第26話 幕間 リーシャの大冒険

リーシャは隣の村に向けて竜車で移動をしている。

最初は歩いて向かっていたが、行商の途中の竜車に乗せて貰ったのだ。

タルトからの手紙を隣村の村長に届けるようお願いされたのだ。

この街道は治安も良く、距離も近いことから初めて一人でお使いに行くのだ。


「ふんふんふんふん」


良い天気で風も気持ち良くリーシャは鼻歌を歌っている。

隣で御者をしながら歌に聞き入っているのが、商人のお爺さんである。

孫を見るように優しく見守っているようである。

あと荷台に警護としてのハンターが二人乗っていて、計4名の旅路である。


「巫女様は歌がお上手なのね」


女性のハンターがリーシャに声を掛けた。

タルトのお世話をしているので、町では聖女の巫女として認知されている。


「すこしはずかしいです.....。

タルトさまからおしえてもらったうたなんです」

「聞いたことのない曲調ね。

歌詞もよく分からないけど、元気が出そうな感じね」


リーシャが歌っていたのは、アニソンである。

タルトがお風呂などで歌ってるのを聞いて、お願いして教えて貰ったのだ。

リーシャがいるだけで竜車は和やかな雰囲気に包まれたいた。


その百メートルくらい後ろを怪しい二つの影が動く。

竜車から付かず離れずの一定の距離を保ったまま尾行している。


「放っておいてもいいんじゃナイカ?」

「駄目だよっ!

リーシャちゃんに何かあったらどうするのっ!!」


タルトとカルンであった。

リーシャが心配で付いてきたのである。


「最近、戦い方も教えてるから大丈夫ダロ。

リーシャは筋が良いから結構強いゾ」

「急に強い魔物が現れるかもしてないし、大盗賊団もいるかもしれないしっ!!」

「ソレナラ一緒に行けば良いじゃネエカ.......」

「初めてのお使いは一人が良いんだよっ!!

そこに感動があるんだからっ!!!」

「意味分かんネエヨ......」

「ほらあんなに成長した姿は見れないよ!」

「いつもと変わんネエヨ.....。

あんまり近寄ると気付かれルゾ。

人間より鼻も耳も良いからナ」


リーシャは獣人とのハーフなので五感が鋭いのだ。


「それは大丈夫!

音も臭いも魔法で向こうに届かないようにしてるから。

光も屈折させて姿も見えないよ!」

「スゲエ魔力と技術の無駄使いダナ......」


そんな事も露知らず上機嫌で旅を続けるリーシャであった。


ピクッ


その時、リーシャの耳が何かを捉えた。


「.....なにかきます。

ふくすうのまものかもしれません!」


商人はすぐに竜車を停め、ハンターが荷台から降りて戦闘体制に入る。

森の中から複数のフォレストウルフが現れた。


「少し数が多いか.....。

アン、支援を頼む!」

「分かったわ、デイビスも気を付けてね!

巫女様とお爺さんは隠れてて」


アンとデイビスはハンターとしては腕が良い方だ。

この行商の警護として雇われている。

アンが魔法で後方支援しデイビスが前衛を担っている。

フォレストウルフ達は竜車の後方から現れたので二人は竜車を守るような陣形を取った。


「ファイアボール!!」


アンが放った火球が先頭の魔物を燃やした。

横にいたもう一匹が飛び出したがデイビスが一太刀にした。

二人が応戦してるときに前方から更に2匹現れた。


「まずいわ、前にも出てきた!」

「何だとっ!?

どちらかが抜けたら後ろも持たないぞ!」


後方も数が多く二人でやっと抑えていた。


「だいじょうぶです、リーシャがいきます!」

「お嬢ちゃん、無理してはいかん!」

「だいじょうぶです、たたかえます」


商人の制止を振り切ってリーシャが飛び出した。

それを見て慌てたのがもう一人いる。


「ああああああああっ!?

リーシャちゃんが戦おうとしているっ!

直ぐに助けないとーーーーーーっ」

「落ち着けっテ。

あんな雑魚に負けねえからじっと見テナ」


飛び出そうとするタルトを必死にカルンが抑えている。


リーシャは自分を落ち着けさせた。

カルンに教えて貰ったことを思い出していた。


「エアクロー!!」


リーシャの指の先に真空の爪が現れた。

左のフォレストウルフが突っ込んできたので、避けつつ一撃を加えた。

踏み込みが足りず、傷は浅かったようだ。


「ちゃんとたたかえる.....」


獣人は身体能力が人間より高い。

リーシャもそれを受け継いでいるのだ。

次に二匹同時に襲いかかって来たが、落ち着いて迎撃した。

フォレストウルフの攻撃はカルンに比べたらとても遅く感じた。


「よしっ、そこだ!ほら避けて反撃!」

「イイゾ!練習通りダ!

落ち着いて戦えば勝てるゾッ!!」


後ろの二人も盛り上がっていた。

いつでも助ける準備だけして応援している。


リーシャは攻撃を避けながら反撃するが、威力が弱く致命傷を与えられない。

フォレストウルフは左右から襲いかかってきた。

それをギリギリで避けて二匹の後ろ足に一撃を与えた。

相手の勢いを利用することで後ろ足に重症を負わせ、動きを封じた。

その隙を逃さず両手に全力で魔力を込めた。


「エア.....ブレイカーッ!!!」


「あれは私の.....」

「どうしても覚えたいって言い出しテナ」


全力の魔力を込めた魔法が動けない二匹を襲った。

真空波がフォレストウルフを切り裂いた。


「大丈夫っ?

もしかして一人で倒したの?」


アンが駆けつけ、戦闘が終了していたのに驚いた。


「さすが聖女様の巫女だね。

こんなに小さいのに二匹も倒すなんて」

「偉いのお、お嬢ちゃん。

守ってくれてありがとのぉ」

「えへへへ」


皆に誉められて嬉しそうなリーシャであった。

タルトのように皆を守れるようになりなかったのだ。


「うううううううぅぅっ......。

リーシャぢゃん、偉がっだよ~」


タルトは大泣きであった。


その後は何事もなく目的地に着き、村長へ手紙を渡した。

そのまま別の行商と一緒に帰ってきた。

リーシャが報告するためにタルトの部屋に入ってきた。


「ただいまです、タルトさまー」

「お帰りー、リーシャちゃんっ!!

頑張って偉かったよーー!!」


入ってきたリーシャをタルトが抱きしめた。

周りにはいつものメンバーが揃っており、ご馳走も並んでいた。


「これは???」

「初めてのお使いを達成できたお祝いダッテサ」


カルンがリーシャの頭を撫でながら説明した。


「ソレに良い戦いダッタゼ。

教えたことをちゃんと実践出来てタナ」

「??。

なんでそのことを.....,」


いつでも見守ってくれてる事に気付き、嬉しくなったリーシャであった。

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