俺は女奴隷を買って自分の醜さと向き合う。

オレオ

第1話仕方がないので奴隷を買う


 冒険者学校、その中の教室の一室。

 その一番後ろの割り当てられた席に座って俺は過去とこれからを考えていた。


 いや、貴族の息子だった過去はもういい。これは終わった事だ。


 これから俺は何をするかを考えて行かなければならない。

 取り合えず雑用を引き受けるだけで入れて貰える冒険者の学校に入ったは良いが、これからの事を一切決めていない。

 まあ、この国は冒険者の国と言われる程、冒険者に優しい国だ。取り合えず生きて行くために冒険者活動をやって行くのが良いだろう。

 一般人とは違い、貴族の嫡男として生まれた俺は剣の嗜みもあるのだから。

 まあ、それなりの腕しか無いのだけど。


 そうと決まれば計画を練らないとだな。

 今手持ちの財産は……金貨が4枚と大銀貨が6枚。装備が一式。

 これだけあれば半年以上は暮らしていける。いや、それは関係無いか。この学校では衣食住の内服以外の面倒を見てくれてる。

 雑用を言い渡された時にしっかりこなせば良いだけの話だ。


 となると、普通に考えてパーティーを組んでダンジョンへ魔物討伐に出る事だよな。

 フィールドでも魔物は居るけど、素材剥ぎ取りの技術が居るからな。

 その点ダンジョンなら倒した後、魔石しか残らないし戦えれば問題無い。

 だが、パーティーか……経験も無いのに入れて貰うのは難しいんだよな。

 入れて貰えても、まるで奴隷の様な扱いを受ける。この学校の悪しき風習だ。


 いや……奴隷か。いくらするんだろうな。一度、奴隷商人の所に行って見るか。

 と、思考していると、後ろから声を掛けられる。


「やあランス。今日は雑用無いのかい? 余裕そうだけど」


 こいつはルシアン、少しナルシスト気味だが、気の良い奴だ。俺と同じ平均値位の身長だが、そのセミロング程の長髪を何とかしろと言いたい。

 俺達の年齢でそれをやっても、お前がいくらイケメンでも厳しいものがある。

 この学校に入ってまだ二日だが、寮でも同室の彼とはもう親しい仲になり始めている。

 だが、名前を変えて間もなく、過去を思い出していたせいか反応が遅れる。


「――――あ、ああ。ルシアンも今日はフリーの日か」


 そう、ただで入れて貰った俺らは雑用を行う義務がある。だがそれは毎日では無い。

 そして今日はお互いに何もない日の様だ。そう言えばこいつはどうするのだろうか?


「ランスはまだ決まらないのかい? 早く探さないとパーティーなんてすぐ埋まって売れ残りしか居なくなってしまうよ」


 ルシアンは考えて居た話を丁度振って来た。当然か。まだ入学して二日、皆相棒を探す事に躍起になっている。


「でも、二年生とだろ? 奴隷の様な扱いを受けるのが普通だって聞くぞ。女子とかどうしてんだ?」


 分け前無いのは仕方が無いが、殴られる蹴られるは当たり前で酷い所だと金を取られるらしい。そして、そうした下積みは当然だと思われている。

 他に道は無いのかとそう思って聞いて見たが、途中で女性はどうするのかが気になった。


「まあね。それでも経験しない事には何も出来ない。やり方を把握したら抜けて自分のパーティを作ればいいだけだよ。まあ、女子は女子で女だけのパーティーを探すらしいね。知らずに入って泣きを見る子もいるみたいだがね」


 やっぱり泣きを見るのか。まあコミュニティを作れる女子は問題無いんだろうな。浮いてそうな奴探してみるか? って俺は何を考えて居るんだ。

 保護何てしてやって何の意味がある。その前に自分の事を心配するべきだろう。


「それは……可哀そうな話だな。お前の性格だと、『僕が保護をして上げよう子猫ちゃん』的な感じにならないのか?」


 そう、こいつは気の良い奴だ。俺の相談にもしっかり乗ってくれる。だからそう言う子を自ら助けに行っても不思議では無いと思った。


「まあ、大抵は逃げる事が出来るからね。先に早く進む為に体を許す子もいるみたいだけど。そう言う子は強くなるらしいよ。最初から上を目指しているし、噂も潰せる様に頑張るからね」


