第36話


「あ、マユ。猫様たちにご飯をあげてからの方がいいかもしれない。

 夜の食堂は混むのよ。お酒も入ってる人がいるし、ちょっと時間がかかるかもしれないの。

 だから、猫様たちには先にご飯をあげた方がいいよ」


「そっか、そうだね」


確かに、今はもうすでに6時を過ぎている。

これからご飯を食べに行って、帰ってきてだと8時を過ぎてしまう可能性がある。

マーニャたちをその時間まで待たせるのは忍びない。

私は、マリアの提案に頷くと、保管庫の中から猫用のご飯を取り出して、いつものように器に移し替えた。

そうして、玄関のドアを開けると外に向かい声を張り上げてマーニャたちを呼んだ。


「マーニャ、クーニャ、ボーニャ。ちょっと早いけどご飯にしようー」


返事がない。

姿も見せない。


どうしたんだろう?と思いながら再度呼びかける。


「マーニャ、クーニャ、ボーニャ。ご飯だよー」


返事がない。

どうしたんだろう?


いつもだったら、呼べばすぐに飛んでくるのに。

不思議に思って、首を傾げる。


「来ないの?」


しばらく待っても私が帰ってこないことに気づいたマリアがドア付近までやってきて声をかけてくる。


「うん。来ないの。いつもだったらすぐに帰ってくるのに」


「ちょっと遠くまで遊びに行っているのかもね?いつもの時間まで待ってみようか」


「え?あの子たちこの敷地内から出て行くことあるの?」


遠くまでって敷地外まで?

でも、家の周りは柵で囲まれているし、出かけるなんてことは出来るのだろうか?


「猫様はジャンプも得意だし、木登りも得意だからね。

 このくらいの柵ならお出かけ可能だよ」


大して心配もしていないというようにマリアが告げる。

まさか、敷地内から出てしまうなんて予想外すぐて、私はプチパニック状態だ。


「マユ、落ち着いて。猫様たちは無事に帰ってくるから。

 この国は猫様たちにとっては一番安全な場所なんだから」


そうマリアが言うが落ち着いていることができない。

どうしよう。

あの子たちに何かあったら。

遠くまで行って迷子になってしまっていたらどうしよう。

誘拐されていたらどうしよう。


まだ数日間しか一緒に暮らしていないのにもう既に家族同然だからとても心配でたまらない。



「帰って来ないわね」


「帰ってこないね・・・」


だいたいいつも、マーニャたちにご飯を上げているのが7時になる。

もう7時を過ぎているのに、マーニャたちが帰ってこない。

いくら猫様たちに安全な国でも心配になる。


「ここにいても仕方がないかもしれないわね。

 食堂に行きましょうか。食堂ならいろいろと情報が集まってくるわ。

 きっと猫様たちの情報も集まってくるかも」


「・・・そうだね」


ここにいても仕方がない。

情報を求めにいこうということになった。

もし、マーニャたちが帰ってきたときのために、ご飯はだしておこう。

私は、マーニャたちのご飯を保管庫の前に置くとマリアと供に家を出た。


家を出る際にもう一度マーニャたちを呼んでみたが返事もなければ姿も見えなかっ

た。

食堂までの道すがらもあちらこちらに視線を向けて探しながら歩いていたがやはり見

つからない。


「本当、どこに行ったのかしら・・・」


食堂についてすぐに聞き込みを始める。

顔見知りの村の人たちに話しをきいたが見ていないとのことだった。

ここは、冒険者の方たちにも話を聞くべきかしら。

私は、マリアと顔を見合わせてから、覚悟を決めて冒険者の元に近寄った。


「そういや、この村のダンジョンに猫様がいたな。

 珍しいよな。猫様たちだけで来ていて下僕が一緒にいないなんて」


「野良の猫様たちなんじゃないか?」


「でも、あんなに可愛い猫様たちだぞ?下僕の1人や2人や3人いたっておかしくは

ない」


「そうだな。稀に見る可愛さだったな」


「もし特定の下僕が決まっていないんだったら、俺立候補しちゃおうかな」


「俺も!」


「俺も!俺も!!」


思わず、私とマリアは顔を見合わせてしまう。

もしかして・・・。


「ねえ、マーニャ様たちなんじゃない?」


「そんな気がしてきた。ちょっと会話に加わってくるわ」


私はそう言って、お酒の入ったビンを手に4人組みの冒険者たちの元に近寄っていっ

た。


冒険者たちは近づいてくる私に気づいたのか、話をやめてこちらを見てくる。


「どうした?ねえちゃん?俺たちになんかようか?」




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