62話 限りなくデートに近い何か

「ごめんごめん!待たせたかい?」


「5分ほど待ったな」


「むぅ……そこは『俺も今来たとこだよ……』って言うところだよ!」


頬を膨らまして怒る唯。可愛いけど実際に待ったし、ベタすぎてもなぁ……と言う所だ。


「ほら、行くぞ」


「了解。デート、楽しもうね!」


デートなんてもんでもないけどな。見方によればデートなのかもしれないけど。

ただ結局今日に関してはただの買い物だ。個人的にはササッと買いたい。


「けど良いのか?水着買うのついて来てもらって」


「私も買おうと思っていたしね。葵が選んでくれても良いんだよ……?」


いたずらに、それでいて怪しげに笑う唯。なんだか気恥ずかしくて目を逸らす。ほんと唯は自分の可愛さってもんを自覚して欲しい。いや、自覚はしてるんだろうけど。でもってその上でそういう行動をするんだろうけど。

10年ほど一緒にいるが、最近そういうのが多くなっている気がする。「照れてる葵も珍しいねぇ……可愛い」と言うが、俺からすれば唯の方が何万倍も可愛い。

唯のことはもちろん好きだ。けど最近その「好き」がどういう類のものなのかが分からなくなってきている。


「葵ー?どうしたんだい?ぼーっとして」


「ん?あぁいや別に。唯にどんなのが似合うのか考えてた」


「……えっち」


「唯が選んでくれても良いんだよ?って言ったんだろ……」


ぷいっとそっぽを向いてしまった。これはさすがに理不尽ではないだろうか……。

そもそも似合う水着を考えるってことは唯の体とかそう言うのを想像しないといけないわけで……あぁやっぱやめておこう。思っきし地雷踏んでるだけだこれ。


「……とりあえず行くか?」


「うん……」


☆☆☆


俺の買い物自体はすぐに終わる。そもそも地味なやつであれば何でも良いからなぁ。

試着しようかと思ったけど似合うもクソもないのでサイズだけ確かめて購入。俺の買い物はこれだけだ。


「早いねぇ。もう少しかかると思っていたよ」


「特にこだわりとか無いしな。地味な色であれば何でもいい」


「へぇ……そうなんだ。私、結構かかりそうだけど大丈夫かい?」


「問題無いぞ。そもそも女の子と買い物に来ている時点で覚悟している」


「むぅ。あんまりそういうことは言っちゃダメだよ?私だから構わないがね」


だって長いってよく聞くし。あの茜ですら「裕喜と一緒に買い物するのは苦手」と言い切るレベルなのだ。覚悟は決めないといけない。

これは父さんが言ってたことだが、母さんに「どっちがいい?」と聞かれて、真剣に悩んで指定したら「そっちかぁ……うーん」とか言い出したらしい。唯一別れたくなった瞬間だとか。いやまぁそれはどうでもいい。

唯と一緒に女性水着が売っている場所へ。種類がたくさんあるが、正直なところ悩む必要あるかね……と思ってしまう。あ、いやダメだ。過激すぎるものがある。こんな水着でプールなんぞに行ったら大変な事になるだろう。


「うーん……これかなぁ」


「他にもたくさんあるから気に入ったのを買えば良いんじゃないか?別に気を使わなくていいぞ?」


「そう?じゃあごめん。待たせてしまうね。葵が決めてくれたら一瞬なのだけどね……」


「俺が選ぶってなると露出が少ないやつになるぞ」


「おやおや。そんなに私の肌を他人に見られるのが嫌かな?」


「逆にお前は自分の肌を不特定多数の人間に見られたいのかよ。俺なら嫌だが」


あくまで俺が唯の立場ならだが。道行く人に自分の姿を見られるのは別に構わない。

けど自分の肌をって考えると嫌だしな。恥ずかしいし。


「まぁ唯が仮に露出の多い物を着たいなら別に俺は止めないけど、俺に選ばせるなら露出は少なめだな。幼馴染がナンパとか確実に面倒だし」


「へぇ……プールとかに行くってなったら一緒に来てくれるんだね……」


「……うるさい黙れ」


無心で言っていたが、そういう事になるのか。まぁどうせプール行くとなったら確実に強制連行だしな。


「とりあえず選んでこい。俺はここで待ってるから」


「うん。しばらく待っててね!」


「出来れば少しにして欲しいんだが!?」


その言葉を聞いて笑いながら店内に入っていった唯。さて、ここから一体何時間かかるんだろうなぁ……と若干不安になる。

とは言っても気を使わなくて良いと言った手前すぐ終わらせろとは言えないしな。

スマホでもいじって待ってようとすると、シャッター音がする。


「あら葵。なーんで女性水着のお店の前にいるのかしら。……もしかして変態?」


「待て。大きな勘違いをしているぞ。俺は唯の買い物に付き合ってるだけだ。だからとりあえず通報するのをやめろ」


わざとらしく音量最大にしてキーパッド打つのやめて!めちゃくちゃ不安になるから!


「……てか真尋は何してんだよ。てか何で制服」


「いえ?特に何も。学園に忘れ物をしたから取りに行ってただけよ。ほら、この学園って制服に着替えないといけないでしょう?」


あー……そう言えばあったなぁそんなルール。いや多分一般的なんだろうけどさ。ジャージすら認めてもらえないのはあれとして。


「今更だけどうちの学園の制服って中々いいデザインしてるのよね。私は結構気に入ってるわ」


くるりと1回転。……真尋がちゃんと規律を守る生徒で良かったなぁ。スカート丈がきちんとしてるおかげで下着が見えるなんてことなくて助かる。まぁ規律と言っても名前だけなので守ってる奴は少ないんだが。


「じゃあ私は行くわね。せっかくのデートを邪魔するわけにはいかないもの」


「デートじゃねえよ!?いや、形的にはデートなのかこれ」


「そこは考え込むところじゃないと思うわ。まぁ楽しみなさい」

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