第74話 邂逅

アルマールに戻ったタルトは大臣ゼノンからの連絡があるまでは、普段の生活に戻っていた。

そこで王都訪問時にある情報を得たので、空いている時間を利用して調査する事にした。


遡ること数日前。

王との謁見を終えて、叙勲パーティが始まる前にゼノンから報告を受けていた。


「以前にお話ししました精霊の住み処について、文献の情報から候補の場所を選定致しました。

詳細をこちらに纏めてありますので、お時間がある時に調査をされては如何でしょう?」

「ありがとうございます!

えっと…これが地図ですね…アルマールから更に南に行った…森の中みたいですね」

「ええ、こちらには人里はありませんので、領地内とはいえ、ほぼ未開の地と言ってもいいですね。

調査に赴く際にはお気をつけ下さい」

「ここには何があるんですか?」

「文献によると遺跡だと思われます。

但し、詳細は分かりませんでしたし相当前に造られたので現存しているかは…」

「行ってみないと分かりマセンノネ?」

「そうなりますね。

聖女様のお役に立てば良いのですが」

「これだけで十分ですよ!

今度、良い報告が出来るように調べてみます!」


そして、現在。

調査に向けてメンバを選ぶ会議中であった。

最初は七国会議の報告をしていたが、精霊の住み処について話すとすぐに行こうと話しになった。


「遺跡調査?

うちは興味ねえなあ、この前の戦いで酒を使っちまったから造るほうに専念してるぜ」


桜華は大した戦闘がないと思われたので、全く興味を示さなかった。


「私は兵士の鍛練を教導しなくては。

この前から兵士の士気が高くてな、それに希望者もかなり増えた」


ノルンもパスだ。

そして、リリスは畑の復興に大忙し等、大規模戦争の事後処理で各々が忙しくしていた。

今回は危険性も低いと思われたので、タルト、オスワルド、カルン、リーシャ、ミミ、リリーで行くことが決まった。

早速、馬車を用意して出発することに。

馭者はオスワルドが引き受けたが、他のメンバーが幼い見た目から、何処から見ても子供を引率している保父さんのようだった。


「じゃあ、ちょっと行ってきますねー」


気の抜けた挨拶をして、出発したタルト達。

既に荷台では子供達がワイワイと楽しそうに話していて、まるで遠足に向かう途中である。


「そういえばこの道ってリーシャちゃんと初めてアルマールへ来たときに通ったところだよね?」

「はい、そうです!

あのとき、タルトさまにたすけてもらってから、まいにちがたのしいです」

「そのときのおはなしをおしえてほしいのです。

リーシャとタルトさまのであいはどんなかんじだったのですか?」


リーシャが奴隷商人に捕まっていた事。

偶然、通りかかったタルトが助けた事。

二人の共同生活が始まった事。

初めてアルマールへ行った事。

シトリー達との出会い。

町の発展と思い出をミミやリリーに話していく。


「あの時のカルンちゃんは本気で攻撃してきて怖かったんだよー」

「むしろボコボコにされて負けたのは、アタシ達だけドナー」

「オスワルドさんもそのころ、であったのですか?」


馭者をしているオスワルドが参加してくる。


「そうですぞ。

あの時の私は恥ずかしいほど愚かだったのですが、聖女様に正しい道へ導いて頂いたのです」

「あの時のタルト姉は傑作だったナ。

怒らせては駄目だと良い教訓にナッタゼ」

「うぅ…あのときのタルトさまはすこしこわかったです」

「だから、あれは忘れてよーーーー」


和やかな雰囲気で馬車は進む。

途中、お昼休憩を取ったが順調な旅路であった。

やがて、景色が深い森に変わろうとした時にリーシャが急に立ち上がった。


「ここは…」


耳と尻尾がピーンとなって緊張しているのが分かる。

ただ、その顔は暗い影を感じる。


「すいませんっ!

ここですこしとめてください!!」


オスワルドは言われるがまま、馬車を停止させた。

リーシャがわがままを言うなんて事は無かったし、その剣幕は見たことがない。


「リーシャちゃん、どうしたの?

って、どこ行くの!?

