第111話 断罪

タルトはノルンを連れてディアラ王都に向けて高速飛行中である。

理由は勿論、連行された桜華ら三名を連れ戻すためだ。

一応、途中でバーニシア王都によって大臣のゼノンも同行願っている。

国同士の揉め事があれば専門家がいた方が何かと有利であろうと考えた為である。

ディアラに到着すると衛兵に真っ直ぐ玉座の間へ通された。


「待ってたぜえ、タルト!

うちらは悪くねえから早く助けてくれよー」


そこには悪びれた様子もなく、暇そうにしてる三名がいた。

怒りを何とか抑えて状況を確認しようと王へと向き直る。


「ええーと…この度はうちの者が迷惑を掛けたみたいですいませんでした。

それで一体、何があったのでしょうか…?」


その様子を見たディアラ王はイヤらしい笑みを浮かべながら話し出した。


「我が国が出した魔物討伐の依頼を受けた、そこの鬼と悪魔が任務完了後に無抵抗の我が兵に暴行を働いたと聞いておる」

「本当なの…?」


桜華らを見て不安そうに聞いてみる。


「ダーカーラー、さっきから違うって言ってるんダゼ。

アイツらが村の奴を見殺しにしようとしたから、文句いってやったんダ」


リリスの言い分に大臣のマレーが反論する。


「我が国の兵士が自国の民を見殺しにするわけ無かろう。

咄嗟にでた言い訳にすぎんな」

「そんなのアタシらが知るわけねえダロ!

ただ、魔物が襲撃してるのに村人を守ろうとしねえカラ、ムカついたンダ」

「それで殴っちゃったの…カルンちゃん?」

「イヤッ…その…ちょっと手が滑った…というか…」


タルトの悲しそうな顔に勢いが弱まるカルン。

逆にディアラ王とマレーのイヤらしい笑みはより増しているようだった。


「ほれ、殴ったことを認めたであろう。

所詮、化けの皮が剥がれれば魔物と同じだったのだよ!」


この発言にキッと睨み付けるタルト。


「でも、お互いの言い分は異なっています。

その…殴ったことは謝りますが、もし村人を守ろうとしない兵士がいたなら酌量の余地があると思います」

「よく言ったぜ、タルト!

それにうちらが文句を言ったら武器を手に殺気を持っていたぜ。

こっちが手を出してなかったら、襲い掛かってきてたと思うなあ」

「ふん、鬼が何を言っておる。

襲われると思い、自衛しようと武器を構えるのは当然の事であろう!」


両者の言い分は異なり話は平行線のまま進まなかった。

だが、王の発言と桜華らの発言ではどうみても分が悪い状況だ。

只でさえディアラ国民はタルトの方針に抵抗を感じている者が多く四面楚歌なのである。


「それで聖女としてどう責任を取るつもりなのだ?」

「それは…一方的に決めつけられても困ります…。

それに桜華さん達の言い分が正しいなら、お互いに悪い点があったと思うんです」

「どちらに信じるにたるかは比べるまでもないな。

そうだな、責任を取って我が配下に降るがいい。」


ゼノンは一連のやり取りから思い付いた事を耳打ちした。


「これは聖女様を意のまま操ろうとする罠ですぞ。

おそらく桜華様達を怒らせるように仕向けたのでしょう」

「でも、ここでは王様の言うことを否定するのは難しいですよ…。

私の事もあまり良く思われてないみたいだし…」


周りはいつもとは異なり、冷ややかな視線を感じる。

この時、扉を開けて入ってきた一人の人物が、この流れを変えるのあった。


「遅れてすまない。

現地での聞き取りに思ったより時間が掛かってしまった。

で、今はどんな状況だ?」

「ノルンさん!

待ってましたよぉ…。

心細かったんですからー。

それでいまの状況はーーー」


ノルンは一緒にアルマールを出発したが、途中で別行動をとり事件が発生した村の様子を見に行ったのだった。


「ほう…ディアラ王が言う話は私が聞いた話と大分、異なるようだな。

村人の話では桜華達が着いて、すぐくらいに魔物の襲撃があったそうだ。

その村には既に派兵されていた一個師団がいたが、住民を守らずに戦い始めたそうだ。

それを咎めた桜華に詰め寄った兵士を殴ってしまったようだ」

「何を言っている!

我が兵が民を見捨てる訳なかろう」

「果たしてそうかな?

まずその村には最近まで奴隷だった獣人やハーフが造った村であった。

この国では異人種への嫌悪感が強いからな、守ろうとしない理由はそこだろう」

「くっ…そんな嘘を誰が信じるというのだ」


この言葉にノルンの雰囲気が変わる。

眼には怒気を宿し、圧倒的な威圧感を感じた。

気づかないうちに後ずさってしまうほどだ。


「私が嘘を付いているだと?

天使である私の言葉を疑うつもりか?」


今までに見たことがないノルンがそこにいた。

これにはさすがのディアラ王も肝を冷やしたようである。

汗が止まらず、体の震えも止まらない。


「待、待てっ!

何も貴女の言葉を疑った訳ではない!

それは村の者が話した事だろう?

奴隷上がりの者が恨みを持って悪く言ったのだろう」


必死に考え捻り出した言い訳で何とか誤魔化す。

これで何とか情勢を持ち直せると思ったが、ノルンは薄笑いを浮かべている。

まだまだ攻撃の手を緩める事はないようだった。

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