45話 急な申し出

11時に来るとの連絡が入っていたが、その10分ほど前にインターホンが鳴った。丁度暇してたのでタイミングはバッチリだが。


「お邪魔します」


「お邪魔します」


「おう、よく来た……な?なんか荷物多くないか?」


「気にしないでくれたまえ。佐伯君と瑠璃は少々遅れるそうだよ。荷物は……納戸で良いかな?」


「まぁ良いけど……」


勉強会にしてはかなり多いし、何故かあるスーパーの袋。いやまぁ晩飯ぐらいなら作ってもいいので、材料を買って来てくれたのは嬉しいんだけどさ。

ただ明らかに勉強会では終わらなそうな荷物の寮だ。鞄が大きいんだよな。

とりあえず部屋に上がらせる。何度も言うがこの部屋は広いので大人数で集まりやすいのだ。


「麦茶で良いか?ジュースまだ冷えてないし」


「ありがと。それにしても広いわね。部屋余らせてそうだし私もここに住もうかしら」


「ま、真尋!?な、何言ってるのさ!」


「冗談よ。部屋から色々持ってくるの面倒だわ」


いや、うーん……家賃さえ払えばとは一瞬おもったけど、それ以上に色々ダメだなやっぱり。

同性ならまだしも異性はやばい。主に俺が死ぬ。と言うか一人暮らしに慣れるのが目的で寮を離れて暮らしてるのだから誰かとルームシェアすること自体が間違いだよな。


「……随分とでかい荷物だな」


気になってたことをさりげなく言ってみる。そもそも勉強会に必要なものと言えば教科書、ノート、ワーク、筆記用具とかそのくらいだろう。

一応買ってある参考書なら家にあるしそこまで荷物が多くなることはないと思う。


「あー……知りたい?」


「うん。知りたい」


「そうだね。知りたいよね?えーっとね……佐伯君と瑠璃がそろそろ来るだろうから、来たら教えてあげようじゃないか」


「はぁ……」


☆☆☆


「よう。よく来たな2人とも」


「お邪魔します」


「お邪魔します」


玲と瑠璃を家に招く。やはりと言うか予想通りこの2人の荷物も大きかった。なんなのそれ。流行りなの?

「よく来たねー」と唯が言う。俺の家だよ。

そしてくるりとこちらを向いて、


「じゃあそろそろ発表しようじゃないか。葵、お泊まり会しないかい?」


お泊まり会?と言うとあれか。この家に4人が泊まるってことか。

……いやまぁ良いんだけどさ。一応納戸とか洋室も片付いているし。けどそれ以上に思う事がある。


「急すぎないか?事前に言ってくれれば良かったのに」


「あはは……それは申し訳ないね。けど事前に言ったら面白味が無いじゃないか」


「面白味どうこうの問題じゃないぞ。泊まるなら事前に言ってくれ。そうすりゃ布団も出しておいたしな。今回は許すけど次回からは頼むぞ」


「へぇ……『また』泊まっても構わないんだね?」


別にいいかな。1人は退屈だし、たまにならそういうイベントがあっても。それに部屋も放置されるくらいなら使われる方がありがたいだろうし。


「じゃあ荷物は適当に置いといて。あ、布団確か3枚しかないんだよな。誰か1人ソファで寝る事になるけど良いか?」


誰か1人と言ってもこの家の主は俺だし、ベッドは俺が使うので4人で争ってもらうことになるが。

というかもう1人兄弟がいたら布団足りたんだけどな。


「ほら、葵もじゃんけんするよ!」


「え?いや俺ここの住人……」


「私達のルールでは家主だろうと関係ないのよ。さぁ!寝床をかけたデスゲーム始まるわよ!」


見ると玲や瑠璃もノリノリで、どう考えても俺が家主だから〜とかは関係無さそうだ。

まぁ良いや。勝ってベッドを取れば良いわけだし。


「はい、行くぞ。じゃーんけーん」


☆☆☆


納戸から布団を取り出す。それを使っていない部屋に2枚、自室に1枚敷く。

じゃんけんで勝った唯は嬉しそうに「ふかふかー♪」と言いながらベッドの上に転がっている。俺の聖域が……。

とは言えソファという最悪のポジションにならなかったのは不幸中の幸いと言ったところか。

ちなみに玲はソファで拗ねてる。まさかの1人負けを喫して早々にソファ寝が決まってしまったのだ。


「いや1人負けって……僕じゃんけん弱すぎない?」


「じゃんけんに強いも弱いも無いと思うけどなぁ。運だし。まぁ……どんまい」


俺にはそれしか言えないしな。と言うか家主である俺が自分のベッドから追い出されたのだ。俺も文句しかない。

と言うかそれ以上に問題があるのだ。


「ねぇ葵、あなたの部屋に布団2枚敷けないわよ?」


「すまん。場所が無いんだ俺の使ってる部屋の方が狭いし」


これベッドだのタンスなどを置いた後に知ったんだが、なんと俺の部屋の方が狭いらしい。別に連休中の父さんに手伝ってもらえば部屋を移れるが、カーペットがな……。部屋の大きさに合わせて購入したのでこれを移すとなると床が余るんだよな。個人的にそれが気に食わないのでこうしてる。


「だから誰か俺と相部屋だ。ほんっとうに申し訳ないけど我慢してくれ」


いやまぁ嫌だろうけどさ。これで相部屋の相手がイケメンならまだしも残念ながら俺だ。自分の容姿が見向きも出来ないほどでは無いと信じたいが、だからと言って良いわけじゃないしな……。


「なら葵。今晩は私と寝ようか。私は君と相部屋でも全然大丈夫だしね」


唯か。……まぁ1番理解出来てる相手だしな。

けど怖いんだよなぁ。何してくるか分からないし……。とは言えこうなったのはおれの責任だし、その中で立候補してくれたから唯だよな。


「分かった。本当にすまん」


この選択が後で俺を危機に晒す事になるとは、まだ誰も知る由はなかった。

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