一人じゃ危ないよ!」


馬車からピョンと飛び降りて、街道の脇にある小道に入っていくリーシャ。

直ぐにタルト、カルン、ミミ、リリーも追いかける。

オスワルドは馬車を近くの木に結わいてから後を追った。

リーシャは脇目もふらず、呼び掛ける声も聞こえないように一生懸命走っていく。

タルトはリーシャのそんな様子を心配しつつ、すぐに守れる距離を保ちながら後をついていった。


暫く行くと森が切れ開けた場所に出た。

タルトの目に飛び込んできた光景は、雑草が生えた畑と火事で燃えたと思われる崩れた家であった。

リーシャはとぼとぼと家の跡の隣にある石へ向かう。

石の前に着くと膝をついて座り込んでしまった。


「リーシャちゃん…」


リーシャの後ろに立ち、何と声を掛けたらいいか悩むタルト。

少しの沈黙の後、ポツリとリーシャが話し始めた。


「これはリーシャの…おとうさんと…おかあさんです…」


タルトからの返事がないが、話を続けるリーシャ。

タルトの後ろにはカルン、ミミ、リリー、オスワルドもその様子を見守っている。


「おとうさん…おかあさん…リーシャはげんきだよ…。

いまはタルトさまといっしょに…しあわせにくらしてるの…。

ともだちも…いっぱいできたの…。

…がっこうでべんきょうもしてるよ…。

ハーフでも…みんなやさしくしてくれるの…。

まものと…たたかえるくらいつよくもなったよ…。

だから…だがら…あだまを…なででほじいよぉ…。

もういぢどぉ…あいだいよぉ…。

うわああああああああああああああああああああああああああああぁ…」


タルトと出会ってからは時々、寝てて寂しくなって泣くことはあったが、いつも楽しそうにしていたリーシャ。

こんなふうに大泣きすることを見たのは初めてであった。

タルトはそんなリーシャをぎゅっと抱き締めて優しく頭を撫でる。


「オスワルドさん…今日は此処で泊まっても良いですか?

リーシャちゃんをご両親と少しだけ、一緒にいさせてあげたいんです」

「聖女様のお望みであれば。

では、馬車より夜営道具を運んで参ります」

「アタシも手伝うゼ…」

「ありがとう、オスワルドさん、カルンちゃん」


オスワルドはテキパキとテントを設置し、ご飯の準備を始めた。

カルンも手伝い夕暮れ前には夕食が始まった。

焚き火を囲んでスープを食べる一同。

泣き止んで落ち着いたリーシャも静かに食べている。

食べ終わっても誰も話を切り出せずにいると、リーシャが口を開いた。


「リーシャのおとうさんがじゅうじんで、おかあさんがにんげんです。

もりでけがしたおとうさんを、おかあさんがかいごしたのがきっかけだそうです。

でも、いばしょがなくなってここにいえをたてて、リーシャがうまれました。

こんなところですが…しあわせだったとおもいます。

でも、あのよる…だれかがぶきをもって…。

リーシャはもりにひとりかくれるようにいわれて…。

あさになってもどったら…おとうさんもおかあさんも…。

どうしていいかわからず、あるいていたらつかまってしまいました…。

そして、まちにつれていかれるときにタルトさまにであったのです」

「リーシャちゃん、ごめんね…。

もう少し早く会えてたら両親も救えたかも知れないのに…」

「タルトさまはなにもわるくないです…。

いっぱいのしあわせをもらいました…」

「ミミとおなじでりょうしんをなくしてたのですね…」

「ハーフだと家族も迫害されるカラナ…」

「リリーもいっぱい見た…」

「以前の私なら同様の事をしていたと思うと…何と言ったら良いか…」

「でも、リーシャちゃん。

今は私達、皆が家族だからね!」

「ミミもなのです!」

「アタシは当然ダナ」

「私も入って良いのでしょうか…?」

「…リリーが一番上のお姉ちゃん」

「ちょっ、そこは私がみんなのお姉ちゃんだよ!

確かに年齢では一番だけど…」

「ジャア、アタシが二番カナ」

「カルンちゃんまでーーーー!」

「ふふっ」


ここで久々にリーシャに笑顔が戻った。

それを見て安心し、夜遅くまで焚き火を囲んで楽しいひとときが続いた。

テントに入るといつも通り、リーシャに腕枕をしてぎゅっと抱き締めるタルト。


「…タルトさま…。

タルトさまはずっといっしょにいてくれますか…?」

「私はお姉ちゃんだよ。

ずーっと、ずーっと一緒にいるよ。

必ずリーシャちゃんの所に帰ってくるからね」

「うぅ…タルトさま…ぇと…おねえちゃん…」

「おおおおぉ!

リーシャちゃん、可愛いー。

お休みのキスしてあげるねー」


ちゅっとおでこにキスをする。

するとスースーと寝息が聞こえてきた。

その寝息を聞いていると段々と意識が遠くなっていくタルト。


翌朝、リーシャは両親の墓前の前にいた。


「おとうさん、おかあさん、いってきます。

リーシャにはたくさんのかぞくができたから、こんどみんなのはなしをしにくるね」

「オスワルドさん、ご両親の墓をアルマールに移せないでしょうか?」

「町に戻りましたら、すぐに手配致します」


こうして新たな気持ちで再出発する事となった。

リーシャにはいつも通りの笑顔が戻っている。

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