36話 もふもふパラダイス

誰かの誕生日を祝うのは面白いが、いざ自分がとなると緊張するもんだ。天音唯はそれをものともせずに祝われる立場に立っている。


「唯、これもこれも」


「あむ……。おいひぃ……」


「良かった。唯が好きだって言ってたから気合い入れて作ったのよ」


へぇ……真尋は料理も出来るのか。本当に非の打ち所が無い。学園内じゃ完璧扱いされてるのは唯だが、そろそろみんな目を覚まして欲しい。


「……でさ、ずっと気になってたんだけど玲も真尋も袋大きいよな。何入ってんのそれ」


「あ、じゃあ僕もそろそろ渡そうかな。はい、天音さんこれ」


「ありがとう。……随分大きいねこれ」


「まぁ色々入ってるからね。あ、瑠璃みたいに袋分けた方が良かったね」


「ううん。大丈夫だよ。……あれ?ぬいぐるみ」


被ったのか……。まぁ唯はぬいぐるみ好きだから特に問題は無いと思うが。

大きな袋から出てきたのは唯の大体半分くらいのサイズのくま。ぬいぐるみの中なら比較的大きいサイズだと思う。


「……可愛い。さっきのくじらと一緒にずーっともふもふしてたい……」


「それだけ喜ばれると渡した僕も嬉しいよ。あとはハンドクリームだったりかな。女子へのプレゼントで何を渡せば良いのか分からなくて実用的な物ばかりになっちゃったけど……」


「いやいや嬉しいよ。ハンドクリームなんかは私も使うからね。大切に使わせてもらおう」


幸せそうに笑う唯。本当に嬉しいだなって感じるし、渡した玲も嬉しそうだ。

さて、じゃあ次は真尋……と思ったが少々あせあせとしている。


「……どうした?」


「いや、その、えーっと……ぬいぐるみ2つ……」


……………………あっ。

真尋が焦る理由。それは真尋もぬいぐるみを買ったからだ。大きいやつな。いやまぁサイズは良いとして。

このままだと唯が誕生日にぬいぐるみを3つ受け取る事になる。それ自体は良いのだが、めちゃくちゃ被ってる。


「あ、あのー……唯?わ、私も被ってました……」


……まぁ渡すしかないよな。唯のために買ったものだ。唯に渡さなきゃ意味が無い。

さて、どんな反応を示すかな……と唯を見るとはわぁ……と言った感じで瞳をキラキラと輝かせている。どうやら気に入ったらしい。


「……可愛い。しゅき」


「語彙力どうしたお前」


「それしか出てこないんだもん。可愛いすぎる!ぬいぐるみが一気に3つもだよ!?」


「お、おう。随分気に入ったんだな」


真尋が渡したぬいぐるみはうさぎ。くじら、くま、うさぎと何のコンセプトか分からない3匹が揃ってしまった。まぁぬいぐるみに囲まれる唯も可愛いので良しとする。


「わふぅ……もふもふパラダイス」


「なんだそのよく分からないパラダイスは」


何はともあれ嬉しそうな表情を撒き散らす唯。そしてその表情を見た真尋が安堵するようにしてほっと息を吐いている。そしてすぐさま唯を見てふにゃりとした顔を浮かべる。もー……収集付けられねえなこれ。

と言うか俺の方が少し焦ってる。3人がぬいぐるみを渡している中、俺はネックレス。明らかにスケールダウンしてしまっている。

プレゼントは金をかけりゃ良いってもんじゃないし、かけても喜ばないと意味が無い。

そういう意味じゃ1番劣ってるのは俺だ。いや勝負するもんじゃないけどさぁ。


「葵?どうしたの?ネットショッピングなんか開いて」


「いや……何かしらぬいぐるみ無いかなって。3人が渡してんのに俺だけ渡せてないしな」


とりあえず俺もぬいぐるみを渡してようやくスタートラインだろう。くそっ……お急ぎ便でも届くの明日かよ。秒速便とか無いのこれ。頼んだ瞬間届くみたいな。


「ふふっ、葵は優しいんだね。もう既に大切な物を貰ってるよ」


「ありがとな。でも渡すよ」


唯に画面を見せながら「これとかどうだ?」と聞いてみる。とりあえずもふもふしてそうな素材であることは確定事項で、あとは可愛い動物。なんかねえかな。


「あ、これ可愛いね」


「……レッサーパンダ?」


まぁ確かに可愛いな。素材も非常にもふもふ感が溢れてるし。これにすっか。


「まぁ……何だかんだ言ってやっぱり葵なのかね。天音さんは」


「本当に楽しそうです。やっぱり葵さんには敵いませんね」


「ええ。悔しいけれどやっぱり葵ね」


そう3人が言ったのを聞いて、少しばかり顔に笑みが浮かんだだろうか。この状況は俺の中でとても幸せではあった。

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