第174話 幕間 キノコ狩り

アルマール周辺の木々が色づき秋が深まっていた。

タルトはいつものようにエグバートの店に立ち寄り昼御飯を食べている。


「最近、寒くなってきましたよねー。

モニカさん、温かいものが食べたいなー」

「今日は旬のキノコを沢山使ったスープがあるよ。

タルトちゃんはいっぱい食べるから大盛りにしとくね!」

「ありがとうございます!」


やがて小さい女の子が一所懸命に料理を運んで来てくれる。

ここでは獣人とのハーフの子供達が住み込みで働いているのだ。


「うんうん、みんな頑張って偉いなー。

おっ!?これ美味しい!」

「聖女様はキノコがお好きですかな?

我が領地は森深くキノコの産地となっているのですよ」

「へー、オスワルドさんの領地も広くなりましたしね。

そうだ、みんなでキノコ狩りに行きませんか?」

「良いですね!

良い場所があるのでご案内しますよ!

では、明日の朝に出発出来るよう準備しておきます」


こうして翌朝になり神殿前に数台の馬車が止まっていた。

数人の兵士も同行しており防具や武器を手入れして待っている。


「おやっ?

キノコがある場所は魔物も出るのかな?

一応、リーシャちゃん達から目を離さないように気を付けないと」


そんなことを考えているとオスワルドが現れ声を掛けてきた。


「おはようございます、聖女様!

良い天気でキノコ狩り日和ですね。

腕がなりますよ!」

「おはようございます、オスワルドさん。

さあ、出発しましょう」


今日の同行者はオスワルド、ティアナ、カルン、リーシャ、ミミ、リリーであった。

馬車にのって暫く揺られていると太陽の光が届かないほどの鬱蒼としジメジメした森に到着する。


「ここですか?

いよーし、見つけるぞー!!」


タルトが森に分け入り進んでいくと自分の背丈の半分はあろうかと思われるキノコの傘が見えた。


「すごーい、大きい!

大物ゲットだ…ぜ…」


ガシッとキノコを掴み持ち上げようとしたらキノコ?がモゾモゾと動き出す。


「うわあああああああああああ!!」

「大丈夫ですか、聖女様!?

悲鳴が聞こえましたが!」


タルトの悲鳴にオスワルド達が駆け付ける。


「あ…あれ…」


タルトが指差す先には先程のキノコ?がこちらを向いて威嚇している。

そう、キノコには手足が生えており顔らしきものもあった。

しかも、奥には無数のキノコもどきが寄ってきている。


「これは…立派なキノコですね!

さすが聖女様、もうお見つけになるとは。

これは狩りがいがありますよ」

「キノコ…狩りって…そういう意味じゃ…」


オスワルドと兵達は喜んで武器を手にキノコ達に向かっていった。

その様子を呆けてみているタルトにリーシャ達が近寄ってくる。

その手には自分と同じくらいのキノコを抱えて。


「タルトさまー、りっぱなキノコがとれましたー」

「リーシャちゃん…そのキノコ、手足があるよ…?」

「何言ってるンダ、タルト姉?

キノコなんだから手足もあるし顔もあるダロ?」


カルンが何をいってんだ、コイツ?といった顔をしてタルトを見る。


「よし、リーシャ達、手足は邪魔だから落としてオケヨ」

「「「はーい」」」


リーシャ、ミミ、リリーは捕まえたキノコの手足をナイフで切り落とし始めた。

幼い女の子が解体している姿はシュールであり改めて異世界に来たのだと思い知らされる。


「みんな危ないよ。

ぷしゅーって胞子が撒かれて吸うと体からキノコが生えてきちゃったり…」

「ダカラ、何の話ダヨ…?

そんなことはネエヨ。

種類によってはマヒや睡眠効果のある胞子出すらしいケドナ」

「食べても大丈夫なの…?」

「昨日も美味しそうに食ってたダロ」

「ええぇ…あれが…?」


皆がワイワイと盛り上がってる中、想像と違ったタルトは一人でとぼとぼと歩いていた。


「どうみてもマタンゴじゃん…。

どこのB級映画よ…はぁ…これじゃ本当のキノコ狩りだよ。

ひと狩り行こうぜ!ってノリじゃない…」


下を向いて歩いていたからか松のような針葉樹の下に地面に埋まって先っぽだけ出ているキノコを発見した。


「これは…普通のキノコ?

これよ!こういうのを探してたのよ!

ほとんど埋まってるから分からないけど松茸みたいな感じだね」


ワクワクしながらキノコの回りの土を軽く掘り、折れないように慎重かつ一気に引き抜いた。

すると地面からマンドラゴラのような手足としわくちゃな老人のような顔が現れタルトと目が合う。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


タルトの悲鳴に近くにいたティアナが駆け付ける。


「どうした、タルト?って、これはカクレダケじゃないか。

土に埋まってるから見つけるのが難しいんだが、味が最高なんだよ!

こんなの見つけたら叫びたくもなるな」

「もぅ…やだ…帰りたぃ…」


勘違いのティアナに対して地面に転がって半べそのタルト。

一名を除いて大満足のなかキノコ狩りは終了し帰路に着いたのである。


アルマールへと帰着した一行はエグバートの店に立ち寄って収穫したキノコを早速、食べることにした。

エグバートが調理しモニカが運んでくるとタルトだけまだ落ち込んだままである。


「タルトちゃんはどうしたの?

