第2話【社長宅にて】
「着きましたよ。会長。この家で間違いないですか?」
「そんなこと俺に聞かれても困るよ。
ごもっともな回答をくれた会長はぷはっと電子タバコの煙を吐き出します。副流煙の心配がないと評判の電子タバコですが、独特の臭いが実は苦手です。まぁ、普通のタバコの煙よりは全然ましですが。
それはそうと表札を見ると「
それにしてもずいぶんと大きなおうちですね。何が大きいって、庭が大きいです。塀に囲まれた敷地のほとんどが松やらなにやら色々な木や花が植えられていて、向こうに見えるおうちまではかなりの歩数がありそうです。
「やっぱり有名な会社の社長宅ともなると大きいですね。会長のうちのように高級住宅街の高級マンションもいいですが、こういう一軒家も素敵ですよね」
「こういうのは金がかかってだめだよ。佐久間くん。草なんて見たいんだったらそこら辺にたくさん生えてるじゃないか」
おっしゃる意味は分かるんですが、まったく会長は合理主義といいますか、風情もへったくれもないお方です。そういう私も憧れますが、いざ庭を持てるとなってもお手入れせずに雑草がぼーぼーなんてのが目に見えているんですけれどね。ああ、お金持ちの方は庭師さんでも呼ぶんですかね?
いえいえ。こうしていても全然話は前に進みません。さっさと呼び鈴を鳴らしてこの頑丈そうな門を開けてもらいましょう。えい! ピンポーン。
「はい。どちら様でしょうか?」
「こちらに本日来る予定だった
少しかすれたご年配の女性らしき声に会長が応答します。いつもすごいなぁと思うのは、会長ってめったな人以外には丁寧語を使わないんですよね。私も会長のお供をさせていただいて長いですが、丁寧語を使っている会長はほとんど見たことがありません。私なんて会社の後輩にだってこの口調ですのに。
「少々お待ちいただけますか?……お待たせいたしました。今開けます」
その声と同時に格子状の金属の門が自動的に横に滑っていきます。すごいですね! 電動ですよ。貧乏者の私なんてそもそも門なんてものとも縁がありません。
門が開ききるのを待たずに会長はずんずんと中へ進んでいきます。私は車を中に入れるために慌てて運転席に乗り込み、門の中へと車を入れます。入って少しすると何台も停めれるコンクリートで固められたスペースがありました。
どうやらここの方は車を集める趣味はないようで、広い駐車場に一台だけぽつんと高そうな車が置いてありました。私はぶつけたりしないよう、一台分のスペースをあけて隣に停めました。
「ああ! 渡部さん! すまない、今日いらっしゃることをすっかり忘れていたよ。ちょっとこれから出かけなければいけないんだ。家内は居間にいるから、話は家内から直接聞いてもらえるかな!」
車から降りて玄関の方へ駆け寄ると、恰幅のいい初老の男性が会長と話していました。この方が大塚社長でしょうか。なにやら手にはガットの切れたテニスのラケットが握られています。
「おいおい。大塚さん。君が謎を解いてくれって言うからせっかく佐久間を連れてきたんだぞ。なに? ラケットを修理に出したらすぐ戻る? しょうがないなぁ。君は。それじゃあ遠慮なく上がらせてもらうよ」
そう言って会長はまたずんずんと家の中を進んでいきます。会長に遠慮なんてあるんでしょうか?
私は大塚社長に会釈をしてから会長のあとを追います。うわぁ。玄関もすごいですが居間の中もすごいですね。よく分からない高そうなものがたくさん飾られています。
「やぁ。奥さん初めまして。私は渡部、こっちが佐久間だ」
「初めまして。いつもお世話になっております」
ああ。会社員の悪い癖が出てしまいました。初めて会うのにいつもお世話にって普通に考えたら絶対おかしいですよね。
そんな私の挨拶などは気にもとめず、小綺麗な格好をした奥さんがにこやかな笑顔で挨拶を返してくれました。歳は私の母親よりも若いくらいでしょうか。
「まぁ! ようこそいらっしゃってくれました! おまちしてましたのよ。あら、
歳の割に、と言うと失礼かもしれませんが、張りのある声で奥さんが家政婦さんに声をかけ、私たちを居間の中央に置いてある革張りのソファへ案内してくれました。
うわぁ。すごいですよ。沈まないですが、すごく座り心地がいいです。まさに高級品! という感じです。適当ですが。
「大塚の妻の
家政婦さんがお茶を運んでくるのも待たずに、奥さんは話始めました。まずいですよ。これは会長と同じく話好きの匂いがぷんぷんします。
話好きが2人も揃ったら……今日は長い一日になりそうです。
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