49話 唯のお誘い
「楽しいわね。たまにはこう言うのも良いかも」
「…………」
「唯?」
ぼーっとした表情の唯。のぼせてる……わけでもなさそうね。まだそんなに時間は経っていないし、唯はあまりのぼせるタイプじゃない。
「葵……さ。ピアス外してたなって」
「……あまり大したことじゃなさそうね」
にししっと唯が笑う。そう、大したことじゃない。唯がプレゼントしたとかならまだしもあのピアスは葵が自分で買った物。気に病むことはないもの。
「まぁ葵は自分でまた買うだろうけどね。今度は穴開けそうかな。……でも、私のせいかな?って思うこともあるのさ」
「それは……」
無いとも言い切れないよのね。唯がクラス、学年の間でとてつもない人気を誇っているのは事実だし、そこまで目立つキャラではない葵が仲良くしてるのは周りから見たら面白くないんでしょうね。ま、そんなのくだらないと思うけれど。唯の心は1人の人物しかいないだろうしね。
「けど、葵があまり気にしないでくれて良かったよ。て、暗い話をして悪いね。それより真尋と葵が作ったカレー美味しかったよ!良いお嫁さんになりそう」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわ。今の所はそんな相手いないけれどね」
あまり恋愛に興味はないけれど、流石に彼氏いない歴=年齢は傷付く。カップルが多い学年だから尚更ね……。
「そう言う唯は」
「私かい?うーん……まだまだかなぁ」
「……そう」
きっといつか結ばれるのだろうけど、なるべく早く見たいと思ってしまうのは何故なのかしら。
☆☆☆
「はー、さっぱりしたー。葵、ありがとうね」
「ありがとね。さて……何かする?」
時間はまだ8時だ。寝るには早すぎる。かと言ってゲームだと誰か1人は観戦になるしな。
「トランプとかある?」
「いや、無いな。実家にはあるんだけど」
そもそも一人暮らしだっての。1人でトランプ手に取って何をしろと言うんだ。マジックが出来るほど手先は器用じゃない。
針の穴に糸は上手く通せないし字はそこまで綺麗じゃない。かと言って汚い字だなぁ……と思うほどでもないんだよな。
「ふっふっふ……最近の世の中は便利になったね。携帯があれば大富豪なんかが出来るんだから!」
「大富豪……ルール分かんねぇ」
革命とか都落ちだとかをかろうじて知っているレベル。当然やるのは初めてだ。
玲が口を開く。
「とりあえずルール説明をして欲しいかな」
「基本的に2が強くて3が弱いって考えればいいよ。あ、ジョーカーは何の上にも出せるからね。ちなみにジョーカーよりも強いのがスペードの3」
え……?3が弱いんじゃないの?あー……もうこんがらがってきた。全く理解できない。
「とりあえず始めましょう?やってる内に分かると思います」
☆☆☆
(よし、11出してくれれば俺の勝ち!)
何だかんだ5.6回ほどやるとルールも理解してきた。現在の俺の手札は3と5。正直なとこクソみたいなカードが残っているが、11バックさえ発生すれば無双タイムである。
それに11はまだ1枚残っているはずだ。さぁ!早くそれを出せ!
「あー……じゃあ切らしてもらうね」
唯が8を出す。これで唯の残りもあと2枚になった。これで唯は7.10を出せば勝ちだ。12は既に消し飛んでいるためここで出せるカードは限られている。
それに2.Aも消し飛ばされている。ジョーカーが残っているのはボンバーを2枚出した瑠璃がジョーカーを持っているからだろう。同じような理由で真尋も12を消している。13はスキップがあるので厄介なのだが、真尋は自分の持ってるジョーカーを消し飛ばされることを恐れたのだろう。
「じゃあ……これで私の勝ち」
唯が出したカードは10。10は自分の持っているカードを消せるので、誰かに渡すとかは無い。
「はい上がり。あ、ちなみに私の持ってたカード」
そう言って唯が出したのは、11。は……?と言う声が漏れた。もう一度言うが、俺が所持しているカードは3.5。バックエースの3を持っているし、ジョーカーとスペードの3が既に消えているので、11を出されることが俺の勝ち筋だった。まぁそれでも富豪以下だが。
それがどうだろう。10消しで消えた唯の最後のカードはまさしく11。……今、俺の勝ち筋は潰えただろう。
当然10の上に出せるカードはない。その後も最弱の3。特徴のない5に何が出来るのか。
華麗なまでに負けていった。
「くっそ……。また大貧民」
「あははっ!悪いね。葵の勝ち筋潰しちゃって。私が7なら葵の勝ちだったのだけどねぇ」
ふふっと唯が笑う。うん、笑って誤魔化そうとしないで?3連大貧民は辛いんだよ。
「あー……もう無理。勝てねえ……」
1番輝いてた時が平民だもんなぁ。普通って尊いもんなんだなって思う。大富豪マジで色々学べるな。
☆☆☆
「じゃ、そろそろ寝るかな。結局勝てなかった……」
あの後も何度かやったが、1番良かったのが富豪。しまいには貧民で大喜びする始末だ。弱いったらありゃしない。
「ふふっ、そうだねぇ。後はお楽しみ……だね」
「妙な言い方すんな。普通に寝てくれ」
ほんと、本気にしてしまうからやめて欲しい。こっちだって理性保つのに必死なんだよ。
「僕、やっぱりここ?」
「負けたのは玲だしな……。申し訳ない」
今度からはちゃんと布団用意するよ。とりあえずテスト終わったら買いに行くか。
歯を磨き部屋へと向かう。唯は既にベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
「あんま暴れんなよ?」
「安心したまえ。……それより葵。本当に何もしないのかい?」
ドキリと心臓が跳ね上がる。え、何その言い方。……まるで、何かして欲しいみたいな言い方だったけど。
冗談だって分かってる。いつもの悪ふざけの一種だ。……けど何故か、俺がそれを悪ふざけだと認識できなかった。
「ばっ……早く寝ろ」
「おやおや。悲しいね。せっかく誘っているのに」
……相当俺も心に余裕が無かったのだろう。その言葉がちょっとイラつく。まぁそろそろそう言う悪ふざけもやめて欲しいので、少し脅かすことにする。
「唯」
「ん?なんだ……!ふぇ?あ、葵!?」
仰向けにし、小さい手を掴む。今、押し倒すような姿勢になっている。頬を赤くしてあわあわとする唯。普段なら可愛く見えるのだが、イライラしている分あまり良い印象は抱かなかった。
「そろそろ冗談でもやめろ。幼馴染だろうが何だろうが、俺にも理性の限界ってのがある。……これ以上からかうなら本当に襲うぞ」
「……!ご、ごめん。もう言わないさ……」
「分かってくれれば良いよ。じゃ、早く寝ろよ?」
「う、うん……」
ビクビクと肩を震わせる唯。……さすがにやりすぎたか……脅かすつもりではあったが、怖がらせてしまった。
「あ、あー……その、怖がらせるつもりは無かったんだ。すまん」
「い、いや。私が悪いから……その、ごめん」
お互いに謝ってこの話は終わり……としたいのだが、頭の中から先程の行動が離れずに、俺はこの夜に眠ることが出来なかった。釘を刺すためだったが、返って自分へのダメージの方が大きかった。
……やるんじゃなかったなぁ。
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