死神として異世界転生した私の鎮魂日記

ねくさす

第1話 死神の日常

暗い森のなかでやっと見つけることが出来た。

探し初めて半日で見つけたのだから上々といったところか。

崖下に落ちていたところを見ると足を滑らせたに違いない。それとも、崖で何かを採取していたのかもしれないか。

見たところ死後2日と思われるので誰も彼の死に気付いていない事だろう。

私にとってはどちらでも関係の無いことだ。

私は私の仕事を遂行するだけなのだから。


「我らが主よ、この者の魂に正しい道を導きたまえ。そして、この者に永遠の安らぎを……セーラス」


ハンターと格好をした男の遺体から青白い炎が浮かび上がった。

それを確認し私は愛用の鎌を構え、肉体と魂を切り離した。

切り離された魂は更に浮かび上がり夜の暗闇に吸い込まれるように消えていった。

さて、仕事も終わったことだし村に戻ることにしよう。

ハンターギルドに報告すれば遺体はいずれ回収されることだろう。

報告事態は仕事に含まれていないが、死体が放置されたままというのは私がスッキリしないからだ。

但し、村まで運ぶのはご勘弁願いたい。


私の名前はステラ。

異世界で死神という仕事を就いている。

異世界と言ったが私は死んだ後に異世界転生したのだ。

生前の私は普通の女子高生であった。

クラスでは少し浮いた存在であり、いてもいなくても同じだったように思う。

別に苛められた訳ではないが、特に親しい友人もいなく表面だけの付き合いをしていた。

その為、休憩時間や放課後は一人で過ごすことが多かった。

他人にも興味がなく自分自身にも趣味があったわけでもないので、読書をして過ごしていた。

ある日、よくあるシチュエーションだが子供が轢かれるのを庇い死んだらしい。

気が付くと不思議な部屋の中にいた。

自称神様を名乗る青年に私が子供を庇った事が予定外らしく、異世界へ転生させると言ってきた。

その異世界では魔法や魔物が存在するいわゆるファンタジーの世界であった。

どのような種族や職業が良いか聞かれたのでその世界の文献を借りて考えた末、死神を選んだ。

一番の理由は人付き合いをしなくて済むと思ったからだ。

主な仕事は魂の回収だ。

人は死亡しても体に魂が残ったままなのだそうだ。

普通に病気が老衰で死んだ場合は、体を清められ火葬されることで魂が離れ天に召されるらしい。

だが、この世界ではハンターという職業が一般的で魔物などに殺され魂が残ったままになることが多いらしい。

それを見つけ回収するのが死神というわけだ。

死神は年を取らないがこの回収作業中に魔物に殺されることがあり、いつでも人手不足だそうだ。死神も死ぬとは面白い冗談である。

元々、死神は生きていないので正確にいうと消滅するらしいが。

こうして、私は見た目は元と同じで死神として転生したのだった。唯一、違うとすれば髪と目の色が銀色なことくらいだ。

死神はみな、この色らしい。


さて、話が逸れたが村に戻った私はハンターギルドに死体を発見したことを報告し、宿屋へ戻った。

生命活動を行っていないため、食事は特に必要なく宿屋で休むしかする事がないのだ。

文化レベルは中世といった感じで娯楽など存在しない。

特にこんな寒村では尚更だ。

どうしようかと考えていたところ、窓にカラスのような黒い鳥が止まっていた。

その鳥は手紙を置くと飛びさっていった。

この手紙は依頼書なのである。

運命書で死亡したにも関わらず魂が天に召されない者について書かれており、回収すよう指示書となっている。

内容を確認したが日が暮れていた事から翌朝から行動を開始することにした。


翌朝、ハンターギルドに行き情報を収集することにした。

今回の依頼はこの村の青年で名はデイビスというらしい。

ギルドのクエスト掲示板で捜索依頼を探した。

予定日になっても戻ってこない場合は捜索依頼が出されることがある。

今回も残された家族がクエストを依頼したようだ。

早速、詳しい話を聞きに家族に会いに行った。


村の外れの一軒家に住んでおりクエストを受注したものと名乗ると奥さんは家に迎え入れてくれた。


「それでデイビスさんはどのようなクエストを受けていたのでしょうか?」


不明者を探す場合は、どこに向かったのかを調べる必要があるからだ。


「…それが、一週間前に貴重な薬草を採取しに北東の森に向かいました…。

北東にある山脈の麓に薬草が生えているらしく……」

「帰宅はいつ頃の予定だったのでしょうか?」

「片道2日は掛からないくらいですので、3日前には帰ってくるはずでした……」

「一人で出発されたんですか?」

「採取クエストですし、危険な魔物はいないエリアでしたので」