 うわぁ……怖いお話です事。俺等にはまだまだ関係すらない話だな。話だけなら興味もあるが。


「なぁ、奴隷をメンバーにするのってありだと思うか?」


 と、彼に質問をした。


「ありだけど、女性の奴隷は高いよ? それこそ本末転倒なくらいに」


「いや、男の方だよ。俺は、二年生の奴隷とかやりたくない。けど、流石に初心者がソロでダンジョンに入るのが無謀過ぎる事は分かってる」


 だから、安い男の奴隷を買って、指南して貰えたらいいなと思ったんだけど。


「悪くは無いけど、ダンジョン経験ありだとそれでも高いと思うよ。流石に値段の方は知らないけどね」


 だよなぁ、自分で見てみないとダメか。


「分かった、ありがとな。自分の目で確かめてみる。ってルシアンはどうするんだ?」


 そう、ルシアンはどうするか決まっているんだろうか……


「……僕はお姉様パーティーに土下座してみようと思うんだ」


 ……その長髪をどうにかすればあるいは。明日が楽しみだな。


「そうか、頑張れ。ブルーも上手くやれてると良いけど」


 もう一人の同室のブルースは授業が終わると同時に居なくなってしまった。

 まあ、あいつは昨日の時点で奴隷でも何でもやってやろうじゃ無いかと言っていたし、普通に二年生パーティに入っているのだろう。

 だが、その洗礼は少なくとも八カ月くらいは続く。

 いや、最低三カ月は荷物持ちを続けないと、相当の実力が無い限り補助すらさせて貰えない。

 まあ当然な話だな。遊びじゃないんだから。


「ブルーは意気込んでいたから大丈夫だと思うけどね。ランスも間違ってもソロで行くんじゃ無いよ。入って早々に同室の者が居なくなる洗礼を受けたくないからね」


 俺だって嫌だよ。だけど、先生すら言っていた。最初に力を示したくてソロでダンジョンに行って命を落とす者は毎年数人は出ると。

 次に二年に上がる前に未熟なパーティーで、その次に二年に上がって一年の無謀につき合わされて、と死にやすい時期が決まっているらしい。


「ああ、そこまで無謀じゃ無いよ」


 そう言うと、ルシアンは足早に二年生の教室に向かう為、足早に居なくなった。ちょっとその雄姿を観察したい所だが、遊んでも居られない。

 早速俺は、奴隷商人の商館へと向かった。

 到着した俺は少し圧倒された。見た事はあったが、やはり大きく何と言うか、娼館の様な雰囲気を醸し出している。

 そして、俺は意を決して商館の扉を開く。


「いらっしゃいませ……って、身売りか? 冷やかしだったらぶっ飛ばすぞ」


 屈強な男がこちらを睨む。

 だが、多少慣れの在る俺は、こういう時に竦んでは逆効果な事を知っていた。


「金持っている。安いのを探したいが相場も分からないから取り合えず見せてくれないか?」


「いくらまでだ」


 やはり、身なりと言うのは重要だな。年齢的にも考えれば仕方が無い事か。

 俺は扱いの軽さに少し苛立ちを覚えたが、表情を崩さずに問う。


「最安値は?」


「ちっ、金貨一枚と大銀貨三枚だ」


 男は、遜らないこちらの態度に舌打ちをして、最安値を答えた。


「金貨三枚までで頼む」


 こちらが上限を伝えると、少し男の態度が変わる。そして扉の前から横にずれて言う。


「……付いて来い」


 そのまま奥に案内された俺は、客用の高級そうなソファーに案内された。そのソファーに座ると案内した者とは別の者が現れた。


「では、お客様、ご要…………」


 小太りのいかにも商人と言った外見の中年男性はこちらの顔を見て表情を強張らせた。


「なんだ。奴隷を買いに来たに決まっているだろう」


 貴族の息子と似ていて驚いたか。と言うか何故表に余り出ていない貴族の息子まで知っている……まあ、本人だとは思っていないだろう。


「これは大変失礼を致しました。失礼ですがお名前をお伺いしても?」


「ランスだ」


 俺は、堂々と答えた。だが、もしかしたら疑われてるかもしれない。


