第25話 相談
寂れた武器屋に入ると、奥にいる主人が『日参だな』と苦笑した。
今日も空振りかと、肩を落したシアだったが、『今日はずっとこっちにいるみたいだぜ』と、言われ、落胆ではなく安堵で肩を落した。
レドモンに会えたからといって、厄介事が幻のように消え失せるわけではない。
けれども足踏み状態の現状からは抜け出せる。
答えが見つからなくとも、ラキスが何者なのか、相談できるのだ。
悩みを共有出来る相手がいることに感謝をする。
(孤独を気取ってはいないが……やはり、他人との付き合い方を改めた方がいいな……)
面倒だ、苦手だからといって、人の輪に加わらずにいると、いざという時に困るのは自分だ。――手助けして欲しいから、他人を大切にするのは、どうかとも思うが。
(誰にも頼らずにいきることは、難しい)
当たり前のことを、シアはしみじみと思った。
以前に来た時、案内してくれた男に取り次ぎを頼み、レドモンの私室へと向かう。
シアの顔を見ると、レドモンはすまなかったね、と詫びた。
「ちょっとばかしゴタゴタしていてね。なかなかこっちに、顔を出せなかったんだ」
「いや……わたしこそ、忙しい時にすまない」
シアは慌てて、首を振る。
「君が会いたがっているのは耳にしていたんだが……。何だい?久しぶりに会って、今度は離れ難くなった?僕が恋しく、甘えたくなったのかな?」
レドモンは優美な微笑みを浮かべ、からかう眼差しを向ける。
「いや……」
「つれない子だね……。わかってるよ。何か困ったことでもあったのかな?」
口調や態度はいつもの彼だが、目の下によくみるとクマができていた。
疲れた様子のレドモンに、シアは口を開くのを躊躇った。
「忙しいのなら……出直すが……」
先送りにしたくはなかったが、恩義のある彼に迷惑を掛けたくもない。
「出直したって、僕の忙しさはずっと続くよ?ここを閉めるまではね。僕が暇になる頃には、君はライノールから出て行っているだろう」
「……閉めることが決まったのか?」
訊ねるが、レドモンは曖昧に笑っただけだった。
「軍の尻ぬぐい……お手伝いをしているんだが、忠義の厚い輩を相手にするのは、疲れるね。彼らと僕らは相容れない存在だと思い知ったよ。まあ、良い経験だ。国が滅びてもギルドは続くが、国がある以上は上手く付き合っていかなきゃならない。……確かに忙しくはあるが、困っている君を手助けするくらいの余裕はある。倒せない妖獣がいるから、代わりに倒してくれっていう頼みなら遠慮するけれど、恋の悩みなら、喜んで相談に乗るよ」
レドモンは両手を拡げ、首を軽く傾けた。
「……恋の悩みではない」
どちらかといえば前者である。
「本当は、わたしが手助けを……といっても妖獣絡みの依頼を片付けるくらいしか、できないのだが……とにかく、少しでも手助けしたいのだが……。だからといって、今のままでは依頼を片付けることもできないし……」
「で。何だい?」
回りくどいのはいいから、と先を急かされ、シアはひとつ息を吐き、五日前の出来事を話した。
犬のかたちをした、妖獣らしきものに襲われたこと。しかし倒したあとに、人間がいたこと。
斬り落した尻尾。兄の復讐だとシアを恨み、自分を妖獣だと言い張る人間がいること。その人間がひどく頭が悪いことは、話が長くなりそうだったので割愛した。
シアの話に、レドモンは『へえ』『そう』、と相槌を打つ。
驚くことも、不可思議な顔をすることもなく、淡々と耳を傾けていた。
そして一通りの説明を終えたシアに、彼は『それで?』と訊いた。
「それで……って……」
「何を困っているの?手に負えないほど強いってわけじゃないんだろう?君、斬ったって言ったし……逃がしちゃったの?」
「いや……宿に拘束している」
「拘束?どうして?」
「どうしてって……」
「なぜ、殺していないんだい?」
「なぜって。……人間だぞ」
そこで初めて、レドモンから笑みが消えた。
眉を寄せ、何やら考え込む。そしてしばらくし、シアを真っ直ぐ見つめ、きっぱり言った。
「妖獣だよ、シア。人間じゃない」
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