元気がないみたいだけど」

「アレはほっといてヤレ。

何かキノコの見た目が気に入らなかったみたイダ」

「タルト様のように美しい方が醜いキノコを好きになる訳がありマセンワ」

「そうねえ、カルンちゃんやシトリーさんの言うことも分かるわね。

見た目はちょっと怖いからタルトちゃんには刺激が強すぎたのかな」


三人のやりとりをよそにスプーンで掬い上げたキノコを見つめるタルト。


「これがあのキノコ…」

「タルトさま、おいしいですよ!」

「リーシャちゃんが美味しそうに食べてる…。

あむ…むむ…美味じいよぉ…」


美味しいけど素直に喜べないタルトであったが、お腹も空いておりどんどん皿を空にしていく。


「おっ、これはヨイドレダケじゃねえか!

これ食うとほろ酔い気分なっていいんだよな」

「姫様は既にお酒でほろ酔いじゃありませんか…。

飲みすぎては駄目ですよ」

「堅いこと言うなよ、雪恋。

お前は年寄りか!」


箸と酒が進み盛り上がってきていたが、リーシャがふと横をみるとタルトの箸が止まっていた。


「タルトさま、どうしたんですか?」


リーシャがタルトの顔を覗き込むと急にガシッと抱き締められ唇と唇が重なる。


「ん…ちゅく…ちゅく…ぁ…ん…」


舌が絡む濃厚なキスにリーシャはタルトのされるがままになっており、周囲は静まり返り時間が止まったようだった。


「リーシャちゃん、可愛い…全部食べちゃいたい…」


次の瞬間、リーシャの服がスポーンと脱がされ、それと同時に桜華が琉を蹴り飛ばし、シトリーがオスワルドの襟を掴んで外へと投げ飛ばした。

窓とドアもすぐに閉められ男子禁制の部屋と化している。

そんなことを気にせずにタルトはリーシャとキスを続けており、ミミが我に返って止めにはいる。


「タルトさま、なにをしてるのです!

やめるのです!!」


その声にピタッと動きを止めミミの方をじっと見据える。


「ひっ!」

「ミミちゃんも可愛い…」

「わっ!やめっ…ん…」


今度はミミが捕まり服を脱がされてキスをされている。


「おい、タルトが変だぞ!

いや、いつも変だがさすがにこれはおかしいだろ」

「まあ確かにノルンの言う通りちょっと変かもな。

ヨイドレダケ食って酔っぱらったんじゃねえか?」

「桜華も知ってのとおりヨイドレダケはほろ酔いくらいで泥酔するなんて聞いた事がないぞ」


ふとティアナが何かを思い出したように手を叩く。


「昔、読んだ文献にヨイドレダケの影響は魔力量によって変化すると書いてあったな」

「タルト様の魔力量は非常に多いですから泥酔されたノデスワ」


そんな会話中もミミが抵抗虚しくキスされたままだ。

それを見たリリーがタルトに寄ってくる。


「リリーも…」

「リリーちゃんも可愛がってあげるね…」


自らタルトの餌食になるリリー。

その横でカルンが楽しそうに眺めていたがユラッと頭をあげたタルトと目が合ってしまう。

その瞬間、タルトが目の前に現れギュッと抱き締められる。


「オイ、タルト姉、待て、アタシは子供じゃないゾ!

こうみえても何十年も生きてるンダ!

オイ、聞いてるノカ!?力強えッテ!

ヤメロッ!ヤメ…ン…ァ…ン…」


カルンの抵抗も虚しくタルトの毒牙に掛かってしまう。

それを見たシトリーがタルトの前に進み出る。


「タルト様、ワタクシにも是非お願いシマスワ!」


タルトはカルンを解放しシトリーをジッと見つめる。

無表情のままジト目で暫くシトリーを見つめており何を考えているか分からない。


「シトリーさんは大人だから嫌…」

「ナッ!?」


そっぽを向いてしまったタルトに真っ白に燃え尽きたシトリー。

タルトは次の獲物を求めて周囲を見渡す。

全員の予想は幼く見えるリリスかと思われていたが、目があったのはティアナであった。


「ティーアーナーさーん…」


ゆっくりと一歩ずつ近づくタルトに壁際まで追い詰められ逃げ場を失ったティアナ。


「私はそんなに見た目が幼くないぞ!

それに数百年は生きてるだ!

やめろ、来るな!

それにそのジト目が怖いぞ!

その目でみるな!

やめろ、やめてくれ!誰かたすけてくれ!」


まさにティアナが襲われる刹那に救世主が現れた。


「タルトちゃん、何やってるの?

嫌がってるから駄目でしょ!」


モニカが止めには入りタルトをぎゅっと抱き締める。


「モニカ、助かった!

でも、気を付けろ。

今のタルトはキス魔になっている!」

「そうなの、タルトちゃん?」


モニカが尋ねるとタルトはモニカの胸に顔を埋めている。


「お母さん…」


その一言を最後にスースーと寝息を立てて寝始めた。


「さすがモニカだ!

その溢れる母性でタルトを静めたぞ!」

「私はそんな年齢じゃないってばあーーー!!」


こうして騒ぎは鎮静されたが、この事件の後にタルトとお酒はタブーという暗黙のルールが出来たという。


店から放り出された琉とオスワルドは。


「僕たちって一体…」

「琉よ、男は我慢も必要なのだ」


二人で騒動が収まるまで寒空のもと外で座って待っていたのであった。


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