311話 耳かきと太ももとタイツと

「おいで?」


「いやいやいやいや……それは自分でやるから。本当に恥ずかしいというか……」


ソファに腰かけた唯がポンポンと太ももを叩く。左手には耳かき。それくらいは自分でできるとは言ってるが唯はやってあげると言って聞かない。


「膝枕までついてくるのだよ?」


「それはすごくいいんだけども……なんというか、また耳を責められるのが恥ずかしい」


「葵、すっごく敏感だもんね!うん、だから耳かきしてあげるって言ってるんだけどね」


「悪魔か何かなの?」


「ふふっ、天使だよ?」


いいから早く来て?と少し圧を感じる。にこにこと笑ってはいるが怖い。唯さん、もう少し柔らかく笑えないもんですかね。


「……あ、タイツ脱ぐ?」


「は?え、なんで?」


「太もも直接触れたいかなって思ったんだけど……あ、それとも変態さんはタイツ越しの方がいいかな?」


「人を変態扱いするな。そういう質問してくる方が変態だろ」


「にひひっ♪かもね。なら変態さん同士仲良くしようじゃないか。手始めに耳かきをだね……ふへへへへへ。じゅる……おっと」


「汚ねえな」


「失礼失礼。ほら、はーやーくー!」


むぅ……と不満げな顔をしながら少し太ももを叩く力を強くする。これは唯が満足するまで終われない気がする。

……膝枕自体はいい。唯に触れたいし柔らかい太ももを堪能したいとは思う。いやキモいな俺。自分でも何言ってんのってドン引きするレベル。ま、まぁそれはいいとして……キモいのは今更感あるし。

でも耳かきは……耳が弱いって知ったからか的確にその弱点をつこうとしてる。きっと気持ちいいのだろうが恥ずかしい。ただ、それを理由に逃げられそうもない。


「……おや、最初から素直になればいいのに」


「うっさい……」


こうして唯に従うしかない。太ももの上に頭を乗せて寝転がる。ふふっと笑って唯が頭を撫でて、唯も唯で堪能しているらしい。タイツ越しでも柔らかい太ももに思わず息を呑んでしまう。やばいやばいやばい……理性が持つ気がしない。

先程までの可愛らしく乱れる唯の姿を思い出してしまう。2回したにも関わらず興奮してしまうのは仕方の無いことだろう。

にひひっ♪と笑って頭を撫でていた唯が顔を下ろす。耳を優しく撫でて、すっと顔を寄せて小さく……


「じゃあ……耳かきするね?」


囁いて、ふぅ〜……と息を吹きかけてくる。耳元で感じる唯の声、吐息。なんの生き地獄だよとは思うが状況的にはむしろ天国なのでは?とも思ってしまう。もう自分でもよく分からない。


「にひひっ♪ほんとに可愛いなぁ」


「もう好きにしてくれ……」


「そ、それは好きに囁いたり舐めたり息吹きかけたり今後のプレイに取り入れても良いということ……?そ、そういうことなら遠慮なく」


「耳かきのことだよ……」


「それはもちろん。まぁ今後のことはまた考えるとして……じゃあ始めるから、じっとしててね?」


「ん……」


そう言って耳かきを突っ込まれる。一瞬くすぐったいと思ったが普通に気持ちいい。始める前こそ抵抗していたが、それが馬鹿らしくなるほど心地よい。唯が今どんな表情なのかは分からないが手先は丁寧である。


「ふふんっ♪どう?どう?気持ちいい?」


「うざい」


「質問の回答がおかしくないかな!?」


実際気持ちいい。ただなんと言うか、自分がなかなか上手なのではないかと自覚してるのか知らんが「当然、気持ちいいよね?」と肯定を促す聞き方なのが少し癪。典型的な褒めると伸びるタイプではあるが、褒めない方が色々面白い。

