50話 似合わない雰囲気

「あー……骨が無さすぎる」


「確かに難しくはないわね」


テスト当日の今日まで欠かさず勉強はしてきたが、いくらなんでも簡単すぎる。苦手なはずの国語もスラスラと解けてしまっていた。

明日は英語と生物。これも特に苦労することはなさそうだ。得意教科ではあるし。


「唯、帰るぞー」


「……!い、いや……ごめん。き、今日は1人で帰るよ。また明日!」


そう言ってすごい勢いで教室か出て行った。

なんか……最近多いんだよな。いや、多いどころかお泊まり会からずっとこうだ。あの夜の後の朝も全然会話出来なかったし。

原因は1つしかない。やっぱやめとくべきだったな。


「ねぇ葵。あなた少し私に付き合いなさい」


「はぁ!?いや俺帰って勉強……」


「付き合いなさい。心配しなくても明日は葵の得意教科よ」


☆☆☆


うぅ……またこれだ。葵の顔を見れない。原因はあの夜。確かに私が全面的に悪いし、葵も釘を刺してくれたのだろうけど……なんか、変に意識しちゃってる。違う。私の……私の想いはそういうのじゃないのに。


「あれ……天音。1人?」


「え……?あ、在原さん。どうしたの?」


「こっちのセリフ。珍しいの。いつも皐月と一緒なのに。何かあった?」


うーん……これは、言っていいのかなぁ。なんかものすごい誤解を持たれそうなんだけど。と、悩んでる所にまた声がする。


「あっれー?天音さんだー!なになに?1人?あ、ならちょっとボクに付き合ってくれないかな?」


「ふぇ?あ、あぁうん。構わないよ……」


☆☆☆


「はぁ〜〜〜……馬鹿じゃないの?」


「返す言葉もございません」


事の成り行きを聞いた真尋の第一声はそれだ。ファストフード店に寄った俺達は適当にポテトやバーガーなどを頼んで席に着いていた。で、絶賛お説教中である。


「確かに唯にも問題はあるわ。あの子、いたずら大好きだから。けど襲う?普通襲うかしら」


「声がでけえよ……ここ公共の場だぞ。あと襲ってない。忠告をしただけだ」


マジでもっと小さい声で話してね。ただでさえ涼風真尋と言う誰しもが認める美少女と一緒にいるせいで目立つのだ。せめて声ぐらいは小さくして欲しい。


「もちろん、他にやりようはあったよ。……けど、結局流されてまた同じ様な事になると思う。まぁやり方は最悪だが」


「……押し倒したのよね?」


「馬鹿言うな。そういう姿勢になってしまっただけで、そのつもりは1ミリも無い」


そもそもそう言うのは付き合って恋人同士になってから色々順序を重ねてたどり着く行為だ。そこら辺は弁えているつもりなので襲う気は微塵もない。……まぁそんなの説得力無いだろうけどさ。


「それよりもすぐそこの部屋でまさかそんな事が起きてたとはね……可愛かった?」


「いや、あの時は結構イライラしてたからな。可愛いとかそう言うのは思わなかったな」


「ま、可愛かったら襲ってそうね」


「そんな事は……ないとも言えないけどさぁ」


これでも思春期の男子高校生だ。当然そういった事にも興味はあるし、してみたいと思う。かと言ってじゃあ順序すっ飛ばしてしていいか?と言われたらそうじゃない。


「ま、改めて謝るべきよ。原因は唯だとしてもね。……と言うか、あなた達がそんなだと私も落ち着けないの」


「……そうかよ」


こういう時、真尋に救われたってのは何度もある。言い方的には自分のためと言う感じはするが、真尋はみんな仲良くしていたいからと思っているのだろう。

ふぅ……と息を吐きバーガーを食べる。チーズが2枚入っててボリューミーな奴。乳製品苦手でチーズも苦手なのだが、何故か食べれる。不思議だなぁ……。


「葵、口開けなさい」


「は?なんだよ……むぐっ!?」


口に何かを押し込まれる。なんか酸っぱい味だなこれ。これ……ピクルスか?

ごくりと飲み込んでから言う。


「なぜピクルス」


「……苦手なのよ。何か文句でも!?」


「いや無いけど」


俺にだって苦手なものくらいあるしな。それにピクルスが苦手な奴など何度も見てきているので慣れてる。頬を赤らめながら必死に弁論をする真尋。……ほんと、こいつには救われっぱなしだ。


☆☆☆


「あ、ミトコンドリアはね……」


「ふむふむ」


「なんで普通に勉強会になってるの」


私が聞きたいのだけどね。ファミレスで勉強会とか初めてだから意外とわくわくしてるのだけど。


「天音さん!ありがと!これで明日はどうにかなりそう!」


「と言うか柚葉。授業中何してるの?これ結構簡単な範囲……」


「雫が簡単!?え、どうしたの!?」


「そんなに在原さんって成績悪かったかねぇ」


なんか勉強出来そうなオーラ出てるもん。葵が言うには産まれ持った能力をスポーツに全振りしたような女の子らしいけどね。


「私は成績悪い。頑張ってはいる」


「雫の頑張りはボクももちろん知ってるよ」


「へぇ……じゃなぁい!なんで私ここに居るのさ!」


なんかしれーっと勉強会行われてたけど、なんで私ここにいるのか分からないんだけど?


「天音、最近皐月と仲悪い。何かあったのかなって」


「わ、私と葵?別に仲悪くなんか……」


そう。仲なんて決して悪くない。だからこれは私自身の問題だ。じゃあ私は今何をしたい?……本心じゃないかもしれないけど、これしか出来ないかもね。


「本当は……色々あったよ。聞いてくれるかい?」


「ん。聞く」


☆☆☆


テストも2日目に入る。4日あるのでまだ半分も行ってないのだ。面倒なことこの上ない。

昨日真尋に言われたこと。原因が誰であろうと、とりあえず改めて謝ること。

その唯と顔を合わせる。


「あうっ……あ、葵……おはよ」


「お、おう……おはよう」


やっぱ緊張するなぁ……けどまぁこうやって挨拶してくれたのだから俺もそれに応えるべきだと思う。


「あ、あー……その、あの時はごめん。いくら忠告とは言えやりすぎたと思ってる」


「いやいや!わ、私がからかったのが悪いんだよ。き、気にしないでくれたまえ……その、私こそ……ごめん」


たじたじと言った雰囲気で謝り合う。あまりにもそれが似合わなすぎて、思わずふっと笑ってしまった。


「ふっ……ゆ、唯……ごめ、いや、真面目に謝ってるのは分かるんだけど……」


「わ、私も……あははっ!似合わないねぇ。私達には」


「あー……すっきりした。教室行くか」


「うんっ!」

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