「そうですか、今はランス様と。了解致しました」


 ああ、これは疑いじゃ無い。確信してた。

 失敗したな。居場所が割れると不味いんだが……

 今更居場所を変えたくない。多少釘を打って置いて様子見するしか無いな。


「何をとは言わないが、ばらした時は相応の対応をさせて貰おう」


 俺は、バレてしまったのなら仕方が無いと、諦めて交渉をスタートさせる。


「心得ました。こちらから貴方の情報を外に漏らす事は致しません。商人として、お約束致しましょう。さて、気を取り直しまして、ご要望をお聞かせ願いますか。金貨三枚だけでは絞れませんので」


 奴隷商人は、そう言って商売用の笑顔を浮かべ、こちらの要望を問う。


「そうだな。ダンジョン経験があればそれで良い。冒険者学校の二年生程度の実力で良いんだ。厳しいか?」


「その程度で御座いましたら、簡単な事でございます。是非ご鑑賞ください」


 そうして奴隷商人の男は、俺と歳の近い女性を並べ立てた。


「……待て女性限定とは言っていないぞ。俺は今、お前たちにとって何の価値も無い。金貨三枚で用意できるレベルにして置かないと損をするぞ? 逆恨みされても敵わないんだが」


 奴隷商人は顎に手を当てて、考える。


「なるほど、少しランス様の言葉を理解出来た気がします。では、失礼を込めましてほんの少しのサービスに留めましょう」


 奴隷商人は女性達に戻る様に告げ、後ろに控える男に番号を伝え、伝えられた男は部屋を後にする。


「お話から察するに、冒険者学校の一年生でございますね。確かに、一年生は過酷だと聞きます。いや、確かまだ入学式から二日程度。なるほど、慧眼でございます」


 奴隷商人はまだ俺を貴族として扱う様だ、確かに彼等にとって領主とはとても厄介な存在だから仕方の無い事だが。


「もう、取り繕っても遅いな。俺はもう家を出た。おそらく戻る事はもう無いだろう。要するに俺は平民の冒険者として生きて行くわけだ。気を使わせて済まないな」


 奴隷商人は笑みを深める。なるほど、こっちが本当の表情か。

 まあ、どう思ったとしても客は客だし、無下にもされないだろう。

 仮にここで買わなかったからと言って俺の人生が終わる訳でも無い。

 ゆっくりと見させて貰おう。


「構いません。こちらが勝手に勘違いをした場合それはその者が未熟と言う事です。商人の世界とはそう言う物でございます。私はランス様と懇意にさせて頂きたい。それだけです。おや、来たようですね」


 そうしてまた、奴隷が三名並ばせられる。だが、まだその中に女性もいる様だ。

 疑問を感じたが、奴隷商人の男は先に口を開く。


「では、私共は、二十分程退室させて頂きます。質問事項にはすべて分かる範囲で答える様に言いつけております」


 そうして奴隷商人は御付きの者を連れて部屋から出て行く。これはおそらく聞かれたくない質問をしやすくする為の配慮だろう。

 俺は並んでいる三人を見た。正直二人の男性は年齢が合わない。それにより起こる問題でアウトだ。だから俺は何故女性が残ったのかを考える。

 いや、質問タイムなんだし理由は本人に聞いて見れば良いかと、俺はその女性に質問をする。


「君は値が安いのか? 女性は高いと聞くが。知って居たら理由を聞かせて欲しい」


 まあ、理由は分かる。大変太っているからだ。だが、痩せさせる事は出来るのでは? とも思う。

 いや、大変なのだろうか。確かに丸太どころじゃない。トドを限界まで膨らませた感じだろうか?


「私は犯罪奴隷で教育途中。外見も良くない、金貨十枚にもなればいい方だって言われる」


 彼女は、女性とギリギリ分からないレベルの野太い声を上げた。普通に話してるのにスローな感じと言うのが近いかもしれない。

 なるほど、サービスね。でも三枚は無いだろう。確かに物凄く太っているし顔立ちも……なんて言ったらいいのか、脂肪のせいで中央に全体的に寄ってる。そして肌は光り輝いている。油で。

 少し頬はこけてるし、体質なのだろうか?

