第165話 ティートとカルヴァン
アルマールより北方にある場所で最後の決戦が行われていた。
ティート軍とカルヴァン軍が雌雄を決する為、激戦を繰り広げている。
カルヴァンとその部下との分断には成功し、地の利を得たティート軍は崖上から弓で相手を牽制している。
だが、素人の寄せ集めでは所詮、付け焼き刃であり精鋭相手に少しずつであるが押されつつあった。
「ふっ、俺がお前に勝つのが早いか俺の部隊がお前の部隊を突破するのが早いかだな。
どちらにしてもお前らに勝利はない。
見ろ、少しずつだが押し返し始めているぞ」
「あにうえ…」
「ミミ、落ち着け。
その前にカルヴァンを倒せばいいだけだ」
「ふはっはっはっ、やってみるがいい!
もし勝てたらこの槍を返してやるぞ」
「やはり我が父の槍であったか…。
魔槍アラドヴァルは返して貰うぞ!」
獣人は生まれた時の種族により能力が大きく異なる。
カルヴァンは獅子、ティートは虎と戦闘向けで体も大きく力も強い。
純血は動物を二足歩行の人型にしたように全身を毛に覆われているが、ハーフは見た目は人間と同じで耳と尻尾が付いてるだけで能力は劣るのだ。
ハーフではあるがリーシャの猫やミミの狐は比較的、小さい種族で大人の女性でもタルトと大差ないほどだ。
ティートとミミのように親と同じ種族を受け継ぐ訳ではないから運次第だ。
特にミミの狐は稀で数十年に一人くらいの確率である。
戦闘向きでないミミをカルヴァンが敵ともみなしていない理由の一つであった。
「ミミ、少し下がっていろ。
まずは俺が相手の実力を見極める」
「あにうえ、おきをつけて」
ティートは距離を保ったまま槍を構える。
「壱の槍、
獣人の腕力を最大限に活かし高速で槍を薙ぎ払うと真空が発生しカルヴァン目掛けて襲い掛かる。
「ふん、真空波か、小賢しい!!」
カルヴァンが槍を力任せに一払いすると飛んできた真空の刃を相殺した。
それは想定内のティートは既に次の技の構えである。
体勢を低く槍の先端をカルヴァンに合わせる。
「これでどうだ、弐の槍、
ティートが立っていた地面が弾ける。
身体全体をバネのように溜めた力を爆発させ自身を槍と一体化させ矢となり超高速で敵を穿つ技だ。
下方から繰り出され相手の心臓を狙い上昇する軌道は目で捉えにくく常人では何が起きたか理解する前にあの世にいってしまうだろう。
これだけの大技を惜しみ無く出すのはカルヴァンが格上の相手であると認めた上で自分の技がどれだけ通じるのか推し量る為であった。
「うおおおおおおおおおぉぉ!!」
カルヴァンは蒼穹の軌道を見切り槍の切っ先で僅かだが軌道を反らした。
そのまま反撃に転じようとしたが、想像以上の速さであり完全に躱せず肩口を掠めていき攻撃を繰り出すことが出来ない。
「むぅ…思った以上に成長したな。
俺に小さいながらも傷を負わせるとは…」
「まだまだこれからだ!
目にものをみせてやる」
強気のティートだが今の連続技でかすり傷一つだけとは予想以上に実力差があると認識し心の中では焦っていた。
「それに今のは獣人の技ではないな。
別の種族に師事を受けてるな?」
「ああ、そうだ。
俺には沢山の師匠がいる。
一人では得られなかった力を得たのだ!」
「ふざけたことを。
所詮、小技程度をいくら身に付けても真の強者の前では無意味よ。
闘いで信じられるのは己だけよ」
「何を言う!
戦とは一人で行うものではない!」
「ふっ、強大な個の前に雑魚がどれだけ立ちふさがっても止められはしまい。
事実、お前を倒してしまえばもう俺を足止めできる奴はここにはいないだろ?
