第5話【ネックレスの行方】
夕食の時間になりました。目の前には豪華な料理の数々が並んでいます。これ、奥さんと娘さんが腕によりをかけて作ってくださったんですって! すごいですねぇ。
ああ。ヨダレが出てきましたよ。早く食べましょう!
どうしたのでしょう。みなさんこんな素敵な料理を前に、私の顔を一心に見つめています。私の顔に何か付いていますかね?
「早く話したまえ
「え? ご飯食べながらじゃないんですか? あ、はい。冗談です。じゃあ、さっさと話してしまいましょう。せっかくの料理が冷めてしまいますから」
そう言って私はポケットから小さな袋を取り出しました。いつも仕事で使っている透明なビニールの口が閉まるタイプのやつです。たまたま作業服に入ってて助かりました。コロコロ転がる大変ですからね。
「これが奥さんの大切な真珠にネックレスです。残念なことに糸が切れてバラバラになってしまっていますが……」
「これ! これよ! 私の大切なネックレス! 間違いないわ!!」
奥様は一目見てそれが自分のものだと分かったようです。すごいですねぇ。本当に大切にしていたんでしょう。
私は袋に入ったままの真珠を奥さんに手渡します。奥さんは宝物を貰った少女のような顔をしながら受け取り、ビニールの袋に頬擦りをしました。あれ……大丈夫ですよね? 汚くはないと思うんですが。
「すごいじゃないか! 佐久間くん!
大塚社長は今回無理を言って夕食の時間まで残ってもらった家政婦さんを
止めてあげてください。可愛そうですから。ほら、家政婦さん今にも泣きだしそうな顔していますよ。
「いえ。犯人はですねぇ。
「な、なんてことを言い出すの!? 優がそんなことするわけないじゃない! どうやって見つけたか知らないけれど、いい加減なことを言わないで!!」
わぁ。娘さんがすごい剣幕で私に叫んできました。いえ。お気持ちは分かります。誰だって自分の子供が犯人呼ばわりされたら面白くないですもんねぇ。
「いえ。正確には盗んだ犯人なんて居ないんです。優くんは良かれと思ってあることをしたので、結局それがネックレス紛失につながってしまったのです」
「どういうことなんだ。もったいぶらずに早く言いたまえよ。気味の悪いくせだぞ」
「ああ。すいません。まず事の起りは、奥さんが毎日のように長年ネックレスを身に付けていたことが原因です」
私の言葉に奥さんが不思議そうな顔をします。いえ。すいません。奥さんが悪いというんじゃないんです。むしろそこまで大切にするってすごいことですよ?
「長年使い続けられたネックレスは、耐久の限界になり糸がが切れてしまったんでしょう。その時ネックレスの真珠は落ちて床に散らばってしまいました」
「でも、私の部屋を探しても真珠のひとつすら落ちてなかったですよ?」
「はい。そこで落ちた真珠を拾ったのが優くんです」
「まだ言うんですか! 優はそんなことしません!!」
怖いです。娘さんの目がつり上がっています。
「聞いてください。優くんがプルームちゃんの部屋であることを一生懸命していることを知っていますか?」
「プルームの部屋で?」
「はい。部屋の中で放し飼いになっているプルームちゃんは床にもいくつもうんちを落としています。優くんはそれを全部拾ってはトイレに捨てていたんです」
「そうなの。優。偉いわねぇ。でも汚いからもうやめましょうね?」
いきなり話を振られたまーくんは不思議そうな顔をしています。
「優くんは奥さんの部屋に落ちた真珠をプルームちゃんのうんちと勘違いして、せっせとトイレに運んだんです。奥さんの部屋に入った理由までは分かりませんが」
「まぁ! そんなことが……それじゃあネックレスはプルームのトイレに? 変ねぇ。家中探した時にあの部屋も一通り探したのですけれど……」
「いえ。トイレは既に明恵さんによって片付けられていたんです。あの部屋は暗いですし、トイレの中身をいちいち確認することもありませんから。幸い、明恵さんがゴミの収集を忘れてたおかげで、まだ物置に置かれたままになっていました」
「ほんとかね? 明恵さん」
「はい……旦那様。申し訳ございません!」
「どうか明恵さんや優くんを責めないで上げてくださいね? 二人とも悪気があってやったわけじゃないんですから」
「なるほどなぁ! どうだい。大塚さん? うちの佐久間は大したもんだろう!」
黙って聞いてた会長が大声を上げました。止めてください。心臓に悪いですよ? 私いま変な声あげちゃいましたからね。
とにかくこれで謎も解けたしネックレスもバラバラになってしまいましたが奥さんの手元に戻りましたし、一件落着ですよね?
さぁ! 早くご飯を食べましょう! 多分もう冷めてしまってますが、そんなことは構わず食べましょう!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます