第218話 闘鬼

横たわり痛ましい姿のタルトを見たオスワルドが激昂し魔剣を抜き放ち斬りかかっていた。


「貴様あああああああああ!!!」


魔剣により最大に強化された一撃は遥か格上の相手でも葬りさってきたものだ。

過去最高の剣撃を繰り出し袈裟斬りにするが、肩のところで止まり皮膚一枚傷つけることさえ叶わなかった。


「人間にしては良い一撃だ。

だが、貧弱過ぎる」

「馬鹿め!

魔剣グラムの炎に包まれて死ぬがいい!」


魔剣との接触部から炎が立ち昇るがすぐに消えてしまった。


「馬鹿な…魔剣の炎が…」

「その剣は魔力を帯びているな。

だが、如何なる魔力の干渉も無効にする金剛のまえには無意味よ。

散るがいい」


羅刹の豪腕から繰り出された拳がオスワルドに襲いかかる。


「危ない!」


羅刹の足元から氷が瞬時に現れ僅な時間だが動きを遅らせる。

雪恋はオスワルドを助けようと飛び込むんだが、直撃を避けれた一撃が生んだ拳圧に二人とも吹き飛ばされた。


「ぐはっ、何て一撃だ…」

「オスワルド殿、人間ではあの攻撃は危険です…。

それは私め程度では同様ですが」

「助かりました、雪恋様。

ですが、聖女様をあのようにしたアイツは許せません!」


今の一撃で満身創痍の二人はもう戦線離脱状態に近かった。


「聖女一行といえどこの程度か。

所詮は人間か…」


既にタルトへの興味が消えたように生死はどうでも良いようである。


「リリス、タルト様の容態はどうデスノ!?」

「分からネエヨ!

脈はあるが酷すぎてどこが悪いとかじゃネエヨ!」

「何とかして救いナサイ!!

出来なければワタクシが貴女を殺しマスワヨ!」

「無茶言うんじゃネエッテ!?

ワタシは治癒魔法が使える訳じゃねえんダゾ!

こんなの薬で助かるレベルじゃネエヨ!」


その言い合いをしながらオスワルド達の攻防を観察する。

タルトが吹き飛ばされた瞬間、側に駆け寄るか憎き敵を討ちに行くか悩んだ隙にオスワルドより出遅れたのだ。

寧ろそれで冷静に戻ることが出来、リリスにタルトの容態を確認するよう指示を出しオスワルドとの攻防から相手の力量を見極めようとしている。

だが、オスワルドと雪恋が僅か数秒のうちに吹き飛ばされた。


「チッ、あれだけでも奴が相当な化け物だということが嫌というほど伝わりマシタワ…」


間髪入れずに攻撃を仕掛ける。


「どれだけ魔法を防げるか試してあげマスワ。

全て燃やし尽くしナサイ!

煉獄の爆炎ヘル・フレア!!」


羅刹を覆うように灼熱の炎が立ち昇り渦を巻いていく。

すぐに球状に変化した炎は収縮し始め内部にある全ての物質を焼き尽くしていった。


「この距離でも物凄い熱風を感じます!

流石の羅刹様でも耐えきれるか…」


それなりの距離にいる雪恋でさえあまりの熱さに氷で防御するほどであり、その内部の温度といえば想像を絶するほどであろう。

だが、炎を切り裂くように現れた人影は全くの無傷である羅刹であった。


「言ったであろう。

魔法の類いは通用せんとな」

「やりマスワネ…。

では、これでどうデスノ!」


シトリーの全身から吹き出した炎は空中で濃縮され巨大な人形を形作る。

それはシトリーが持つ膨大な魔力を消費することで物質化させ物理攻撃も可能とした超魔法である。

羅刹をも遥かに超える巨体がまるで生きてるかのように脈動していた。


「押し潰されナサイ!

