56話 ちょっとした喧嘩

「おー、お前らお帰り。如月と彼方見なかったか?」


「あの2人なら浦安だと思いますよ?というか私達とは別行動でしたし」


「そうか。ちっ、バスもう出るんだが……」


舌打ちをして苛立ちを隠そうともしない美鈴ちゃん。この人の事は普通に好きだし、基本的に従ってはいるがそれはどうなんだろうな?と感じる。

と、苛立ちの要因である2人が到着する。


「ちっ、おせぇよ……もうバス出るからとっとと座れ」


しかしその2人に誰もが違和感を抱く。


「…………」


「…………」


……なんか不機嫌じゃね?茜も彼方も。2人は仲良しカップルとして有名なぐらいで滅多に喧嘩をしない。意見が対立する事もあるが、なぜかゆる〜く解決してるし。

だからこそ個人ならまだしも2人でいて不機嫌ってのは初めて見る光景だ。


「茜?」


「葵、いや少し言い争いになってな……くそ、思い出したらまた腹が立ってきた」


「こっちのセリフだね。茜君が悪いもん」


「あ?おい裕喜。全て俺が悪いって言うのかよ」


ピリピリでした空気。確実に何かあったようだが、何があったか分からない。滅多な事では喧嘩をしない2人だからなおのことだ。

どちらにせよ俺のすぐ近くで喧嘩はやめて欲しいんだけどな。


「裕喜ちゃん、私が話を聞こうじゃないか!」


てめえ馬鹿野郎。こっちにまで相談者が現れるだろうが。茜もそっと前方座席からこっち見んのやめろ!嫌だ!絶対めんどくさい!


「葵……それと佐伯も俺に協力してくれ!」


「いや俺は……」


「任せて!」


おいいいいいいい!!!!何言ってんだ玲!絶対めんどくさい事になってんぞこれ!

しかしもう断れる雰囲気ではなかった。玲は乗り気だし、茜は少し安心したような表情になっていた。断りずらすぎる。つか断れなくないこれ。

もう逃げ場はない。俺は協力せざるを得ない状況になってしまった。


☆☆☆


「おはよ。まぁ上がれよ」


一夜明けて土曜の昼間。如月茜は玲を連れて家へとやって来た。


「葵良いとこ住んでんな。それも1人なんだろ?贅沢だな」


「親が過保護なだけだよ。こうやって良いとこに住まわしてもらってんのも親のおかげ。俺自体はなんもやってないしな」


「そうなのか。まぁありがとな。これ、みんなで飲むために買ってきた」


「さんきゅ」


適当に座らせる。今日の議題は彼方との喧嘩はどちらに非があるか。それと仲直りの仕方。うん、仲直りしたいなら非があるかの話いらなくない?


「そもそも何があったの?」


☆☆☆


「おはよー!唯ちゃんも真尋ちゃんもありがとね!」


ちなみに瑠璃は用事があるとのこと。向こうには茜と佐伯君がついているはずだから2対2だね。

しかし喧嘩かぁ……。私も葵と喧嘩することあるけど、恋人同士の喧嘩ってどうなんだろ。私もいつかは……にへへぇ。


「顔が怖いよー?」


「妄想中ね……」


「まぁそれは良いよ。何があったんだい?」


「実は、待ち時間の事とかで言い争っちゃって」


「あー……」


なんとなく予想できてたけどねぇ……喧嘩が起こりやすいらしいし。待ち時間が長いのでストレスが溜まってきたり、パレードかアトラクションかで対立する事もあるらしい。


「けど直接的な原因……と言うか待つ事になった原因があるの!」


☆☆☆


「は?チキン?」


「そう。食べ歩きするようなやつあるだろ?あれを買っててファストパス取れなかったんだよ。それで裕喜が怒った」


「いやそれは茜が……」


「けど裕喜が食べたいって言ったんだぜ?だから裕喜の分も一緒に買ってたんだよ。そうしたらファストパス取れなくて怒り出す。さすがに理不尽すぎる」


まぁそこら辺は俺はよく分からないし、喧嘩の理由も割かしどうでもいいので何も考えちゃいない。なぜそれで喧嘩になるのかもよく分からないが、恋人がいると分かるようになるのだろう。現状俺が言えることは何も無い。


「まぁ確かに取った後でも買えたからそこは俺にも非がある。けどそれなら俺が買ってる間に取ればよかった話だろ?」


「確かに。彼方さんはその時何してたの?」


「めっちゃにこにこ笑顔で鼻歌歌いながら待ってた。めちゃくちゃ可愛かった」


「お前実はそんなに怒ってないだろ」


あくまで俺の話ではあるが、キレてる時って普段可愛いと思う仕草とかもイラッと来るもんだ。その当時は怒ってなかったとは言え今になっても可愛かったと言えるぐらいならそこまで怒ってはないだろう。


「……まぁ確かにそんなには。けどイラつく事にはイラつくだろ?どっちが悪いかだけはっきりしておきたい」


「うーん……聞いてる限りは彼方に非があると思うけどな。だってあいつ突っ立ってたんだろ?それで文句言うのは面倒すぎるだろ」


「僕もそうかなー。如月君にも非があるとは言えね?」


満場一致で彼方。まぁメンツがメンツなのでこれは仕方ないだろう。あっちも同じことやってるだろうし。


☆☆☆


「彼方さんが突っ立ってるのは少し問題ね。だってそこのタイミングで取れたわけでしょ?」


「うっ……おっしゃる通りです」


あーやっぱそう言うよねぇ。私もそう思うもん。裕喜ちゃんの分も買ってくれてるわけだから裕喜ちゃんは何かしら出来ることをやらなくちゃいけないと思う。


「ま、裕喜ちゃんが謝るのが良いんじゃないかな。仲直りしたいんでしょ?」


「……うん。けど、恥ずかしい」


「あーんなにイチャついてるんだから大丈夫さ。ちょっとやそっとの精神力じゃ人前であれだけイチャつくなんて出来ないからね」


胸焼けしそうになるくらいイチャついてるもん。いや裕喜ちゃんは楽しそうで幸せそうだし良いんだけどね。私に2人の愛を邪魔する権利は無いし。

まぁ仲直り出来たらいいなぁ……て思うよ。

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