色のついてない何もない世界

綿麻きぬ

目を閉じて、耳をふさいで、思い出の色

 ふと、顔を上げる。そこにはいつも通りの世界が広がっていた。


 色のついてない何もない世界。


 その世界はさ、感じれない。


 考えてみなよ、子供の頃あれだけ心に響いてた曲がもうただの音の羅列にしか聞こえない。凄く楽しんで読んでた話がただの文字だ。


 いつからだろう? こんなに味気ない乾燥した世界になったのは。


 どうやったら音は響きますか? どうやったら文字は楽しめますか?


 きっともう楽しめないんだろう? だって僕は成長したのだから。これを成長と言うんだろ?


 こうやって感受性を殺していく、あの興奮を消していく、思い出の中だけで生きていくんだ。


 昔見ていた色とりどりな世界がもう一度見たい。あの消えていった世界が見たい。


 もしかしたら消えてないのかも知れない。けれども、消したようなものだ。


 だから取り戻すために色々した。あれをやって、これをやって、結局何もしてない。


 まるで生き急いでいるみたいだ。まるでじゃないな。生き急いでいる。


 あの色づいていた世界を取り戻すために。


 あれだけ色とりどりだった世界はどこに消えたの?


 あの美しい世界をもう見れないの?


 そんなの嫌だよ。でもさ、もう見れないのは分かってる。


 だからもう諦めるよ。最後に見たかったけどそれすら叶わない。


 目を閉じて、耳をふさいで、思い出の色で生きるよ。


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色のついてない何もない世界 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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