第143話 魔剣

瓶から注いだグラスをオスワルドの前に置く。


「これは?」


不気味な色の液体にオスワルドも少し躊躇いの色が見える。


「あんたはワシの武器で何を目指す?」

「それは…聖女様のお護りし人々を救う事です」

「その意思に偽りがなければ、この液体を飲むがいい。

もし、偽りがあれば命を失うだろう」

「これを飲んで証明すれば良いのですね?

そうすれば武器を造って頂けると?」

「ああ、これからは真に信頼をおける相手だけに働くとしよう。

さあ、どうする?」

「おい、孫娘を助けたのにこれは何だ?」

「ティアナ様、問題ありません。

私にお任せください」


あまりの真剣な雰囲気に超神水みたいという思いを口に出せないタルトであった。


「私に迷いはありません」


オスワルドはタルトを見て微笑むと躊躇せず一気に飲み干した。

全員がオスワルドに注目するが特に変化は起こらない。


「これは…大丈夫だったのか?

かなり苦い味だったが…」

「あーはっはっはっはっはっ!!!」


突然、笑い出すガラシュ。


「あんた大した男だな!

安心しろ、これはただの苦いお茶だ!

すまんな、信に値するか試させて貰っただけだ」

「それでは?」

「ああ、合格だ!

あんたなら安心して武器を託せる。

誠心誠意込めて造ってやろう」

「ありがとうございます。

ただ、造って欲しいのはこの剣を打ち直して貰いたいのです」

「これは…そういうことか。

ワシも初めて見たが鍛冶職人として、名誉を賭けて挑戦させてもらおう。

なあに、加工できる事はこの剣自体が証明してくれている。

過去のドワーフが出来てワシの出来ぬ事などないはずだ!」


興奮するガラシュとオスワルドを残してクドゥリの部屋へと向かった。

治療は継続しておりベッドに起きて話せるくらいまで回復している。

剣の打ち直しには数日は掛かる見込みなので、引き続き治療を続けることにした。

オスワルドが残ったのはガラシュの強い意向で、武器が造られるのを所持者になる者が側にいて想いを込める事で魂が入るのだそうだ。

翌日、タルトがガラシュを訪ねると炉を難しい顔で睨み付けていた。


「おはようございまーす!

どんな調子ですかー?」

「おお、聖女様か…これは無理かもしれねえ…」

「えっ!?どういう事ですか?」

「ちょっと見てな」


炉から熱した剣を取り出すと鎚で思い切り叩く。

火花が散り甲高い音が響いたが剣は少しも変形していない。


「おそらくだが火力不足だ…温度が足りねえ…」

「これ以上、温度は上げれないんですか?」

「もう限界まで燃料と空気を投入し最高温度まで上げている…。

くそっ!どうすりゃいい!!

昔の奴はどんな手を使ったんだ…?」


ガラシュは悔しそうに鎚を叩き付ける。

その横でタルトはじっと炉を眺めていた。


「聖女様、何か良い案がありますでしょうか?」

「うん?オスワルドさん、炉の温度が上がれば良いんですよね?」

「ガラシュ殿の話では、そのはずですが」

「ちょっと試したい事が…サラマンダー君!」


タルトが呼ぶと炉から炎が立ち上がり少年の形へと変化していく。


(呼んだかい?)

「この炉の温度をもっと上げれるかな?」

(それくらい余裕だね、まあ見てて)


サラマンダーが手をかざすと炉の色が赤から白へと変化していく。

それと同時に今までの比ではない熱風が部屋に吹き荒れる。


「あちちちち!あちぃぞ!

おい、聖女様、ちょっとやり過ぎだ!」

「ほんとに熱い!ええーい、ウンディーネさん、部屋の温度を下げてえええ!」


炉の温度を維持する為、炉周辺に気流を発生させ室温だけ下げていく。

その光景に驚愕するガラシュ。


「いやぁ…普通は精霊の加護があるだけだが、まさか精霊そのものを使役してるとはな…」

「使役してる訳では…。

みんな力を貸してくれてるんです」

「ふっ…精霊も力を貸すか…。

本当に聖女様なんだな…これからの世界は明るいのかもしれねえ…」

「ええ、みんなが笑って暮らせる世界にしてみせます!」

「じゃあ、ワシも出来る事をやるだけだ!!

聖女様、炉の温度を維持しててくれ!

