300話 2人だけの時間

「おじゃましまーす……」


「……なんで改まってんの。怖い」


「人様の家に上がるんだから謙虚でいないといけないだろう?」


「おう、それ普段のお前に言いたいんだよ」


普段からそこまで謙虚でいて欲しい。……まぁ、普段の全く弁えない唯も可愛いのだが。なんかもうかわいいなら全て許せる奴みたいになってきたな。そこまで甘くはないと思うんだが。いや、でも……うーん、甘いのかね。

部屋に上がってソファに座る。唯は少し緊張した様子でソワソワしている。そんな緊張しなくてもいいのに……と思ってたところで耐えかねたのか、唯が小さく声を上げた。


「えっと……その、する?や、優しくして欲しいけど!」


「そういやそんなこと言ってたなー……」


なるほど。だから改まった様子で妙にソワソワしていたのか。……勢いで言ってしまったが何も考えてないと言ったら怒るだろうか。

いや、そりゃしたいかしたくないかで言ったらしたいが……。

唯は緊張した様子でじーっと見つめてくる。楽な気持ちでいたが、そういった唯を見るとこっちまで緊張してきたな。


「いや、その、あー……どうすりゃいいんだろうなこれ」


「むぅ……はっきりしないなぁ」


「いや、そりゃしたいんだけど……唯はいいのか?」


「ふぇ!?えっと……い、いいんだけど」


「けど?」


「いじわる……」


そう言ってそっぽを向いてしまった。いつもの不満顔。……これ、好きな人には笑っていて欲しい〜なんて言ってるのにおかしいんだけどさ。この顔、本当に可愛い。……だから、つい意地悪したくなる。


「唯」


「むぅ、なー……」


くるりと振り向いた唯を抱き寄せる。うん……やっぱり小さいな。いや、胸じゃなくて体がな?でも柔らかい。唯以外にこんなことしたこと無いから他がもどうなのか知らんが……その、なんだ。なんて言っていいか分からないが、好きだなって思う。


「……ばか」


「この状況で罵るか?普通」


「ばーかばーか。……もう少し、こうしてていい?」


「むしろ俺が頼みたいな。もう少しがどれくらいかは知らんが、俺はもう1~2時間くらいこうしてられる」


「……ふふっ、きもいなぁ」


「きもい言うな。普通に傷つく」


「きもいよ。ま、そんな君がどうしようもなく好きな私も大概だけど」


やはり、にひひっと笑う唯が一番好きだ。どこまでも無邪気でどこまでも可愛らしい。そんな唯が好きなんだなって感じる。


「葵さぁ……」


「なに?」


「私のこと好きすぎない?そんなに求められても葵以上の愛しか返せないんですけど」


「……十分だよ」


「ほんとに?」


「……いや、ご飯も欲しい」


「にゃははっ!素直でいいねぇ。……うん、それじゃ夜ご飯一緒に食べよっか」


「そうする」


だから今はもう少しこの時間を過ごしていたい。唯と一緒の時間を、こうして近くに寄り添って。少しずつ過ぎていく時間を恨めしく思いながら。


☆☆☆


(ヘタレだなぁ……ほんと。そういうとこも可愛いんだけどさ)


それでも少し安心はしたかもしれない。そりゃ、まぁ葵とエッチ……するのは嫌じゃないし、むしろしたいけど!大好きな人としたくないわけがない。はぁ、自分から誘えたらなぁ……って思うけど生憎私も奥手みたい。


(私も同じか……多分、お互いしたい気持ちはあるんだけどね)


そこから一言が言えないのも同じ。お揃いは悪くないけど、そんなとこまで一緒である必要は無いよ。


「ばーか」


「……今俺なんで罵られたの」


「いいじゃん別に。可愛い彼女の可愛い意地悪だと思って見逃してくれたまえ」


「……まぁ別に気にせんけども」


ま、今度は押し倒してあげよっかな。私も少しだけ勇気を振り絞って葵を求めるのも悪くないかもしれない。……でも、その勇気はもう少し後に取っておこう。


☆☆☆


「何食べたい?今日は私がなんでも作ってあげよう!」


「お、マジ?唐揚げ」


「揚げ物は面倒なので嫌です」


5秒前の自分のセリフ復唱して欲しい。まぁ揚げ物の面倒さは分かるけども。特に後片付け。マジで死にたくなる。


「明日休みだしいいけどさー……君はもう少し私を労わることをだね。可愛い私が疲れてしまうだろう?」


「……疲れたら抵抗できないよなぁって」


「ひゃうっ!?」


「……冗談だよ」


「冗談でも困るよ!まったく……超絶奥手の陰キャのくせに」


「今なんかヤバいくらい失礼なこと言わなかった?」


事実なので何も言い返せないのが辛い。目立たないように生きてきたので結果的に社交性が無い側の人間になってしまった。来世では普通に会話が出来るような人間になりたいと切に願う。


