第151話 プリンセス

翌日の朝、荷物をまとめ正装に着替えてホテルを出発した。

王城へと向かい長い大通りを進んでいくと、街のなかなのに大きな湖に突き当たる。

大通りから一本の橋で繋がっており、中央の島には立派な城壁が見え敵の襲来に備えた造りとなっていた。


「凄おーーーい!

こんな大きな街が城壁の中にあるのもビックリしたけど、更にこんなに大きい湖まであるなんて…」

「聖女様、ここは難攻不落の城としても有名なんです」

「タルトは歴史にはあまり詳しくなかったな。

人間同士の戦争が昔は多くてな。

アングリア王国ももっと大きかったのだが内紛で東と西に別れたんだ。

西はウェスト・アングリア王国として、東は七国連合の一部になった。

ここは当時の名残として残っているわけだ。

まあ、今でも防衛機能は充分に活かされたままだがな」

「そうですよねー、空からの攻撃以外じゃあ難しそうです」

「そういう意味ではタルトの前では意味がないな」

「なっ!?

私はそんな悪いことしませんよー。

平和主義の聖女様なのです!」

「他国の王をぶん殴ったのは、どこの聖女様だったかな?」

「そ…それは…そんな昔の事は忘れたかなぁ…」


雑談をしているうちに橋の手前に到着した。

重々しい雰囲気の警備の兵に招待状を見せると難なく通してもらい、橋を渡った先でも同様のやりとりが行われた。

兵の掛け声と共に鉄格子が上げられ中へ進むと広い中庭にでた。

真っ直ぐと門から続く道を進み城の正門前で馬車を止める。


「なんか緊張してきたなー」


いつもと違い正装のドレスを着ているタルトはおぼつかなくフラフラした足取りで馬車を降りた。

城の正門が開き中からメイド風の女性が現れた。


「遥々、このような遠くまでお越しいただき有り難うございます。

私はマティルダと申し皆様のご案内を申し使っております」


オスワルドが前に出て丁寧にお辞儀をする。


「この度はご招待頂き有り難うございました。

私はバーニシア王国のオスワルド子爵と申し、聖女様の護衛を命じられております。

こちらが聖女タルト様でございます。

そして、同行としてエルフのティアナ殿でございます」

「ティアナだ。

ワタシはオマケなのであまり気にしないでくれ」

「えと…タルトです。

あの…お招き頂き有り難うございます!」

「失礼かと存じますが可愛らしい聖女様でございますね。

どうぞ、こちらへ。

私に付いて来てください」


カチコチに緊張したタルトを優しい笑みで迎え入れてくれた。

何処を見ても七国連合のどの城よりも立派で精練された技術が使われており、国力も技術も優れているのが分かる。

長い廊下や豪華な階段を登り貴賓室へと案内された。

そこには円卓が用意され片側へ座るよう指示される。


「当初は玉座の間の予定でしたが王女様のご意向で対等な会見を望まれました。

一部の反対意見を押しきって一部の護衛を除いて参加しないことを条件に貴賓室での謁見が実現となったのです」

「そんな、私は別に気にしませんけど…」

「七国連合の中で聖女様の人気は絶大と聞いておりますので、聖女様に頭を下げさせて民衆の反感を買うのは得策ではありませんから」

「なるほど。

ここの王女はまだ子供だと聞いたが中々、賢明のようだな」

「エルフの方にお褒めいただけるとは光栄です。

王女様は小さい頃から勉学はお得意で、将来は立派な女王になられるでしょう」

「なんかお姫様ってもっとキラキラしたイメージだったんだけど何か大変そう…」


物語や映画などでは幸せなイメージがありタルトが知っているのは所謂、プリンセスである。


「タルトの知識はだいぶ偏りがあるな。

これだけ大きな国を統治するには並の人間には出来んぞ。

まあ、小さな国の王女では悲惨な運命を辿る者もあるから大小の問題ではないのだが」

「王女様も両親を亡くされ陰謀渦巻く宮中で一人で生き抜いておられて決して楽な人生とはいえません…」


マティルダは遠くを見つめて何かを思い出すように呟いた。


「あっ…あの失礼致しました。

お恥ずかしいお話をしてしまい…お忘れいただけるようお願い申し上げます」

「あの…忘れるのは難しいですが誰にも言いませんので」

「それで結構でございます。

お優しい聖女様に感謝を。

もう少しでお越しになると思いますのそのままお待ちください」


お辞儀をして部屋を出ていくマティルダ。


「マティルダさんはお姫様が大好きなんだろうね」

「ええ、今どき珍しい侍女ですね。

ですが、私も貴族で幼き時に両親を亡くしてますので王女様の辛さは共感できます…」

「確かにオスワルドさんと最初にあったときはひねくれてましたもんね」

「ははは…手厳しいですね。

私は聖女様に出会えて救われました。

王女様にも心の支えとなる人がいればいいのですが」


三人だけになり和やかな雰囲気で会話が進む。

その時、ノックの音が聞こえ近衛兵と思われる無表情の男が数人入り決められた配置に付いた。

緊張感漂う雰囲気の中、一人の少女と男性が続けて入室した。

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