ショートショート「究極の選択」
棗りかこ
ショートショート「究極の選択」(1話完結)
死神が言った。
ここに、毒薬がある。
苦い毒薬がいいか。
甘い毒薬がいいか。
答えろ…。
ふかわ羚也(れいや)は答えた。
甘い毒薬が、いいに決まってますよ。
だが、その選択が、間違っていたことに、
彼は、後々気づくことになる。
死神は、そうか…、と、
色のキレイなカプセルを、見せた。
これが、甘い毒薬だ…。
ふかわは、そのカプセルを受け取り、口に含んだ。
甘い毒薬は、確かに甘かった。
甘ちゃんだな…。
お前…。
死神が、笑った。
カプセルが溶けていくのを、待つこと、3分。
確かに甘いものが、口の中に、満ちてきた。
やっぱり、甘い毒薬にしてよかったな…。
ふかわは、思った。
甘い毒薬が、じわじわと、
身体の自由を奪っていくのを、ふかわは感じた。
これで、楽に死ねる…と、
感じた時、
死神は、さらに、笑った。
楽に死ねると、思ったら、大間違いだ…。
これから、お前は、
バカの見本として、
東京タワーに展示されるんだ…。
死んでも、バカにされる役目を、お前は選んだ。
東京タワーって、なんですか?
ふかわは、尋ねた。
今度、芝浦に立つと言われている、
真っ赤な塔だ…。
そこにはな、と、死神がずいっと身を乗り出し、
ふかわの上に覆いかぶさった。
お前のような、バカを、入れておく、
蝋人形館が出来るんだよ…。
蝋人形になったら、
二度と生まれ変われない…。
そういうことに、なっているんだよ…。
苦い毒薬って…。
どうなるんですか?
息も絶え絶えに、ふかわは、言った。
苦い毒薬は…。
ふかわの声が、街角に谺(こだま)した。
おっと、それは、死神の秘密だ…。
死を宣告したやつだけにしか、
言わないようにしている…。
死神の声を全て聞くことは、
ふかわには、出来なかった。
翌年オープンした、東京タワーに、
蝋人形館があることを知るものは、
余り居ない…。
それを見るものは、
いつか、死神に出会うかもしれない。
その時に、
きっと、訊かれるかもしれない。
苦い毒薬がいいか…。
甘い毒薬がいいか…。
-完-
ショートショート「究極の選択」 棗りかこ @natumerikako
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