「じゃあ……肉じゃが?」


「お、そういえば私も最近食べてないね。ふむ……それじゃ、そうしよっか。にっひひ〜♪なんかこうして夜ご飯のメニュー考えてると夫婦みたいだね」


「それ毎回言ってる気がする」


「気分だよ気分。そして更に制服で夜ご飯の買い出しというのも良いよね。なんか……こう、良いよね!」


「語彙力終わってんのかお前」


「あっはは!葵のタイツフェチ、学園内に広めてあげてもいいんだよ?」


「そんな恐ろしい脅迫ある?」


完全にそこら辺の趣味は唯に筒抜けなんだよなぁ。……色々期待してしまうんですが、さすがにキモいですかね?いやキモいな。誰かに聞くまでもねえだろ死んだ方がいいと思う。


「……まぁ、今なら触り放題なわけだけど」


ボソリと唯が呟いた。触り放題。なんて素敵な言葉なのだろうか。スリスリと自分の脚を撫でる唯がこちらをじーっと見つめてくる。え、本当に触っていいんですか?


「えっと……じゃあ失礼して」


ここで遠慮するのもなぁ……と思って、せっかくだし触らせてもらうことにする。くすぐったいのか、最初に小さく声を上げて震えながらその様子を観察している。

前回……その、なんだ、初めての時にも触れたが、あの時は流れだったのでそこまで緊張とかは無かったし自然に触れられてはいたんだが……


(なんか改めて意識すると緊張するな……)


早く行かないと行くのが面倒になりそうなので、ここらで終わりにするべきなのだろう。ただ、もう少しだけ触っていたいと、もう少しその反応を見ていたいと思ってしまう。くすぐったいのか、口元を抑えてプルプルと震えている。


(やべ、かわい……)


ただ、これ以上すると時間も無くなってしまう。そろそろ止めておくべきか。いや、出来るならもう少し触っていたいんだけども。

手を離して唯の体を起こす。少し呼吸は荒れていた。はぁ……はぁ……と小さく息を吐いた唯が真紅の瞳を向けてくる。


「……膝下まででいいの?」


「なっ……!?」


「ふ、太もも……さ、触っていいよ?」


触っていい……と言うよりかは触って欲しい……みたいな言い方。……いや、いやいやいやいや。え、いいの?なんかもうそこまで来ると色々止まらなくなりそうだけどいいの?買い物とか夕飯とか面倒になりそうだけど本当にいいんですかね。


「……本当にいいのか?」


こくっと頷く。……もうさっきから可愛いって感想しか出てこない。なかなかに語彙力が終わってる。


「んっ……ふぅ……ん」


「悪い、くすぐったかったか?」


「うん……で、でも大丈夫!……ただ」


「ただ?」


「触り方……すごくエッチなんですけど?」


「いや、ごめん。ほんとごめん」


反応が可愛い……というか少しエロいなと思ってしまっていた。いや、つか状況からしてエロい。そして多分だけど今の俺の顔は最高にきもい。


「あと地味にスカートの中に手入れてるの気付いてるからね?」


「………………………………」


「こーらー。なぜ黙るのかなー?」


それは太ももを触らせてるのだから仕方の無いことではないか?と言いそうになったが、今何を言っても言い訳にしかならないよな。さすがに下着の部分は触ってないが、どうしてもそこら辺は欲が出てしまったらしい。

唯なら何だかんだ許してくれそう……いや、普通にスカートの中に手を入れられるのは不快か。うん、さすがにそうだよな。


「別にいいけどさ……葵ってもしかして変態さん?」


いや、いいのかよ。しかし変態と言われるのは少しだけムッとくる。そもそもこんな状況で興奮しない奴がいるかって話だ。いないだろ?


「男だから……こういう状況は普通に興奮するというか」


「……ふふっ、やっぱり変態さんだ。けど……そんな葵も好きだよ」


「変態って嬉しくねえんだけど……」


「にひひっ♪私と一緒だよ」


……あぁ、そうだ。それなら俺も変態なのかもしれない。ただそれも唯と一緒なら変態でもいい気がしてきた。


「……ね、今日一緒に寝ない?」


「なんで泊まるのは確定事項みたいになってんだ」


「いいじゃん別に。君だって私と一緒に寝たいだろう?」


「……………………まぁ」


そこら辺は欲望に従うしかない。当然、一緒に寝られるなら寝たい。緊張やら何やらで寝れる気は一切しないが。

明日が休みでよかったと思った。

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