むぅ……と声が聞こえるが、手先がぶれることはなく丁寧に丁寧に耳かきをしてくれる。


「誰かにやったことあるのか?」


「ふふっ、どうだろうねぇ」


「回答次第ではしばらく寝込む」


「あっはは!そうだねぇ……ママになら」


「奏さんか……まぁ、それなら」


「にっひひ♪妬いてる葵も可愛い♡」


「くっそ、お前後で覚えてろよ……」


「はいはい……一体私は何をされてしまうのやら」


その後も耳かきは続く。そんなに溜まってるか?とは思うが自分でやる時は本当に雑なので思ったより取れてないのかもしれない。

しばらくすると反対の耳を向けるように言われたので体の向きを変える。……が、これはなんか色々危ない気がする。


「……あ、足こっちにすれば」


「……?なんで?面倒じゃん」


「いや、まぁそうなんだけど……えっと、目の前開けてた方が落ち着くんだよな」


「わがまま言わないの。ほら、こっち向いて?」


なんで今日に限って強情なの。……落ち着かない。いや、そもそも膝枕の時点で相当落ち着かないんだけど、お腹に顔向けるの本当に……ちらりと上を見ると唯の顔が見える。その視線に気付いたのか、にひひっ♪と微笑んだ。……うん、いつかこうやって見た時に顔が見えなくなるほど大きくなるといいなって思いました。


「お、おぉ……なんか見られるの緊張する」


「やっぱ反対側向くか?」


「やだ。葵、怒るよ」


「お、おう」


唯が怒っても可愛いだけだが……いや、前にブチ切れた時はめちゃくちゃ怖かったな。さすがに1週間くらいマトモに口聞いて貰えなかった時は堪えた。


「ねぇねぇ葵」


「どうした?」


「足が治っても、ここにいたいって言ったら……葵は怒る?」


「……さぁ。ただ、1人が好きだからなぁ。もちろん唯が居てくれるのもありがたいけど」


「そう言えばそうだったねぇ……そっか、うん。なら足が治るまでの間にしとく」


「珍しい。普段ならその後も居たがるのに」


「葵は私を何だと……って言えない程その通りなんだけどね」


それに、しばらく唯をここに置いとくと俺が手放せなくなる。だから長い期間唯ををここに居させるのはあまりやりたくない。それにここに居ても寮の契約はしてるので、しっかり金は取られてる。まぁ、それはしっかり返すつもりだが申し訳ない気持ちにはなってしまう。


「……でも、この状況は私にとっては幸せだよ。好きな人の……葵のそばにいられるこの時間が」


「……ずっとそばにいるが」


「ふふっ、嬉しいことを言ってくれるね。いつからそんなかっこいいことを言える男になったんだい?」


「どうだろなぁ……ま、言うとしても唯相手だけだよ。他には気の利かない発言しか出来ないしな」


性格悪いし、と付け足しておく。どうもこれは治る気がしないので開き直ってしまった。

そしてそれを理解してるのも、また唯なのだろう。確かに、と否定しない。


「葵の性格の悪さなんて長い間一緒に居る内に慣れてしまったよ」


「だろ?さすが、分かってる」


「そこは恥じるべきとこだよ。まったく……私はみんなから愛されて欲しいんだけどね。私の好きな人はこんなに素敵な人なんだよ!ってドヤ顔したいんだから」


「ならそれは諦めてくれ。精々、唯だけの素敵な相手にしかなれん」


「……ふふっ、だといいなぁ」


学校をサボってみるのも悪くはない。もちろん、もうする気は無いし真面目に通うつもりだが。明日、何言われんだろなぁほんと。


「はい、おしまい。気持ち良かった?」


「あぁ。ありがとな、唯」


「にひひ〜♪もっと褒めて撫で回しても良いんだよ〜?」


「調子乗んな。やるけど」


「やるんじゃん。まぁまぁ、今はもう少し膝枕を堪能してもいいんだよ?変態さんの葵は太もも好きだろうし」


「変態言うな。男は誰だって好きだろ」


「普通胸じゃない?」


「いや、そっちに比重傾くほどデカくねえし」


「あっはは!殴るよ?」


「今その拳振り下ろされたら顔が大変なことになる」


「私だって頑張ってるもん……ぐぬぬ」


こればっかりは頑張ってどうにかなる問題でもない気がするが。昔からそれなりに規則正しい生活はしてるし、よく食べるのが唯だ。ただ、その食べたのは本当にどこに行ってるのか分からないほど太らないし身長は伸びないし、どことは言わんが大きくならない。太らない体質なのは知ってるが。

まぁ頑張ってくれとしか言いようがない。俺は別に唯がどうなろうと好きだし。正直、そこら辺にあんまこだわりはない。


「んっ……くすぐったい」


「え、あ、悪い。どくか?」


「え、それこそ大丈夫なの?葵はタイツから離れると死んじゃうんじゃ……」


「それはもはや病気だろ。いや、いっそ死んでしまえそんな奴」


一旦離れようとすると唯が頭を押え付ける。むぅ……と離れることを許してはくれないので、しばらくの間、唯の太ももを堪能することとなった。

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