それに見てみろ、お前の味方は押され気味で今にも突破されそうだぞ」
「あにうえ、まずいのです…。
あそこを突破されたらもう後が…」
「くっ…万事休す…なのか…?」
何とか弓や槍で崖を登られないように妨害しているが、それももう限界と思われた。
もう少し自軍の人数が多ければ何とか持ちこたえただろうが、このままでは時間の問題だろう。
「さあ、どうする?
味方を助けに行きたければ止めはせんから行くが良い。
その代わり俺は一人でも先に進ませて貰うがな」
「ふざけるな!
誰がそんなことをするか!」
「よく考えてみろ。
ここにいるのは同じ獣人だ。
もし、道を譲るなら情けをかけてやろう。
どうせ、この先のまちに住んでいるのは敵である人間だぞ、悩むことはあるまい?」
「…」
ティートはじっと無言で考えている。
「あにうえ…」
それを心配そうに見つめるミミ。
「そら悩む時間はあまりないぞ。
俺が命令しない限りあそこの味方が殺されてしまうのだ」
「俺は…」
何かを決心したようにすっきりした顔をしているティート。
「俺はここを死んでも守るっ!!」
「何だとっ!
貴様、同族より人間を優先するのか!?」
「人間とか獣人とか種族など関係ない!
俺は俺が信じる人達の為に戦うだけだ!!」
「人間など信じても裏切られるだけだぞ!」
「カルヴァン、お前はまだ知らないだけだ。
人間にも信じられる者がいることを」
「そんな訳あるかっ!
人間なんて命の危機を感じたら俺達なんて見捨てて逃げるに決まっている。
実際にここに人間は助けに来ぬだろう?」
「それは皆、自分の役割を全うしているだけだ。
各々が自分の持ち場で命懸けで今も戦い続けている!」
「そうか、騙されてるのに気付かんのか。
良かろう、動けなくして街へ連れていってやる。
お前を助けようとする者などいないのを理解するだろう」
カルヴァンは再び槍を構えるのを見て、玉砕してでも一秒でも長く足止めしようと覚悟を決めた。
そうすればシトリーや桜華が駆け付けられるだろうと考えたのだ。
その時にはミミだけは何とか逃がしてやりたいと思う。
「さあ、行くぞ、カルヴァン!
ここで絶対に止めてみせる!!」
「おう、いくぞ!!」
両者が動き出そうとする刹那、後方で歓声が上がった。
「何だ、遂に突破したのか?」
部下が突破しただろうと振り返ったカルヴァンは予想外の光景を見た。
そこには何処から現れたのかアルマールとは別の武器や防具を装備した人間と獣人の混成部隊がティート軍の加勢をしている。
「何だアイツ等は!?
何処にそんな戦力が残っていたのだ!」
「あれは…味方のようだが誰なんだ?
アルマールにはそんな戦力は残っていないはず…」
ティートが混乱するのは当然だった。
アルマールにいた戦える獣人は全て引き連れて来ていたのだ。
バーニシアに混成部隊がいるなんて聞いたこともない。
そんな事を考えていると一人の人間がこちらに近づいてくる。
「待たせたな、ミミ!
アルマールで場所を聞いたのだが詳細な場所が分からなくてな」
「あなたは…ヘンリーさん!?」
ヘンリーとは短期留学でアルマールの学校に通っていた隣国ディアラの貴族である。
その時にミミのバディとして共に学び仲良くなったのであった。
「たすけにきてくれたのですか?」
「ああ、アルマールが危機だという情報を得てな。
我が兵を率いて微力ながら参戦した。
友の危機に駆け付けるのは当然だろう」
「それに…じゅうじんもいるのです」
「そうだ、あれから色々と考えが変わってな。
奴隷から解放された獣人を雇い混成部隊を作ったんだ。
一緒に訓練して思ったが心強い味方が増えたな」
「タルトさまのおもいがつたわってよかったのです…」
「まあ、聖女様というより…俺に大切な事を気付かせてくれたのは別の人だ」
「?…だれなのです?」
不思議そうなミミに対して顔を赤らめるヘンリー。
「とりあえずこっちは俺に任せろ!
お前は兄と共にソイツを倒すのに集中するんだ!」
そういってヘンリーは部隊の方へと戻っていく。
ヘンリーの部隊が加勢した事でカルヴァン軍が押され始めていた。
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