第72話 王からの依頼

アリス訪問によるゆるい雰囲気が残っている客間に王、自らが訪れた。

通常ならあり得ないことで、オスワルドは勿論のこと大臣のゼノンも困惑しているようであった。

そんな事は全く知らないタルトだけは平然としている。

オスワルドは直ぐに王の前で跪く。


「これは陛下、まさか客間にお越し頂けるとは…」

「オスワルドよ、おもてをあげなさい。

今回は非公式の面会ゆえ、堅苦しい挨拶はなしじゃ。

それに聖女様がお越しになられたのであれば、ワシが赴くのは当然であろう」

「ご無沙汰しています、王様。

急な用件との事で飛んできました」

「これは聖女様、お元気そうで何よりです。

この度は王国を救って頂き感謝致します」

「そんなっ、ただ、町を守りたかっただけでっ」

「お恥ずかしながら我が王国では、あれだけの軍勢を撃退する軍事力は持ち合わせておりません…。

隣国へ援助を求めるくらいしか策はなかったのです。

それを奇跡の御技にて成し遂げるとは」

「うぅ…私一人では何も出来ませんでした…。

皆さんの協力があって出来た事なんです」

「お呼びしたのは、その事案に関係するのですが、その前にオスワルドよ」

「はっ、此処に」

「此度は見事な働きぶりであった。

お主に叙勲を行う。

また、騎士ナイトに任命するので、聖女様を守護することを命ずる」

「有り難き幸せです、確かに拝命致しました。

以後、命を賭して聖女様を守護します」

「今夜、叙勲のパーティを開催するので参加するようにの」

「騎士って凄いんですか?」


タルトの疑問にゼノンが答える。


「騎士とは国のために多大な貢献をした者に一代限りの名誉職でございます。

それは武勲に限らず、学問である場合もありました」

「凄いじゃないですか、オスワルドさん!

おめでとうございます!」

「私は大した事をしておりません…。

全て聖女様のお導きの賜物です」

「そう卑下するでない、オスワルドよ。

城壁防衛の詳細は聞いておる、最後まで諦めずに兵士らを鼓舞していたそうじゃな。

その勇は騎士に相応しいとワシは思う」

「陛下…」


オスワルドは眼に熱いものを感じた。

今までの努力がちゃんと評価されたのだ。

男として泣くわけにはいかず、ぐっと我慢をする。


「さて、本題に移るのに座ってくだされ。

お茶のおかわりも用意させますので」


一同は席に座り直した。

メイドが静かに入ってきて、カップごと新しいものに交換された。

その仕事は正確に素早くプロの技である。

それを確認してから、王は一通の手紙を取り出した。


「急なお呼び出しをしたのは、これのせいでな。

七国会議召集の案内書ですじゃ」

「七国会議?」

「以前にお話ししましたが、近隣の国が同盟を組み七国連合を

として協力しあっておりますのじゃ。

我がバーニシアも参加しており、時々、各国の王が集まって会議をするので七国会議と呼んでおります」

「会議するだけなら問題なさそうですけど?」

「今回の緊急の議題は、先の戦争の事です。

国家規模の戦争にも関わらず、たったひとつの町だけで、しかも死者無しに勝利を収めた事が他国で懸念となっておりましてな」

「味方が強いのは駄目なんですか…?

むしろ喜ばれそうなのに」

「国というのはそう簡単ではありませんのじゃ。

我が国は弱小で大した武力を持ち合わせてはおりませんでした。

それが数万の魔物を圧倒できるほどの戦力を手に入れたのです。

他国ではもし攻め込まれたら脅威以外の何者でもありますまい」

「そんな…。

他の国を攻めるなんて絶対にしません」

「勿論、聖女様がそんなことをするわけないのは良く知っております。

ですが、聖女様の事を知らない他国では疑念を抱かせておりましてな。

特に獣人や悪魔を従えている事も、知らないものからすれば疑惑の材料になるのです」

「タルト様をお呼びしたのは、その話を聞かせる為デスノ?」

「それだけではないのです。

七国会議へ聖女様に出席頂きたいと要望が来ましてな。

如何ですかな?強制はしませんのでよくお考えくだされ」

「…行きます!

少しでも知ってもらって疑いを晴らしたいと思います」

「そう言ってくださると思いましたわい。

会議は一ヶ月後を予定しております」

「他の国の事を教えて貰えるカシラ?

