第242話 望み

シトリー達が死闘を繰り広げている頃、タルトは教会前で上向けで倒れていた。

肩と足に受けた銃弾の呪いに対抗して頑張っているが僅かずつしか解除出来ない。


(早く助けに行かないと…)


それでも頭の中は二人の心配である。

ふと傍に誰かが立っている気がした。


「誰…?

ノルンさん…?」


ぼやーっとする視界に白い服の人物が見えたのでノルンだと思ったのだ。

その人物は無言のまま両手を前に出すと白い光が広がっていく。

光に飲まれる前に白いフードを被っているのが見えた。


(何だろう…?

すごい温かい…)


体を蝕んでいた苦しみが消えていくのがはっきりと分かった。

やがて、光が弱まる頃には意識もはっきりして難なく起き上がることが出来たのである。


「呪いが…消えた?

あの、ありがとうって、あれっ?」


動けるのを確認しお礼をしようとしたら既に誰もいなかったのだ。


「あの人って前に助けてくれた人と同じだよね…」


羅刹との闘いで窮地に陥ったのを助けてくれたのも白いフードの人物である。

だが、正体には一切心当たりがなかった。

少なくともアスモデウスの呪いが解除出来るのはかなりの実力者である。


「そうだ、急がないと!」


思い出したかのように急いで行動を開始したのだった。


一方、シトリーとクローディアは苦戦を強いられていた。

前衛をクローディアが担当し後方から魔法でシトリーが支援しているが、全く倒せる見込みがない。

寧ろ遊ばれているようで本気を出されたら一気に終わってしまう状況である。


「遊ばれるとは屈辱デスワ!」

「まあ良いじゃネエカ。

これを実践で使うのは初めてなんダヨ。

試験運転は重要ダロ?」


この魔装兵器を出すほどの相手は今まで皆無であった。

だからこそ実践にて様々な性能テストが行いたいのである。

相手の攻撃もわざと受けて防御性能もその一つだ。


「コチラモ倒ス確率ガ上ガリマス。

コノ機会ヲ活用スベキデス」


クローディアは両手を鋭利で突きに特化した形状へと変化させ一点を集中して攻める。

正確な突きが何度も胸部の中央を捕らえるが僅かな傷が表面に出来ただけであった。


「その単純だが効率的な考えは良いゼ。

感情が無いと無駄なものが省かれて目的に向けて最良の行動が取れるカラナ。

ますますその思考回路を頂きたいゼ」


クローディアの協力な一撃を何度も耐えきれる防御性能に満足していた。

回避も可能だがそれでは性能テストにはならない。

この戦闘結果とクローディアの思考回路が手に入ったら理想に更に近づけるのだ。

クローディアは分からないがシトリーは何回か被弾し明らかに満身創痍である。


「そろそろ限界が近そうダナ。

俺は優しいから懇願するなら一瞬で殺してヤルゼ」

「お断りデスワ!

死ぬなら自爆してでも道連れにしてやりマスワ!」

「自爆シテモ効果ナイト予測サレマス」

「ハハハッ!

そっちの機械の方が現状をちゃんと理解してるじゃネエカ!」

「うるさいデスワネ!

貴女も無駄口叩くくらいなら冷静な分析で解決策を導きだしナサイ!」

「光明ハアリマス。

冷静二コレヲ見テクダサイ」


クローディアは小さな破片のようなものをシトリーに手渡した。


「一体、何だと言いマスノ…。

これはもしカシテ!」

「望ミハミエマシタカ?」

「30秒…。

何とか時間を稼ぎナサイ。

貴女の思い通りなのは癪ですがそれ以上にアイツを殺したいデスワ」

「承知シマシタ」


二人の相談は終わりアスモデウスの方に向き直す。


「相談は終わったようダナ。

その奥の手を蹴散らしてそろそろ終わりするゼ。

戦闘データは十分だから後はその機械人形の分解がまだあるカラナ。

何かやるなら受けてヤルゼ!」


アスモデウスは両手を広げ誘ってくる。


「後悔しながら死にナサイ!」


シトリーは意識を集中さえ全魔力を解放する。

灼熱の業火が周囲に現れ渦を巻くように回転しているのを両手で上手に胸の前に集めていく。

あれだけ巨大だった炎があっという間に野球ボールほどの大きさに圧縮されていき不気味に紅く輝いていた。


「まだ分からねえノカ?

魔法は一切、通用しねえってことガナ。

その球にどんな威力があろうが関係ねえんダヨ」


既に分析は完了しておりシトリーの魔法は問題なく無効可能という結果が出ている。

アスモデウスは余裕をみせ最後の攻撃を無効化することで絶望させてから殺したかったのだ。


「貴方の敗因は最後に隙をみせたことデスワ。

喰らいナサイ、紅竜の瞳ドラゴン・アイ!」


膨大な魔力で生じさせた業火を限界まで圧縮した球状の物体から光線が超高速で放たれる。

その危険性に気付く前に胸部を貫かれていた。


「馬鹿ナ!?

どれだけ強力であろうと魔力で出来たものであれば無効化するハズ…」

「癪なことですがクローディアが道を切り開いたのデスワ。

無駄に見えた一連の攻撃はある一点を狙ったものデスノ」

「マサカ…?」

「それが今、貫いた場所デスノヨ。

貴方の魔法無効化は表面にのみ付与されていたのを見抜き一ヶ所だけ傷をつけたのデスワ。

後は切り開いた光明をワタクシが貫いただけデスノ」


心臓を貫かれたアスモデウスは仰向けに倒れ込んだ。


「まさかたった二人に敗けるトハナ…。

やはり油断せずに真っ先に殺すべきダッタナ」

「終わりデスワネ。

もうすぐ貴方は死にマスワ」


シトリーとクローディアはゆっくりとアスモデウスに近づき見下ろしている。


「アア、死ぬダロウナ。

だが、俺は簡単に敗けネエゼ」

「今さら何が出来ると言いマスノ?」

「この魔装は俺が死ぬと時限式の爆弾となるノサ。

ここから村も含めた一帯が平野になるくらいの威力ダゼ。

さっきので魔力を使い果たしたお前も向こうで苦しんでる聖女も何も知らない村人も全部一緒に地獄行きダ。

そこの機械人形だけは逃げれば助かるカモナ」

「貴様、往生際が悪すぎデスワ!!」


残り僅かな時間で魔装を破壊できるとは思えない。

万全の状態でクローディアが僅かに傷を付けられただけでシトリーでは手段を持たないのだ。

とどめを刺すのは時間を早めるだけで怒りのぶつけ先もない。


「クローディア!

貴女は急いで村に戻りタルト様を何としても救いナサイ!」

「私ノ身体ヲ構成シテイル液体金属ヲ最大限硬化サセテ奴ヲ包ミ爆発ノ規模ヲ抑エマス」

「そんなことしても一緒に吹き飛ぶだけで意味ありマセンワ!

議論してる時間があるなら急ぎナサイ!」


二人とも自らの命より救いたいものがあるのだ。

それに爆発を回避させるのが不可能と理解しており被害を減らす方法に思考を巡らせている。


「そろそろお迎えがきたヨウダ…。

ジャア…また…あの世…デナ…」


アスモデウスが息を引き取ると同時に魔装が不気味な機械音を出しながら光出す。

もう爆発は不可避であり村までの到達も不可能であろうことから絶望がすぐそこまで迫っているのであった。

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