生涯最高の作品を造ってやろうじゃねえか」


そこからは職人の仕事であった。

他の全てが意識から外れ、ただ鎚を振るい続ける。

タルトも飛び散る火花と響き渡る甲高い金属音に見とれている。

何時間たったであろう。

時間の感覚はとうになく金属を打つことだけに集中している。

その間、クドゥリの治療はティアナがタルトに指示された通りに行い看病もしている。

炉の温度管理はウルとサラマンダーの任せ魔力だけ供給していたタルトはいつの間にか寝落ちしていた。


「出来た…」


その声に夢から覚めたタルトが見たものは汗だくのガラシュとオスワルドの姿であった。

その手には暗い部屋でも輝いている一本の剣が握られている。


「…ぅん…はわわぁ…出来たんですか…?」


眠い目をこすりながら尋ねる。


「ああ…見てくれ、この美しさ…。

もうこれ以上の武器は出来ねえ…ほれ、あんたのだ」


ガラシュはオスワルドへと剣を渡す。


「これが私の武器…」

「そうだ、あんた専用の武器だ。

持つと軽く感じるが攻撃の際は重い一撃となる。

そして、この金属は魔力を蓄積させる事が出来、普段から込めておくことでいざというとき最強の技が繰り出せるはずだ」

「それでは格上の相手でも勝てる見込みがあるんですね?」

「そもそも神の金属オリハルコンは天使や悪魔など人間以外の種族により効果が大きくなる。

魔物にも有効なので、ここぞというときに使うと良い」

「ありがとうございます!

この剣にて人々を守ってみせます!」

「ああ、頼むぜ…それより名前を付けてやってくれ。

唯一無二の剣なんだ」

「名前…ですか。

聖女様、お願い出来ますでしょうか?」

「そりゃあ良い、聖女様の祝福を付けてくれよ」


急に振られ嫌そうな顔をするタルト。


「ええええぇぇ…しょうがないですね…。

神話に出てきそうな…うぅん…竜をも殺せる剣…そう…魔剣グラムなんてどうですか?」

「グラム…素晴らしい名前ですね。

いつの日か竜を倒せるよう精進致します」


そこへ奥の部屋から女の子が飛び出してきた。


「おじいちゃん、見て!!

クドゥリ、すっかりげんきになったの!」

「おぉ…良かった…元気になったか…」

「おじいちゃん、泣いてるの?」

「あぁ…今日は最高の日だよ」


はしゃぐクドゥリにオスワルドが膝を折りグラムを見せる。


「これがおじいちゃんが魂を込めた魔剣グラムだよ」

「わあああぁ…きれい…クドゥリのじまんのおじいちゃんなの!」


その様子を微笑ましく眺めているタルト。

そんなタルトにクドゥリが気付いて近寄ってきた。


「聖女様、病気をなおしてくれてありがとう!」

「元気になってくれて私も嬉しいよー。

そうだ、遊ぶ約束したよね?

こっちにおいで」


クドゥリを連れて外に出るタルト。

まだ早朝で人通りがないのを確認し魔法少女へと変身する。

そして、クドゥリを抱き抱えて空へと飛び上がる。


「うわわわわわわわあああああ!」

「クドゥリちゃん、目を開けてごらん」


最初はタルトに必死で抱きつき目を閉じていたが、言われるがままに恐る恐る目を開ける。


「すごい…そらをとんでる…。

クドゥリ、聖女様とそらをとんでるの!!」

「よおーーし、ぐるりと周辺を回ってみようか!」


暫くクドゥリと空の旅を楽しんで降りてきた。

興奮覚めやまないクドゥリはガラシュに話聞かせている。

少し興奮し過ぎたのか疲れて寝てしまったようだ。


「ガラシュさん、私達はそろそろ出発しますね」

「そうか、寂しくなるな」

「そこでもし良ければですが…アルマールへ来ませんか?」

「アルマール?聖女様の街だったな」

「そうです、そこは安全安心で暮らせてクドゥリちゃんを学校に通わせられます」

「そうか…考えておくよ。

クドゥリにも聞かないといかないしな。

まあ、喜んで行くって言うだろうけど」

「行くときにはこの手紙をシトリーさんという人に渡してください。

そうすれば住む場所も用意してくれます」

「何から何まで世話になるな。

身の回りの整理が終わったら行かせて貰うぜ」

「はい、お待ちしています!」


こうして予定通り武器も手に入れて再び旅に出たのであった。

その後、空に飛んだタルトの目撃情報が流れ捜索隊が出されたという。

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