキ言っている。

ああ、ご飯を食べてた時はマーニャたちが抱きついてこなかったから、身体を自由に動かせて快適だったのに。これじゃあトイレにもいけない。

って、行けないと思ったら行きたくなってきた。


「あの………、ごめんね。ちょっと放れてくれる?トイレに………。」


「マーもいく。」


「クーもいく。」


「ボーもいく。」


「えっ?」


かくして部屋の中にあるトイレに行くにも、マーニャたちがひっついてきた。まあ、トイレの中は流石に一人にしてもらったけど。

しかし寝返りがうてなかったからか、本当に腰が痛い。

歩くのもやっとなくらいだ。

所謂寝違えたってこういうことかな?

意外と辛いんだけど。


「さて、王都に向かいましょうか。」


ご飯が終わってしばらくするとザックさんがそう告げた。

そうだった王都に向かっている最中だったということを思い出す。

王都には馬車でいくのだろうか?それともまたプーちゃんが転移で連れていってくれるのだろうか。

腰が痛いから馬車は出来るだけ避けたいものだ。


「行かないっ!」


「えっ?」


「王都になんて行かないもんっ!」


ザックさんの言葉にいつもはおっとりとしているボーニャが声をあらげて反対した。

なんで?ボーニャ?

キャティーニャ村から出発するときはそんなこと一言も言わなかったのに。なんで?

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