絵里香 大久保

 爆音は絵里香と大久保の元にも届いた。


 足を止め、二人、顔を見合わせる。


 皮肉にも、この時は陰りのない、月明かりが充分届く場所にいた。お互いの表情が照らし出される。


 驚き、それから痛みと悲しみ、そしてまだ何かに期待するような目――。


 しばらく耳を澄まして別の音、続く音を探した。


 だが、悲しいほどに無音だった。


 絵里香にはわかった。


 梨沙と阿田川は、死んでしまった……。


 大久保も感じたらしい。しだいに俯いていく彼の顔が、震えていた。


 「行こう……」自分でも驚くほど掠れた声で絵里香は言った。


 頷き合う。


 その後は、二人とも無言で進んだ。


 声を出したら泣きはじめてしまうかも知れない。それが、怖かった……。

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