 そして、俺は興味本位で質問をした。


「どんな罪を犯したのか聞いてもいいか?」


 彼女はその質問をした時、ビクッと震えた。顔の脂肪が遅れて揺れる。


「家族を全員殺した」


 俺はその言葉を聞いて目を見開く。そして問いかけた。


「自分から?」


「ち、違うっ!!」


 彼女は脂肪で圧迫された小さな目を見開いてそう言った。

 その野太い大声が響いた時、ドアが開き奴隷商人と護衛が入って来た。


「ああ、こちらから挑発をしたので気にしないでいい。それと、この子の事情を聞いても?」


「やはり、気に掛けられると思っていました。彼女は魔に狂わされた事があるのです」


 ああ、なるほど。魅了に使う魔法の詠唱に失敗すると起こりやすいと言われるあれか。まあ、魅了の魔法自体も犯罪だし、効果も低いと聞くんだが……


「それは、詠唱実験の失敗……と、言う事か?」


 という事ならば、魔法使いと言う事になる。しかも高位の。いや、それならこの値段は無いか。


「実験と言うより、知らなくてですね。教えられる者がそばに居なかった。そして、魔力切れになるまで暴れ続けた結果、今ここに居ると言う訳です」


 という事は魔法の素養はあるのか。これは掘り出し物じゃ無いか?

 元々女性を買いに来た訳じゃ無いし、戦力になってくれるなら性別は気にしない。


「なるほどな。その説明をすれば買い手は付きそうだが、外見か」


 そう、外見が酷過ぎる。こんな事は言いたく無いのだが、正直きつい。


「ええ、そう言う事です。物好きも居ますから少しサービスで金貨三枚とさせて頂きました。もちろん他の者にする事をお勧めします。ダンジョンの経験もある様ですが、奴隷の中では下から四番目位の実力でしょう」


「……実力も少しはあるのか。出身は近いのか?」


 では、どうしてそれでも話を進めるのか?

 それは、他に同年代が居ないからだ。ある程度ならサバを読んでごまかせる。

 だが、ここにいる者達は明らかにオッサンだ。いい腕はして居そうだが住まわせる場所が無い。

 その点同年代の者なら、冒険者学校に入れてしまえば無料で済む。


「いいえ、王都から二つ町を越えた所に在る村でございます」


「そうか。決めた。この子を貰う」


 俺は、奴隷商人にそう告げて、金貨を三枚テーブルの上に置く。


「え? あ、宜しいのですか? 私としては話のタネくらいのつもりでしたが」


 奴隷商人はとても意外そうな顔でこちらを見た。


「ダンジョン経験あり、魔法の素養ありなら俺にとって好都合だからな」


 そう、俺も魔法は使えるが、前衛系統の魔法一つしか使えない。


「確かに、支援魔法と攻撃魔法を取得させました。ですが、まだ未熟でいないよりはマシ程度です。素養と言う意味なら、この歳で使える以上、問題は無いと思いますが」


 む、早まったか? いやいや、もとよりここから育てるつもりだ。

 取り合えずダンジョンでやってはいけない危険行為や常識、連携、事前準備等を教えて貰えれば問題無い。

 取り合えず連れ帰って……どこに? ああ! 失敗した。


「す、済まない。一つ質問がある。犯罪奴隷って学校に無料で入れられるか?」


「専用の手続きがありますが可能です。ですがその際はしっかりと命令する事をお勧めします。奴隷の罪は主の罪になりますので」


 なるほど。それは確かにしっかりと言いつけて置かないといけないな。


「了解した。では手続きの方に移りたいのだが」


「はい。こちらの書類に正式名称でのサインと、血判を。それから術式の付与となります」


 それからはスムーズに事が運び、彼女を俺の奴隷として登録する事となった。

 無駄金は使いたくないので足早に学校へと連れて行き、入学申請をして同じ学校に入れる事にも成功した。

 そうして俺は学友であり、奴隷であり、パーティーメンバーでもある人材を手に入れた。

 のだが……早々から色々な問題を抱える事となる。

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