37話 味噌汁とホイル焼き

調理実習と言うと俺はどうしても中等部までというイメージを持ってしまうのだが、高等部でも調理実習と言うのはやらされるらしい。料理をそもそも得意分野なので構わないのだが、調理実習と言えばあまり好きではない物を作らされた思い出がある。


(というかこの班が不安すぎる……)


産まれ持った能力をスポーツに全振りしたような2人。在原さんと林だ。彼方は……まぁ出来そうだけどさ。そつなくこなしそう。


「はい、じゃあ今日は鮭のホイル焼きを作ってもらいます。手順は前に書いてあるので見ながら調理を行なってください。それではどうぞ」


真ん中の台からバターだのもやしだの鮭などを取っていく。ホイル焼き程度なら比較的簡単に作れる……はずだろう。


「さて、じゃあ始めるけど……これって個人で作るのか?」


「え……知らない。説明の日は公欠してたから……」


「同じく」


「私もだねー」


もう早速不安になってきたんだが。かくいう俺もあの時はうとうとしていたため説明をほとんど聞いてないのだが。周りの席を見渡すとみんなで作る班、個人で作る班が存在していた。


「どっちでもいいみたいだな。3人はどうしたい?」


「一緒に作る。美味しいの作ろ」


「俺も出来れば一緒にかな。彼方は?」


「うんうん。私も一緒に!」


内心ほっとしている自分がいる。個人でやれば自分のは安心なのだが他が心配すぎる。まぁ最悪全員分死ぬ恐れもあるがその時はもう仕方がないだろう。


「じゃあ……サラダ油取って。ホイルの中に塗るから。ん。みんなの分やるよ?醤油とレモン汁ならバターは少なめ。ポン酢なら多めなの。どうする?」


「じゃあ俺は多めで。彼方と葵は?」


「じゃあ私も多めで!皐月君も多め?」


「まぁ多めで良いや」


「ん。任せて」


ふんすときあいを入れて腕をぐるぐると回す在原さん。ぺたぺたとバターを塗る。


「じゃあ任せるわ。俺らは何すればいい?」


「林はえのきを割いて。それで皐月と裕喜はお味噌汁を作っておいて欲しい。安心して。お米は4人分あるよ」


ふっ……と言ったドヤ顔でタッパーに入った白米を見せてくる。まぁ味噌汁、鮭のホイル焼きと米が欲しくなるようなメニューなのでこれはナイスすぎる。


(というか在原さんって料理出来るのか)


さっきから指示が的確だし小分けにした調味料は在原さんがこれくらいだと丁度美味しいのと言って分けたものだ。


「じゃあ俺達は味噌汁作るか。彼方、ネギ切ってくれ。……彼方?」


「え?あ、あぁうん!?ね、ネギね。任せてよ!」


……ひょっとして。


「彼方……お前まさか料理が」


「出来るもん!で、出来るもん……」


出来ないんだな。意外ではあるけど。俺の予想だと出来なさそうなのは在原さんと林だったからなぁ。

在原さん、林のコンビはもやしなどをホイルの中に敷いたりだとかの工程に入っているので早くしないとホイル焼きだけが早く出来る恐れがある。


「えーっと……ネギは切れるか?」


「えーとえーと……お、教えてください」


「お、おう……」


どうやら料理が出来ないことを認めざるを得なくなったらしい。……あと茜はほっとして胸撫で下ろすのやめようか。一応彼方はお前の彼女なんだぞ。


「斜めに薄切りするんだ。……そうそうそんな感じ。そのネギ1本分くらい切ってくれ。あ、緑のとこは切らなくていいから」


「う、うん。頑張るよ!」


さて、今の内に出汁とか取っとくか。鰹出汁とかあれば良いんだけどな。煮干しとかで取れとのことなので仕方ない。

浸すところに関しては先生が事前にやっておいてくれてたそうだ。まぁ、今からってなると30分以上かかるので当然と言えば当然なのだが。

これを沸騰させてから弱火にし、アクを取り除きながら5〜10分煮込む。


「彼方ー。ネギどうなった?」


「えーっと……こんな感じ?」


「おうそんな感じ。全部切った?」


「うん。次は何やるの?」


お、やる気はあるようだ。こういう奴になら色々任せたいと思う。


「ワカメに水吸わしとくのと……あと豆腐だな」


「りょーかい!任せてね!」


やる気がある彼方を横目に出汁を摂る。アクを取り除く作業嫌いなんだよな。なんかムカつく。

ひょいひょいっとアクを取り除く中、前の班からとてつもなく睨まれるような視線を感じたが気のせいだろう。気のせいであってくれ。


☆☆☆


「うっま」


味見をして第一の感想がそれだ。自分で作っておいてなんだがかなりの出来だ。やっぱ出汁をしっかり摂ると違うのかな。

ホイル焼きも丁度完成したらしく、とてもいい匂いがする。電子レンジからはホカホカのご飯が出てきて一人一人の茶碗に在原さんが取り分ける。……美味そ。

メニューとしては白米、味噌汁、ホイル焼きとどこでも食べれそうな物が並んでいるが、調理実習で食べていいのか……と思うほどには見た目から美味さが伝わってくる。

あまり食い意地が張ってるとは思わないが早く食べたいと思うほどには。


「はい、じゃあいただきます。……うまっ」


見た目通りの美味さだ。しっかりと火が通っていて、濃すぎず薄すぎず。バターの風味も良い。


「美味しい。大成功」


「美味しい!はー……幸せぇ」


「彼方。行儀が悪いぞ」


「林君は厳しいねぇ。美味しいから仕方ないよ」


それは理由にならないが本当に美味いんだよなこれ。おかわりとかないのかな。

何はともあれこの調理実習は大成功と言ってもいいだろう。これだけのクオリティだ。あとは片付けも行なえば今日の調理実習も終了。ついでに授業も終わるので下校の時刻になる。

それにしても美味いなぁ……ずっと食べていたくなるような、そんな美味さだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る