燃え盛る巨人ウィッカーマン!!」

「ほう、炎を物質化するほど魔力操作に長けているのか」


炎の巨人が繰り出す一撃は巨躯から産み出された恐ろしい威力と触れたものを焼き尽くす表面温度を兼ね備えた致命的なものである。

振り下ろされる拳を悠々と見上げ、それに合わせるように自らも正拳突きを繰り出す羅刹。


「だが、その程度ではまだまだ貧弱だな!」


羅刹の正拳突きから発せられた衝撃により炎の巨人は粉砕され、その余波はシトリーまで届いた。

両手で必死に防御することで何とかその場で耐えきったが力尽きるように膝を地に着いてしまう。

既に炎の巨人を召喚した時点で魔力のほとんどを使いきってもいたのだ。


「これが魔王に並ぶ実力を持つと言われる闘鬼デスノ…。

デスガ、これでは終われまセンワ…」


立ち上がろうとするが身体が言うことを聞かない。

先頭開始してタルトも含め4名までもが戦闘不能に陥っていた。


「さて残るは二人か。

桜華よ、以前と同様に動けぬまま終わるか?」


タルトの自己治癒能力を信じ参戦することにしたリリスが桜華の横へと並び立つ。


「想像以上の化け物ダナ。

まさかビビってねえヨナ?」

「けっ、馬鹿いうんじゃねえよ。

昔はビビって動けなかったが今は違え。

親父の動きもしっかりと見極めたぜ」

「ほう…どれほど成長したか見せて貰おうか」


妙に落ち着いている自信に驚いている桜華。

前日に飲まないと昔の事を思いだし恐怖が込み上げてきていたのだ。

それが戦闘が開始しタルトがやられたので怒りが沸いてきたが、何故かフッと冷静になり悟りを開いたように物事が見えるようになる。

一連の攻防で自分との力量さを見極めようとじっと堪えていた。


「出し惜しみ無しだぜえ。

最初から全力でいかねえと無理だな」


出した結果は圧倒的な実力差。

小技をいくら出しても無駄だと判断し可能性がある全力の大技が通じるか試すしかないのだ。


「どうせ長期戦は無理だからなあ。

出せる最高の技を試すだけだ、巫覡ふげき!!」


普段使うときは30%であり過去に出した最高値である50%を引き出す。

限界を超えた能力を引き出す代わりに効果が切れれば筋繊維がズタズタになり暫くは動けなくなる。

それでも遥か格上の相手をするのに躊躇などしていられないのだ。


「よし、いくぜ!」


桜華は真っ直ぐに羅刹へと突っ込んでいく。

背後からリリスが同時攻撃をするため回り込んでいた。


「弐の太刀、紫電しでん!」

「余所見する暇はネエゼ!」


ほぼ同時に三連撃を繰り出され回避不能な技である紫電。

背後からは体内へ注入されれば全身に回り死を免れないリリスの猛毒を帯びた手刀。

対する羅刹は背後は振り返らずに桜華を迎え撃つ。


「馬鹿にしてるノカッ!?

後悔する間もなく死ネ!」


リリスの研ぎ澄まされた手刀を隙だらけの背中へ突き立てる。

だが、その鋭利な爪は突き刺さることなく皮膚で停止した。


「刺さらネエダト…」


そう、羅刹はリリスを脅威とはみておらず無視したのだ。

そして、桜華の三連撃を両腕で受け止めた。


「ふむ、良い太刀筋だ。

硬化させねば皮膚を斬られておった」

「あっさり防御されたようにみえたがなあ…。

次は防御より早く切断してやる!」


太刀を鞘に納め抜刀の構えで体勢を低くする。


「喰らえ…四の太刀、影桜一閃かげざくらいっせん


身体が前に揺らいだと思ったら風のように走り抜ける。

巫覡で強化された速度はラファエルにも達するほどであり羅刹も両腕での防御は間に合わず胴を薙ぎ払う。


「手応えはあった…」


仁王立ちしたまま動かない羅刹。


「やった…ノカ?」


桜華の動きを捉えられなかったリリスはじっと次の展開を待ち続ける。

次に動いたのは羅刹であった。

ゆっくりと桜華の方へ振り返る。


「やるな、反応出来ぬほどの動きをみせるとは」


剥き出しになった胴体にはうっすらと赤く横に線が付いているが皮膚を斬った訳ではなかった。


「反応出来ねえのに防御出来るはずはねえだろ!?」

「それは違うな。

あの構えから最速の抜刀技だと見抜いた。

だから、動き出す前から全身を硬化させていただけだ」

「まじかよ…」


次々と技が破られて追い詰められていく桜華。

今、動けるなかで自分だけが闘える状態で諦めるわけにはいかないのである。

巫覡の効果も残り時間が少ないことから次で決めるべく再度、抜刀の構えをとるのであった。

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