特にどの国が敵意を持っているか等は重要デスワ」

「当然の疑問ですな。

これゼノンよ、聖女様とシトリー様に説明をしてあげよ」


ゼノンはテーブルの上に地図を広げた。

以前にも見せてもらった各国の位置関係や領土の広さなどがよく分かる。


「まずは位置関係からですが、闇の領土に接しているのは我が国を含め4つあります。

南からバーニシア、ディアラ、ドゥムノニア、ポーウィスの順で並んでおります。

その後ろにレッジド、ゴドディンが並んでおり、一番奥にケントがあります。

闇の領土に接した四国は常に魔物の襲撃に脅えているわけです。

離れた三国が商工農を担っている関係です。

まずはケントですが、広大で肥沃な土地を持っていることから農業国家となっております。

我が国も食料の支援を受けております。

次にレッジドですが商業国家であり、王よりも商人で構成された組合が力を持っているそうです。

レッジドの北にあるのが、ゴドディンです。

ここはドワーフの町もあり工業が盛んです」

「ドワーフ♪」


ドワーフと聞いてタルトの目は輝いている。


「そして、隣国ディアラですがバーニシアと同様に弱小で、常にライバル関係にあります。

敵対という意味では一番でしょう。

5番目のドゥムノニアは軍事国家で七国で最強でしょう。

この国がなければ過去の戦いで滅びた国があったかもしれません。

表向きは弱小の我が国に敵意を見せませんが、今回の事で動揺があるのは間違いありません。

最北にあるのがポーウィスで大国ではありませんが、エルフの里もあり戦力は未知数です。

北の山脈も近く竜属に刺激を与えぬ為か襲撃も少ないようです」

「エルフーーーーっ!

エルフって耳が長いんですか??

みんな容姿端麗って本当ですか??」


更に目を煌めかせて身を乗り出す始末だ。


「せ、聖女様はエルフがお気に召されたようですな。

ポーウィス以外では見かけませんので、私も見たことはないんですが、容姿は美しいと聞いたことがあります」

「うわぁーーー、そうなんですねー!

見てみたいなぁーーー!!」

「お忙しいとは思いますが、他国へ外遊できるよう、会議時に相談してみましょう」

「おぉー、ぜひお願いします!」


喜ぶタルトとは異なり、シトリーは聞いた情報を整理するように考え込んでいる。


「ところで、今回の会議の発案は何処カシラ?」

「それはディアラになります」

「一国の提案で開催できるものデスノ?」

「鋭い質問ですね。

発案した国以外で二国の同意が得られれば開催可能です。

今回ではドゥムノニアとレッジドになります」

「その三国は警戒した方が良さそうデスワネ」

「ディアラとドゥムノニアはその通りだと思いますが、レッジドは商売第一ですから聖女様の存在に興味があるのだと思います。

聖女様の叡知は他国で噂され、その技術を狙っている輩は多いそうです」

「それでタルト様を同席させる意図は分かってイマスノ?

本人がいては、話せない事もあるデショウ?」

「そうですね…。

明確な意図までは不明ですが 、どのような人物かを直接、見極めたいのだと思います。

同席を強く要望したのはドゥムノニアですから、聖女様の力量を知りたいのでしょう」

「その場で害する危険性はどうデスノ?」

「公式な場ですから、大丈夫だと思います。

但し、外は危険ですので注意頂いたほうが良いですね。

聖女様ですから心配はないと思いますが」

「護衛が必要デスワネ」

「そこでお願いなのですが、護衛はノルン様にお願い出来ますでしょうか?」


聞いた途端、シトリーが激昂するかと思っていたゼノンであったが、冷静に思考しているシトリーの姿は意外であった。


「余計な騒ぎを起こさせないためデスワネ?」

「ご理解が早くて助かります。

今回の開催場所はバーニシアではありません。

他国ではシトリー様や桜華様のような闇の眷属の方に慣れてませんので…。

相手に付け入る口実になるような事は排除しておきたいのです」

「…妥当デスワネ。

ワタクシ達は存在自体が忌諱さてれマスカラ、どんな言い掛かりを付けられるか分かりマセンワ。

納得は出来ますが、気に入りマセンワネ」

「ご理解感謝致します」

「まだまだ私の理想は遠いなぁー…」


タルトは肩を落として、落ち込んでいる。

バーニシアではシトリーが普通に町を歩いても誰も気に止めない。

寧ろ、歓迎されるほうが多い。

だが、他国では悪魔や鬼は恐怖の対象であり、町にいたら大騒ぎになるだろう。

たちまち、守備兵に囲まれるのがオチだ。

シトリーもそれは容易に想定できるので、気に入らないが受け入れたのである。


「では、詳細が決まりましたら後日、連絡を致します。

本日はオスワルド殿の叙勲祝いを開催しますので、それまでここでお待ちください」


会談を終え、客間でゆっくりと寛いでいるタルト一行。

その後に叙勲パーティが盛大に行われた。

様々な人から質問攻めにあったが、のらりくらりと核心は伏せて回答していく。

パーティ終了時には皆、疲れて用意された寝室に引き上げていった。

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