第5車 動き出す電車と心3

仕事をいつもより早いペースで進めて今日は帰りにお気に入りの洋服屋さんをチェックしに行こう。秋になったし新作も気になるな。

ついでに次の日曜日に来ていく服もいいのがあったら買おうかな。ついでなんて言ってるけどこっちが本命かもなってところまで考えて考えるのをやめた。少し顔が赤くなってしまっただろうか?見られて・・・ないな。よし。

頭の中で自己完結して次の仕事に取り掛かる。

ほどなくして順調にタスクが進み今日も定時で上がれそうだ。


「この時間ならまた電車出会えるかも・・・。」


なーんて淡い期待を抱いていつもなら憂鬱でどこかで時間を潰すような満員電車の時間もどこか楽しく思えた。

そんな思いとは裏腹に、今日はいないらしく姿が見えない。

そりゃそうか。会社員でもなければ毎日決まった時間の電車になんてそうそう乗らないよな。少し凹みながら電車から降りると耳障りのいい聞き覚えのある声に呼び止められた。


「・・・る!薫だろ?」


「あれ?和也じゃん。どうしたの?珍しいじゃん、こんなところで会うなんて。」


「おー。最近この辺に引っ越してきたんだわ。」


「へー。私もこのへんなんだよね。ご近所さんかもね。あ、そうだこのあと暇?ちょっと付き合ってよ。」


「いいよ、どこ行く?」


「改札出てすぐのflowerってお店。お気に入りのお店で新作チェックも兼ねて行こうと思ってるんだよね。」


「りょうかーい。そしたら行くべ。」


「やった、荷物持ちゲット!」


「はぁ?声かけなきゃよかったな。」


「冗談、冗談だって!半分は。」


「そうかそうか・・・って半分かよ!!」


「あはは。」


ごちゃごちゃ言ってる和也を尻目に私は目的地へと向かうことにした。

それを見ている人物が居るとも知らずに。

駅から少し離れたところにお店を構えているflower。アンティーク調の店内とゆるふわ系の可愛い洋服たちがお店の雰囲気とマッチしていてくるだけでも癒される空間だ。レースがあしらわれている洋服やパステルカラーの服などが主な商品だ。

昔からここの服が大好きで特別な日に出かけるときはここの服と密かに決めているのだ。あまり甘すぎず、カジュアルで可愛い。控えめなレースが特に。

男の人もそんなに嫌いじゃない、と思う。


「ねぇ、これとかどう?」


「色も淡くてそこまで派手じゃないし薫はそれくらいの色味がちょうどいいとは思うけど俺はそれならこっちのほうがいいかな。」


そう言ってあてがわれたのは少し落ち着いたオレンジ色で

おとなしめにレースがあしらわれたワンピースだった。

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