第48話 児童誘拐事件簿2

ここはアルマールの外れにある、一軒の屋敷のリビング。

いかにも、いかつい感じの三人組が寛いでいる。

タルトが見たら、テンションが高くて瞬殺される雑魚キャラとツッコミを入れそうな外見であった。


「お頭ー、これからどうするんです?」

「誘拐したはいいけど、町から出れねえんじゃ、どうしようもねえっすよ」

「そんなことは分かってる!

もうすぐ、商人の旦那が来て良い案を授けてくれるはずだ。

いいから、子供をちゃんと見張っとけよ」

「最初はびーびー、泣いてましたが今は静かなもんでさ。

地下室に閉じ込めてますし、子供じゃ逃げられませんぜ」

「まあ、そうだな。

だが、万が一もあるからな、警戒はしとけよ」


その時、屋敷の表に一台の馬車が止まった。

そこから恰幅の良い一人の男が降りてくる。

一見は太った優しそうに見えるが、その笑みには卑しさが含まれていた。

その男は三人のチンピラが寛いでいる部屋に入っていった。


「首尾はどうですかな?」

「これは商人の旦那ー、お待ちしてましたぜ。

子供は二人、誘拐して地下に閉じ込めてあります」

「それは結構。

子供たちは大人しくしてるかな?」

「最初は泣いてましたが、今は落ち着いてますぜ。

だが、二人目はあの聖女の学校の生徒らしく、検問が厳しくなってます。

これじゃあ、町から出られそうにないですが…」

「それは安心してください。

今は二重底の樽を作らせてます。

下に薬で寝かせた子供をいれて、上部に食料でカモフラージュ出来ます」

「さすが旦那だぜ!

それなら検問も簡単には突破できますぜ!」

「全くあの聖女のせいで、仕事がやりづらくなったものですね。

あの小娘が王に進言し、奴隷制度がだんだん、禁止になってきています。

本当に忌々しい!」

「旦那も表では大商人なんですから、奴隷を売らなくても良いんじゃないですかい?」

「それが高値で売れますからね。

それに欲しがるのは貴族階級ですから、良いコネになるんですよ。

今は表では買えませんから、価格も上がってますよ。

奴隷商売を止めたらあなた方も仕事が失くなってしまいますよ?」

「違いねえ、聖女様のせいで生きにくい世の中になったぜ」

「とにかく後数日で準備が出来ますので、ちゃんと見張っておいて下さいね」


奴隷商人はそれだけ言い残すと、さっさと馬車に乗って去っていった。

この男は表では、複数の町に店舗を持っており、食料品を幅広く扱っている大商人であった。

裏では武器でも奴隷でも何でも扱っている、いわゆる悪徳商人である。

顧客に貴族が多いため、多少の荒業も問題ない事から、どんどん私腹が増えていった。

アルマールにも町の発展を聞きつけ、出展していた。

この屋敷も別邸として購入し、地下室を奴隷を閉じ込められるよう牢屋に改修している。


「よし、お前らも聞いたな!

数日、見張れば大金が手に入るからな。

それに外でも問題は起こすなよ。

必死で探してるらしいから、疑われるような事をしないようにな」

「分かってますぜ、お頭!」


それから、二日後にチンピラのお頭がリビングで酒を飲んでいると、買い出しに出掛けた部下が慌ただしく帰ってきた。


「お頭ー!見てくれよ!

買い出しの帰りにハーフの小さい女の子が薄暗え道を一人で歩いてたから、捕まえて来たぜ」

「なんだと!

問題起こすなって言っただろうが!」

「いやっ、周りに誰もいなかったし、大人しい奴で誘拐が楽だったですぜ。

後は馬車で運んだからばれちゃいないって!」

「まあ、もう済んだことだからな。

でも、これで手当てが弾むかもしれねえな。

とりあえず、地下に放り込んどけ!」


部下たちは馬車から子供を降ろし、地下室に連れていった。

女の子はクスリで眠っており、運ぶのは簡単だった。

三人で奴隷が一人増えたことによる、報酬アップの前祝いを始めた頃、奴隷商人が数台の馬車を連れてやって来た。


「相変わらず馬鹿騒ぎをしてますねー。

ちゃんと奴隷を見張ってたんでしょうね?」

「安心してください、ばっちりですぜ!

それにさっき、追加でハーフの子供を捕まえたところです」

「何て勝手な事を…。

丁度、他の領地でも誘拐騒ぎがあったようで、聖女達は揃って出掛けたそうです。

そのもう一人がバレる前にも運んでしまいましょう」

「それは良いタイミングでしたね。

俺達とは関係ねえけど、聖女から見たら関連性があると見えたのかもな」

「では、表に細工した樽がありますから、運んできてください。

奴隷をクスリで眠らせて、樽にいれてしまいなさい」

「了解でさ!

よし、お前ら行くぞ!」


チンピラ達はテキパキと言われた指示をこなしていく。

子供も一人だけ多少の抵抗があったが、あっさりと眠らされてしまった。


「ふむ、獣人の子供が二人とハーフが一人ですか。

ハーフは容姿によって意外と高値が付きますからねえ。

この子は期待できそうですよ」


奴隷商人は眠った子供達を見て満足そうだ。

その後、屋敷からは大きな複数の樽と悪そうな男達を乗せた馬車が走り去っていった。


翌日の夜。

オスワルドの領地の隣にある子爵領に馬車の姿はあった。

しかも、その領主であるジャン・ドゥ・ユルゲス子爵の館であった。


「おお、待っていたぞ!

商品は無事に持ってこれたようだな」

「ええ、勿論です、ユルゲス様。

まずは商品をご覧ください」


奴隷商人が指示するとチンピラ達は樽から、子供を取り出した。

まだ、眠ったままの子供達を地面に寝かせた。


「これは…ハーフの女の子を三人か。

なかなか可愛らしい子ばかりではないか!」

「喜んで頂いて何よりです。

では、値段の交渉ですが…」

「交渉などいい。

依頼した倍を払おうではないか!」

「では、これで取引は成立ということで宜しいですかな?」

「勿論だ!

早く手続きせんか。

私はこの子達を早く愛でたいのだ」

「では、こちらの書類に署名を…」

「…これで良いか?」


奴隷商人は子爵の署名を確認して、満面の笑みを浮かべた。


「ええ、これで結構です!

これは貴方様の死刑執行書とでも言えるものだったのです」

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