「分かりました、最善を尽くしてみましょう。但し、最悪の場合も覚悟しておいてください」

「そんな……まだ子供が生まれたばかりなのに……。

何卒、生きて連れて帰って頂けますようお願い致します……」

「お約束はしかねますが善処します」


私はそのまま家を後にしハンターギルドに戻った。

北東の森の状況を確認したが特に危険な魔物が目撃された情報はなかった。

薬草の採集ポイントを確認した事で、これ以上の情報は期待できないため、北東の森へ向かうことにした。


北東の森を1日以上歩いた頃、対象者の魂の残滓を発見した。

魂の残滓とは残りカスのようなもので行動した後に暫く魂のあとが残っているのだ。

それは死神だけが見ることが出来、追いかけることで対象者を見つけることが出来る。

臭いを頼りに犬が追いかけるのと同じだ。

しばらく残滓を追いかけていくと狼の魔物がバラバラになって死んでいた。

この辺にはいないはずの魔物であり、デイビスはこれに襲われたのかもしれない。

嫌な予感を覚えつつ残滓を辿ると途中で魔物の黒い血が落ちていた。

そして、少し広くなった場所でデイビスを発見した。

デイビスは先程の魔物の遺体の一部を貪っていた。

どうも手遅れだったようだ。

人間が死亡してしばらくすると生への執着や殺されたことの怨念によって、ディープシーターという化け物に変化する。

特に家族がいる場合は想いが強いせいか変化までの時間が短いことが多い。

ただ、家族に会いたいという想いでディープシーターになり家に戻っても家族をその手で殺してしまうという更なる悲劇をもたらすだけなのだ。

ディープシーターは思考力がなく動くものを襲って食べるだけの化け物なのだ。

生者を食べることで生き返れるとでも思っているのだろうか。

死神のもうひとつの仕事はディープシーターを倒し、鎮魂することである。

私は念じることで愛用の鎌を出現させた。

死神は様々な武器を使用するが私はよくある死神像が持っている身長と同じ大きさくらいの鎌を愛用としている。

戦闘体制をとり一瞬でデイビスまで近より一閃した。


「ギャアアァーーー!?」


不意を突かれたデイビスは肩から袈裟懸けに切られ絶叫した。

死神の武器では物理的なダメージを与えるわけではなく、その魂を切り裂くのだ。

デイビスが私を敵と認識し素早く攻撃してくるが、素早く躱し反撃した。


シャッシャッ


鎌がデイビスの体を交差する度に動きが鈍くなってくる。

魂を削られ体を動かせなくなっているからだ。

デイビスが残された力を使い渾身の一撃を放ってきたが、必殺技で迎撃した。


「デスサイズッ」


デイビスを鎌の柄の一撃で動きを止め目にも止まらぬ三連撃を放ち、止めをさした。

動かなくなったデイビスの遺体を見つめた。


「間に合わなくてごめんなさい……」


ディープシーターとなったものの魂は天に行くことが出来ない。

消滅させるしか方法がないのだ。

私はやりきれない想いを胸にその場を後にした。

もう私に出来ることはないのだ。


村に戻ってハンターギルドに発見した事を報告した。

残された家族にはギルドから連絡があるだろう。

見ていて気持ちの良いものではないので、私はごめんだ。

下手したら助けるのが遅いとか言って逆恨みされかねない。

次はどうしようかと悩んでいると後ろのフードを被った大男から声を掛けられた。


「相変わらず良い仕事をしているな、ステラ」

「私は与えられた仕事を淡々とこなしているだけです、スキア」


この男はスキアといい、私の死神としての上司のようなものだ。

時々、様子を見に来て新しい命令を出したりする。


「お前にお願いしたいことがある」

「お願いではなく命令ですよね?

拒否権はないものと理解してますが」

「確かにな。

2つ隣のタマル村へ行ってくれ。

そこの死神が行方不明になった」

「ハイハイ、分かりました。

調査と死神を消した何者かを討伐すれば良いんですね」

「理解が早くて助かる、では頼んだからな」


そう言うとスキアは出ていった。

いつも突然現れて、すぐに何処かに行くのだ。

さて、次の目的も決まったことだし宿を引き払って出発した。


「ある意味、誰にも干渉されず自由な仕事かな」


私はこの仕事が気に入っていた。

最初は腐敗した死体を見るのが嫌だったが慣れるとどうということはない。

不老なのでいつまで続くのか分からないが異世界を楽しみながら続けようと思う。


既に日は傾きかけていたが、次の村へ向けて歩き続けた。

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